顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。第4回はリスク管理です。「中小企業の経営で一番大事なことは、成長でも利益を出すことでもない。会社を存続させ、社員と家族を守ること」と断言する古田土氏。そのためのリスク管理の大切さを紹介します。
私は、月曜日は黒っぽいスーツにワイシャツは白と決めています。月曜日の夜にお通夜が入る可能性があるからです。お通夜と告別式の連絡が金曜日の夜か土曜日に会社に入った場合、誰も気付くことなく月曜日になってから知るということがあります。
会社に黒い服と白いワイシャツを準備しておけばよいではないかという意見もあると思いますが、うちの会社には社長室もなければ、社長専用のロッカーもありません。また、会社から直接お通夜に行けるとも限りません。毎日お客さまとの約束があるため、取引先の会社からお通夜に直行することも多いのです。そこで黒いネクタイだけ会社に保管し、それを持って移動し、お通夜の会場へ行くタクシーの中か、電車の中でネクタイだけ取り換えて出席するのです。
なぜこんな話を書いたかというと、「備える」ことの重要性を伝えたかったからです。めったに起こらないことでも、備えることで事故やミスを未然に防いだり、恥をかかなくて済んだり、命を守ってくれたり、社員を守ってくれたり、会社を守ってくれたりします。
前述したように、会社経営の重点を損益計算書中心の成長性から貸借対照表中心の健全性に置くこと。損益計算書は当てになりません。今期、過去最高益を出しても来期は大赤字にもなります。
また、社長が急死して倒産したという話はよく聞きます。社長1人で会社が成り立っている中小企業がたくさんあるからでしょう。決算書における健全性の目安は、前回解説した通り自己資本比率です。理想は50%。少なくとも30%は必要です。
自己資本比率の高い会社は、借入金依存度(総資本に占める借入金の割合)が低いからです。なぜ、借入金が多いと健全な経営といえないのか。それは、毎年の返済額が多くなるからです。
借入金の返済原資は、長期的には、税引き後利益-配当金・役員賞与+減価償却費です。借入金を返済しようとすると、利益を多く出さなければならなくなり、売り上げの拡大に走ることになります。その結果、経費が増え、在庫や売上債権が増え、かえって資金繰りが苦しくなります。
借入金がないか、あっても少なければ、利益を多く出す必要がなくなり、売り上げを確保するための価格競争に参入しなくても会社を維持できます。多くの中小企業は、借入金依存度が高いのに借入金が減っていません。
それは、銀行が融資しているからです。しかし、この先もずっと融資してくれる保証はありません。不良債権が増えたり、有価証券の相場が急落したりして、銀行自身の自己資本比率が下がれば、優良顧客への貸付金を回収して、銀行が総資産の圧縮に取り掛かることもあり得るからです。
会社を守るのはお金です。現金・預金を多く持つように心がけましょう。理想は総資産の30%です。くどいようですが、借入金は減らしましょう。限度は総資産の30%と考えてください。まず現預金と借入金のバランスをとって、実質無借金にします。その後、借入金のみ減らしていって、自己資本比率50%をめざしましょう。
支払手形も、小切手もないほうがいい
次に、貸借対照表にある個々の科目のリスク管理です。現金がいくら手元にあるでしょうか。優良経営で知られるある企業さんでは、千円札で3000万円以上の現金を常に持っているそうです。どこにあるのかは、社長さんだけしか知らないそうです。いざ大災害が起きたとき、社員に配るため、千円札で用意しているのです。1万円札では配っても使えない可能性があるからです。
あなたの会社は、得意先の倒産に備えて、倒産防止共済掛金を払っているでしょうか?今は800万円まで掛けられます。掛金額の10倍まで借りられます。最高8000万円が無担保、無利子です。ただし、掛金額は没収されます。
支払手形はなくしましょう。倒産につながる大きなリスクになります。小切手もないほうがよいです。事故が起きる可能性があるからです。中小企業で一番大事なことは成長することでも、利益を出すことでもありません。会社を存続させ、社員と家族を守ることであると私は確信しています。
※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです