顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。前回は経営の目安となる売上高経常利益率の目標を定めるには、粗利益率から考えればいいことを解説しました。それでは、粗利益率はどのように考えればいいのでしょうか。今回は、経営者の成すべき粗利益率の向上方法について解説します。
粗利益と人件費、経費、金利の関係とは
中小企業が元気になるためには、お金をもうけることです。この指標として損益分岐点比率について考えてきました。
次に、損益分岐点の見方についてです。
損益分岐点比率は、固定費÷粗利益
労働分配率は、人件費÷粗利益
となり、どちらも分母に粗利益があります。粗利益は固定費と経常利益に分配され、固定費を分解すると、人件費、経費、金利になるわけです。
中小企業は労働集約的な業態ですから、労働分配率が高くなっています。会社の業績を良くするためには、労働分配率を低くしなければならないので、多くの会社では人件費を変動費化するために、正社員を少なくし、外注化、パート化、出来高給などにして人件費を抑えるわけです。
大企業の人員削減によるリストラも、この手法です。しかし、中小企業では、そもそも人が集まりません。縁あって働いてくれている大事な社員で会社が成り立っています。会社が支えるべき、社員の家族もいます。経営者はまず、社員と家族を守らなければなりません。
生産性を高めるには、粗利益をアップさせること…
そこで視点を変えて、粗利益÷固定費と考えると、「固定費生産性」となります。粗利益÷人件費は労働生産性になります。すなわち、粗利益を分母にすると“分配”ですが、分子にすると“生産性”になります。
生産性を上げるためには、固定費の削減ではなく粗利益をアップさせることです。固定費はコストではなく、パワー(力)と考えます。経営者の仕事は、人・モノ・カネという会社の資源を生かして、粗利益を増やすことなのです。
全社員が創造性を発揮して粗利益を増やせば、人件費を増やしながら、労働生産性は高くなります。経営者と社員が一体となって、粗利益のアップと人件費以外の経費の最小化をすれば経常利益はアップします。
経常利益のアップは人件費のアップになり、社員の給料、賞与や雇用の拡大にもつながります。経営者の評価は固定費生産性、社員の評価は労働生産性という考え方です。
粗利益率をアップさせるには、社員の創造性を発揮させること
では粗利益をアップするには、どうすればよいのでしょうか。売り上げをアップすればよいのは当然です。しかし売り上げのアップのみを追求すると、前述したように経費も増えてお金がなくなります。
売り上げの増加は、売上債権(売掛金・受取手形)や棚卸し資産の増加、設備・人材の投資を伴い、短期・長期の借入金も増えて、借入金返済額の増加になります。損益計算書上はもうかっているように見えても、キャッシュフローを悪化させます。資金の蓄積ができません。
資金の蓄積とは、借入金残高が減り、現金・預金が増えることです。お金を増やしながら、粗利益と経常利益を増やすには、粗利益率を改善することです。売り上げが増えなければ売上債権も棚卸し資産も、借入金も増えません。利益は、借入金の残高を減少させ、預金を増やします。目標は実質無借金(預金≧ 借入金)です。粗利益率をアップするには、また経費のムダをなくすには、全社員の創造性が必要です。
全社員が頭を使って仕事をすれば、粗利益率の高い商品やサービスの開発、変動費である仕入れ・外注費のコストダウンもできます。中小企業がめざすべきなのは、固定費の削減ではなく、固定費の活用による粗利益のアップです。売り上げ重視より、粗利益、経常利益重視です。
当然のことですけれど、販売なくして事業なし、売り上げのアップなくして、成長はあり得ません。しかし膨張拡大ではなく、コツコツと安定成長することで、しっかりとお金をためて、社員と家族を守る経営をめざしましょう。
※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです