私は中小企業の経営において社員と家族が一番大切であり、お客さまは2番目であると考えていました。
法政大学の坂本光司教授は、1番目が社員、2番目が仕入れ先、外注先、3番目がお客さまであると、著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で言っています。しかし、中小企業では、全社員に社員が一番だと言うと、自分たちの都合を優先させたり、お客さまのことを真剣に考えて行動しなかったりする社員もいます。
お客さまとのトラブル、クレームで、社員優先の行動をとる上司も出てきます。「もっとお客さまのことを思って対応しろ」と言っても、「社長、うちは社員第一ですよね」という社員もいます。こういう現実があるからこそ、多くの中小企業経営者は社員第一主義を引っ込め、お客さま第一主義を方針に掲げているのです。
社員へのメッセージの重要性を再確認…
6年ほど前、タカヨシさんの50周年行事に招待されたときに高橋春義社長にお会いし、「会社はお客さま第一主義だが、社長は社員第一主義だよ」と教えていただき納得しました。会社とは社員です。社員は常にお客さま第一主義で行動し、お客さまに喜ばれ、感謝され、信頼される人間になり、お客さまにとってなくてはならない存在にならなければなりません。
社員の給与はその対価としてお客さまからいただくもので、社長が出すものではありません。
その一方で、社長は社員第一主義を社員に言い続けなければなりません。社員に対しては、一番大事なものは社員とその家族であり、2番目が外注先ですと話すのです。この社長の言葉は社外ではなく、社内の社員に発するものです。
社長と社員は、お客さまに対して「お客さまが一番大事で、我が社はお客さまのお役に立つためにこういうビジョンで仕事をしています」と全社員が一丸となり、分かりやすく伝えます。社長は社内に対しては、「社員とその家族が大事」と話し、社員満足度を高める経営をします。
「日本人は仕事が好きだが会社は嫌いだ」と主張する本が出ています。しかし、会社は熱狂的なファンになってくれる社員を1人でも多くつくることが大切です。会社から大切にされている社員は、お客さまを大切にします。会社が嫌いな社員が一生懸命働くとしたら、お金など物欲のためであり自己中心的な仕事の仕方をしますから、長期的には会社のためにならないのではないでしょうか。
社員満足は、社長1人の思いで実現できます。しかし、お客さま満足は社長1人では絶対に実現できません。社員全員で実現すべきものです。経営計画書の中の経営方針書には会社の未来像を描き、その中に社員の処遇として、「社員とその家族を大事にする日本的経営をする」と明記し、さらに具体的に何をするかを書くべきです。
社員が未来に希望を持てないような会社では、社員が会社を嫌いになってしまいます。社長は、社員が会社を好きになる努力をもっとするべきです。それが、社長と社員が一丸となっていい会社をつくることにつながっていきます。
※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです