強い会社の着眼点(第19回)
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公開日:2020.12.23
三福工業(ゴム・合成樹脂を用いた複合素材の製造・販売)後編
事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第23回は、三福(みつふく)工業の5代目社長の三井福次郎会長の後編。同社は、1867年に栃木県佐野市で創業して以来、150年以上の歴史を持つ。1979年に父から事業を受け継いだ三井会長は、2014年に息子の福太郎氏に事業を承継した。その後の経営への関わり方、新社長への評価、そして会社の未来について語ってもらった。
2014年、三井会長は福太郎氏が40歳のときに事業を承継した。その後、金融機関への引き継ぎのため5年間は三井会長も代表権を持ったが、その期間も実務は福太郎氏に任せ、一切の口出しをしなかったという。
そして、事業承継から5年後、2019年に自らの代表権を外した。今、三井会長は本社でなく、車で数分の距離にある佐野工場の会長室で過ごしている。月次の数字には目を通すが、経営に口出しをすることはない。社員たちは相談があれば会長室に来るが、三井会長が自分から働きかけることはしない。
会長室のリクライニングチェアに座り、窓の外から聞こえてくる工場の稼働音に三井会長は耳を澄ます。
「数字以上に、音を聞けば現場の様子が分かるんです。8月は新型コロナの影響で音が聞こえない日もありました。10月頃からはまた毎日音がまた聞こえるようになって、社員たちも忙しそうに働いています。あぁまた動き出したんだな、と、いい音だなぁ、と思って聞いています」(三井会長)
就任から6年の社長としての福太郎氏の仕事ぶりに関して、「やるべきことをしっかりやっている」と三井会長は評価する。
「創業から152年。当社は、米穀商から始まり、味噌・しょうゆ、運動靴、土木資材と事業の内容を変えてきました。何代も続く企業はみな、時代に合わせて変化しています。経営者は生き残るために、方々に新しい事業の種をまいているものです。先代がまいた種をどう育てるかが、社長の手腕です。これが伸びそうだと1つ決めたら、よそ見をせず一心不乱に育てることが大事です。コロナ禍で医療関係の需要が伸びています。まだ種の段階ではありますが、社長は今そこに目を付けて、力を入れているようです」(三井会長)
同社はインドを皮切りに、タイ、韓国にも合弁会社を設立し、現地でゴムや発泡体を製造、販売している。特にインドは好調で、安価な経費で付加価値の高い特殊なゴムを製造し、インドで販売するだけでなく、インドから中東アジアやアフリカに輸出している。福太郎氏は今、毎日のようにリモートで海外とも会議を行っているという。ここには、10代から培った海外経験の強みが生かされている。
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執筆=尾越 まり恵
同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。
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「事業承継」社長の英断と引き際