古田土経営(中小企業の会計、財務、経営指導)
事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第30回は、中小企業を中心に会計業務を担う古田土経営の創業者、古田土満(こだと みつる/「土」に「、」)会長。1983年に前身となる古田土会計事務所を設立し、現在では古田土会計280名、グループ全体で360人の従業員を抱える。2018年4月に、取締役だった飯島彰仁氏に事業を承継した。
古田土会長は水戸商業高校を卒業し、法政大学時代に「身に付けた簿記会計の知識を生かしたい」と考え、公認会計士を志す。新卒で監査法人に入社したが、大企業の監査を担当する毎日に、やがて疑問を感じるようになったという。
「大企業ばかりを相手に監査業務をしていましたが、監査というのは極論すれば“あら探し”のようなもの。自分には向いていないと思いました。プレッシャーばかりが大きく、ここで公認会計士の資格を持つ自分が役に立てることはないと感じるようになりました」(古田土会長)
30歳で独立し、個人事務所の開業を決意する。大企業の監査業務から一転、中小企業を担当するようになった古田土会長は、中小企業家同友会や勉強会などで多くの中小企業の経営者と出会い、話を聞いた。
「大企業との大きな違いは、中小企業の経営者のほとんどは個人保証をしてご自身の財産を担保提供しながら会社経営しているということです。また、中小の場合は社長が1人で採用から教育、財務、営業までこなしている。オールラウンダーであり、財務の専門家ではありません。それゆえに、お金のもうけ方、残し方を数値的に捉える専門知識を持たず、多くの人がカンと経験で経営をしています」
そんな中小企業に対して必要なのは、数字をしっかり分析しアドバイスすることだと古田土会長は考えた。「どこに問題点があり、どう改善していればよいのかを分析しアドバイスすることに力を入れようと考え、中小企業に適した商品を開発していった」という。
古田土満(こだと・みつる)
1952年生まれ。83年、東京都江戸川区で古田土公認会計士税理士事務所(現税理士法人古田土会計)を開業。「古田土式月次決算書」と「古田土式・経営計画書」を武器に、経営指導と会計指導を両展開。グループ全体で約3500社の中小企業の顧客を抱える。2018年に社員の飯島彰仁氏に事業承継し、会長に就任した
1991年に開発し、今多くの中小企業に広めているのが「古田土式・経営計画書」だ。数字だけでなく、どういう会社にしたいのか、夢や理念、方針を明確にしていくためのツールになっている。
「経営計画書は、会社の未来を作っていくもの。思いは強くても、中小企業の経営者はそれを具体的な方針として明文化できていない場合が多い。有名な経営コンサルタントに依頼すれば、多額の費用がかかる。我々は会計の月額顧問料5~6万円で会計業務だけでなくこれらの経営計画書の作り方の指導まで行っているため、非常に喜ばれています」(古田土会長)
開業当初は「30人くらいの会社になれば」と漠然とした目標を掲げていたという古田土会長だが、口コミでサービスの質のよさが広まり、営業活動をせずとも年間150~200社のペースで新規顧客が増えているという。21年7月にはM&Aによりグループ企業を増やし、現在はグループ全体で約3500社の顧客企業を抱えている。その多くは売り上げ5000万円~50億円ほどの規模の企業だが、中には100億円を超える企業もあるという。業種もさまざまで、製造業、小売業から病院、お寺まで幅広い。
公私混同していては会社は成長しない…
中小企業に役立つ会計指導、経営指導を展開するのと同時に、古田土経営を世の中の中小企業のモデルとなるような会社に育てたいと考え、経営してきた古田土会長。「自分自身も中小企業の経営者として、リスクと責任を負いながら会社経営をしてきた。だからこそ経営者の気持ちがよく分かるし、机上の空論ではなく、より実践的なお手伝いができている」と自負している。
古田土経営が志す、目標とされるような会社とは、社員と社員の家族を大事にする経営だ。
「経営者だけが高い報酬を得るような会社にはしない。私の給料も社長の給料も、月次の試算表はパート社員含め、全員にオープンにしています。総勘定元帳は社員たちの休憩室に置いてありますから、誰もがいつでも見られる状態にしてあります。ここ10年間は平均3億円以上の経常利益を出していますが、私の報酬は月に200万円で、どれだけ会社が利益を上げても、もう10数年間上げていません。
また、8人の障がい者を雇用しており、1人は重度の知的障がい者、6人は精神障がい者、1人は身体障がい者です。働きやすい会社でなければ精神障がい者が働くことはできません」(古田土会長)。16年には経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞している。
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中小企業の経営を支援するツールとして1991年に開発した「古田土式・経営計画書」。開発以来、改良を続けながら多くの顧客企業が導入している。古田土会長もこの経営計画書に基づいた会社経営を続けてきた[/caption]
中小企業の経営について、古田土会長は次のようにアドバイスする。
「中小企業の経営に最も大事なのは、会社を大きくすることやもうけることではなく、いかに自己資本比率を高くして、現預金(会社が保有する現金・預金類を一括したもの)を持つかです。自己資本比率を100%にすれば、無借金で債務ゼロの状態。そうすると、お金の使い方さえ間違わなければ、現預金がたくさんたまります。多くの中小企業は、節税ばかりに力を入れ過ぎて、自己資本比率が低いため、常に不安定な経営状況を強いられています。
古田土会計グループは自己資本比率90%、自己資本22億円、金融資産23億円、無借金です。創業以来赤字は1度もなく、37年連続増収でした。創業39年目ですが、去年初めて減収になりました。しかし、今期は過去最高の売上総利益増加約2億円が見込まれます」(古田土会長)
さらに、古田土会長は、「中小企業は公私混同している会社が多い」と指摘する。
「働いていない親族に給料を払っていたり、社長が自分だけ高い報酬を受け取っていたりする会社が多い。社員は気付きますから。それでは、本当に社員に信頼される会社は作れないと思います。ただ、社長本人は気付いていないんですよ。親の時代は公私混同が当たり前ですから、それを見て育ったためにそれが当たり前だと思っているんです。後継者も、能力があろうがなかろうが、子どもが継ぐのが当たり前だと思っている。それでは会社は成長しません」(古田土会長)
古田土会長には2人の息子がいるが、早いタイミングから「次期後継者は、社員の中から選ぶ」と決めていた。事業承継については、自社の経営計画書に早い段階から方針を固め、盛り込んできた。
方針の1つは、65歳までに後継者に会社を託すことだ。
「時代に合った経営をするためには、社長は若くなければなりません。何より社員が安心します。65歳を過ぎたら社員たちも、万が一社長が体調を壊したらこの会社はどうなるんだと不安に思うはずです」
そして、社員から後継者を選ぶこと。
「自分の子どもたちには、小さい頃から、こんなに面白い仕事はないと伝えてきましたから、長男は古田土経営に入社し、今年中に税理士の資格を取得する予定です。次男は大学院で勉強中。息子を後継者にしないのではなく、最も優秀な人を社員から後継者にする、と決めたのです。だから、もちろんこの先、息子が優秀であれば社長になることがあるかもしれませんが、それは他の社員と同じ条件ということです」
18年に飯島氏に事業を承継し、会長に就任。古田土経営には会長、社長のほかに役員が6人いるが、親族は1人もいない。古田土会長の理想とする中小企業の事業承継の形を実現させたのだ。