現社長の飯島彰仁氏は2005年、30歳の時に古田土経営に中途入社した。
「私のセミナーを聞いて、古田土経営の理念にほれ込んだからだと転職の理由を話してくれました。最初は一般社員として働いており、すぐに次期後継者として頭角を現したわけではありません。30代の仕事ぶりをずっと見ていて、彼が40歳になった時に取締役にしました。頭角を現してきたのは、その2~3年前です。取締役の就任の際に、社長になるかと聞いたら、ならせてください、と言ってくれました。2年の準備期間を経て、42歳で社長に就任しました。
自分の息子の場合は30代でもいいけれど、社内から選ぶ場合は40代が適当だと思います。息子であれば未熟であっても社員は受け入れてくれるかもしれませんが、社員の場合は実績がなければ認めないでしょう。実績を作るにはやはり10年くらいはかかります」(古田土会長)
「先代を立ててくれること」が大事な条件
古田土満(こだと・みつる)
1952年生まれ。83年、東京都江戸川区で古田土公認会計士税理士事務所(現税理士法人古田土会計)を開業。「古田土式月次決算書」と「古田土式・経営計画書」を武器に、経営指導と会計指導を両展開。グループ全体で約3500社の中小企業の顧客を抱える。2018年に社員の飯島彰仁氏に事業承継し、会長に就任した
古田土会長は、後継者の条件を、次のように整理する。
1つは、創業から大事にしてきた経営理念を受け継いでくれること。理念にほれ込んで入社した飯島氏は、この点は最初からクリアしていることになる。
2つ目の条件は、売り上げを上げる能力があること。「新しいお客さまを増やしたり新商品を開発したりする能力があることが大事です。後継者はコストカッターではうまくいきません」(古田土会長)
3つ目の条件は「前任社長を立ててくれるかどうか」だという。
「これが私にとっては一番大事なことでした。いくら能力があっても、私を立ててくれなければ、その後会社に関わるときに針のむしろですからね。新社長は私と一緒に仕事ができる人でなければなりません。
親子承継をすると、子どもが親を立てずにケンカになるパターンが多いですよね。子どもにMBAなど経営の学問だけを学ばせて、人間関係の構築の仕方や人としてのあるべき姿を教えていないからではないでしょうか。規模の小さな会社は銀行もそんなに助けてくれるわけではありません。だからこそ、社内の団結が大事です」(古田土会長)
4つ目の条件が、社員を大事にする経営をすること。
「経営者が自分だけ高い報酬を得るのではなく、利益を出して世間相場より10%位高い給与、賞与を払う。私も飯島も、決して能力が高いなんて思っていません。会社が伸びたのは、役員をはじめ社員たちが私たちの足りないことを補ってくれたからです。私は70歳になったら給料を半額にする予定です。社長のときと同じ報酬をもらうのは高過ぎると思うからです。このような事例を自分で作っておかなければ、後継者が同じ道をたどれなくなります。私が会長になって高い報酬を受け取り続けていたら、後継者も同じように高い報酬を受け取るでしょう」(古田土会長)
社員を後継者にする場合、問題になるのが株式の譲渡だ。株式を保有するためには多額のお金が必要になる。そこで、古田土会長は事業承継のタイミングで株式を役員、幹部を中心に社員に額面で譲渡した。
「株式を購入するお金も会社で貸し出しました。金利は0.1%ほどにして、配当は5%です。今、私と飯島はそれぞれ議決権の14%しか株式を保有していません。トップが欲を出さないことが大事だと考えました。古田土経営と古田土会計で15億円ほどの純資産がありますが、それを社員に分配し、みんなの会社にしたかった。もちろん、全部の中小企業で同じことができるとも、するべきだとも思っていません。我々は創業から時間をかけて理念を浸透させ、社員たちが一枚岩になっているからこそ、このようなやり方が可能だったのです」(古田土会長)
報・連・相は不要、疑問は自分から聞きに行く…
今は、意思決定はすべて飯島氏に任せ、古田土会長が経営に口を出すことはないという。みんなの前に出て何かを発表することもない。
「承継のタイミングで、私は飯島に報・連・相をする必要はない、自由にやってくれと言いました。すべての伝票を私は毎日見ていますから、お金の流れはそれで把握できます。疑問があれば、私のほうから聞きに行くから、と伝えました。
相手に報・連・相をさせようとすると、してこなかったときにイライラするでしょう。それはお互いにとってよくないですよね。だから、疑問があれば自分から質問に行けばいいんです。そうすれば、変なストレスをためずにすみます。
息子や娘に承継した人がよく私に、息子が全然報告してこないんだ、と悩みを相談してきますが、こちらから質問に行くから、と言っておけばいくらでも自分から質問できます。これも経営の1つのコツです」
[caption id="attachment_41517" align="alignright" width="200"]
2018年4月から社長を務める飯島彰仁氏(写真右)。「時代に合った素晴らしい経営で、会社を成長させている」と古田土会長は高く評価している[/caption]
この3年の飯島氏の社長ぶりを、古田土会長はどのように評価しているのだろうか。
「今の時代に合った素晴らしい経営をしていると思います。インターネットでの宣伝やYouTubeチャンネルの開設、また、新しいアプリケーションやクラウドツールなど次々に新しい商品やサービスも開発しています。彼が社長になってから、若い幹部もよく育っています。
時代によって経営者に要求される能力は違います。彼だからこそ、今当社は成長発展できています。3年前、彼に譲った時は215人だったスタッフが今は280人に増えました。我々の使命は、日本中の中小企業を元気にすること。仲間が増えたことで、よりその理想に近づけています」(古田土会長)
飯島氏は今、社員たちとプロジェクトチームを組み、社員にとってどんな会社が幸せな会社なのかを話し合い、まとめているところだという。それがまた、今後の経営計画書に組み込まれ、古田土会計の未来を作っていく。
「これまでは私の思いを中心に、方針を決めてきました。急に方針が変わると社員が混乱するため、最初の3年は、大筋の方針を引き継いでもらいました。3年たったので、これからどんどん飯島のカラーが色濃く経営方針に表れていくでしょう。みんなでいい会社を作っていってほしいと思います」(古田土会長)
社員から次期社長を選べる組織を作ってほしい
これから事業承継を控えた中小企業に、アドバイスをもらった。
「今後、少子化で後継者不足がますます深刻になっていきます。社内から後継者を出していける経営をしなければ、会社は続いていかないでしょう。そのためには、きちんと経営計画書で方針を明らかにすることです。そうすれば属人的にならずにすみますから。
社員の中に経営者になれる人がいない、と愚痴をこぼす社長もいますが、それは自分が育てなかったからです。後継者となるべき人を採用し、育てるのは経営者の重要な仕事です。自分が経営者の仕事をしてこなかったからだと受け止めてほしい。
また、社員から経営者を選べる会社にするには、社員に個人保証をさせないために、財務体質を良くしておかなければなりません」
古田土会長は、今後の自身の道筋もすべて、経営計画書の中で明らかにしている。
[caption id="attachment_41518" align="alignright" width="300"]
事業承継後も、精力的に相談会やセミナーを開催する古田土会長。「経営計画書」を武器に、多くの中小企業を幸せにしている[/caption]
「75歳まで代表権を持ちます。これからは自分の持つ公認会計士の技術を生かした実務を一生懸命やっていきます。私自身、仕事が人生だと思っています。だから、仕事をしていないと張り合いがなくなってしまうんです。新社長に迷惑をかけないように、80歳までは働きたいと考えています。
今、悩みを抱えた中小企業のために、無料相談会も実施しています。39年間私が培ってきた経験やノウハウを伝えると、すごく感謝され喜んでもらえます。不安がなくなったと言ってくれる経営者も多いんですよ」(古田土会長)
70歳を過ぎたら、自分の強みを生かして、よりこのような中小企業のためになる活動に重点を置いていきたいと古田土会長は考えている。