部下のやる気に火をつける方法（第20回）トランプに学ぶ「シンプル イズ ザ ベスト」

　OKサインをどのタイミングで出すかを考えたわけではないでしょう。しかし例えば、「犯罪とドラッグがない国にするのだ」と言うときには、「crime」「drug」と肝となる単語を並べるたびに、このOKサインを出しました。体でリズムを取るかのようにサインを出すことで、聞き手の頭には、動作とともに非常にシンプルなコンセプトが頭に入ってくるのです。

　さらに聴衆を引き寄せたのが、問いかけです。例えば「ただ抽象論で言っているのではない。アメリカファーストのためにメキシコとの間に壁を造る」と言った場面を挙げてみましょう。

　トランプ氏が「Who makes the wall?（誰が壁を造るんだ？）」と聴衆のほうに手を広げます。聴衆が「Mexico（メキシコ）」と答えます。これを4回繰り返すのです。「Who makes the wall?」「Mexico」 「Who makes the wall?」「Mexico」……。こんな調子ですから、聞き手はだんだん麻酔にかかったような状態になり、自分たちの発する言葉で自分をさらに信じ込ませていきます。

　そして、演説の最後。どの歴代大統領も「God bless you, and God bless America」で締めくくりましたが、その定型の締めくくりの直前に彼は「We will make America 〇〇 again」というフレーズを5回も繰り返しました。

We will make America strong again.
We will make America wealthy again.
We will make America proud again.
We will make America safe again.
We will make America great again.

　「We will make America」と「again」は5回同じです。真ん中の形容詞が、strong、 wealthy、proud、safe、greatと変わりました。

　よく見てみましょう。5つともプラスの意味のある形容詞です。しかも崇高さがあります。強くて、豊かで、誇り高く、安全で、偉大なのですから、聞いた人は高揚感が出ます。アメリカはこんなに素晴らしくなる、そのためのアメリカファーストなのだ、と想起するようになるのです。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術（10）
◆ 部下にビジョンを伝えるときには、簡潔な言葉で伝えましょう。
◆ 言葉と同時に身ぶり手ぶりを加えるとインパクトが強まり、相手の心に残りやすくなります。

※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです