トレンドワードから効率化を読む(第7回)働き方改革で変わる時間外労働の上限について解説

働き方改革 法・制度対応

公開日:2020.03.18

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 政府が推し進める「働き方改革」によって、時間外労働に上限規制が導入されます。残業時間の上限規制については、導入されるのは知っていても、具体的な中身はよく分からないという方も多いのではないでしょうか。

 今回は、働き方改革によって、残業の取り扱い方がどのように変わるのか解説します。

働き方改革で時間外労働に上限が導入される

 働き方改革で導入される時間外労働の上限について、上限時間や導入される理由、導入時期を1つずつ見ていきましょう。

<時間外労働の上限は何時間まで?>
 時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がなければ、上限を超えてはいけません。臨時的な特別の事情がある場合であっても、原則である月45時間を超えられるのは、年間6カ月までです。時間外労働の上限は法律によって定められ、違反に対する罰則規定も定められています。

 なお、「臨時的な特別の事情」に関しては、後ほど詳しく解説します。

<なぜ、時間外労働に上限が導入されるのか>
 時間外労働に上限が導入される理由は、働き過ぎを防ぎ、ワーク・ライフ・バランスに基づきながら多様で柔軟な働き方を実現するためです。特に「働き過ぎを防ぐ」部分に焦点を合わせた施策といえるでしょう。

 その背景には、従来の日本社会における労働環境の問題点が挙げられます。

 時間外労働に対する報酬が支払われない「サービス残業」をはじめ、自殺や過労死、ストレス性の病気にかかる人々が増加している現状があります。ニュースでも深刻な問題として取り上げられるようになりました。

 これまで、法律上では時間外労働に対する上限がありませんでした。多くの問題が顕在化してきた今日、法律によって上限や罰則を定め、働き過ぎを防ぐ狙いがあるのです。

<いつから導入される?>
 既に大企業では2019年4月から施行されており、中小企業においても、2020年4月から施行が開始されます。中小企業の場合は、この規制施行が経営に支障を来すと考える経営者が多く、1年の猶予が与えられていました。

 ほかにも、特定の事業・業務には猶予が与えられていますので、それについても後ほど詳しく解説します。

時間外労働に上限が導入されるとどのように変わる?

 時間外労働に上限が導入される前後での違いを、簡単に表にまとめました。

 法定労働時間は変わらず、残業時間に法律上の上限が設けられることになります。また、違反に対して罰則も定められます。

 そのほかに知っておくべきポイントは、中小企業で月60時間を超えた場合の割増賃金です。

 大企業は導入前後で変わりませんが、中小企業は25%から50%に引き上げられます。時間外労働の上限導入時期よりも猶予がありますが、猶予は2023年3月末までとなる予定です。

「臨時的な特別の事情」について

 時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間ですが、「臨時的な特別の事情」があればその限りではありません。しかし、それでも守らなければならないラインは存在しています。

<臨時的な特別の事情とは>
 そもそも「臨時的な特別の事情」とはどのようなものでしょうか。「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない事情」して認められるものは、予算・決算業務、納期の逼迫(ひっぱく)、大規模なクレームへの対応などです。例えば、経理担当の月末対応や、緊急でリコール対応が必要になる場合などが挙げられます。

 特別の事情が予想される場合には、原則の限度時間を超える一定の時間を延長することが可能です。その場合は「特別条項付き36協定」を結び、延長時間を設定することになります。

 反対に、臨時的な特別の事情として認められないものとしては、特に事由を限定しない場合の業務都合や繁忙期などです。一時的、または突発的な事由でなければ認められません。

<臨時的な特別の事情がある場合でも守らなければならないライン>
 臨時的な特別の事情がある場合でも超えてはいけないラインは次の通りです。

・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)
・原則である月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで

 特別条項付き36協定で労使が合意する場合でも、このラインを超えることはできません。さらに「複数月平均80時間以内」は、2~6カ月のすべての平均で、80時間以内である必要があります。

時間外労働の上限が適用されない事業・業務もある

 時間外労働の上限は、大企業では2019年4月から導入済みですが、5年間猶予される事業・業務もあります。それぞれの事業・業務の猶予期間や、猶予後の取り扱いについて見ていきましょう。

<自動車運転の業務>
 2024年3月31日まで5年間猶予され、上限規制は適用されません。猶予後の取り扱いとしては、特別条項付き36協定を締結する場合、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。

 また、「月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」「原則である月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで」とする規制は適用されません。

<建設事業>
 2024年3月31日まで5年間猶予され、上限規制は適用されません。猶予後の取り扱いとしては、すべての上限規制が適用される予定です。

 例外として、災害の復旧・復興の事業に関しては、「月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」とする規制は適用されません。

<医師>
 2024年3月31日まで5年間猶予され、上限規制は適用されません。猶予後の取り扱いについて、具体的な上限時間などは今後、省令で定めることとしています。

<鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業>
 2024年3月31日までは5年間猶予され、「月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」とする規制は適用されません。猶予後は、すべての上限規制が適用されます。

<新技術、新商品などの研究開発業務>
 上限規制の適用が除外されています。ただし、週40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対して、医師の面接指導が罰則付きで義務付けられています。

時間外労働の上限導入に合わせた社内の変化が必要

 これまで法律上で時間外労働の上限はありませんでしたが、2020年4月以降は中小企業も含めた多くの企業で上限が定められます。原則月45時間・年間360時間となり、罰則も規定されるため、より厳しい管理が必要です。

 また、中小企業では業務の効率化による時間外労働時間の削減や、2023年4月から月60時間超えの割増賃金への対応が必要となります。

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※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=太田 勇輔

ネットワークスペシャリスト、情報セキュリティスペシャリスト保有。インフラエンジニアとして、官公庁や銀行などのシステム更改をメインに10年従事した後、IT関連ライターとして活動中。プログラミング、ネットワーク、セキュリティなどの解説記事を中心に執筆している。

【M】

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