ニューノーマル処方箋(第23回)製造業成長請負人が語る“デジタルな土壌”の作り方

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公開日:2023.06.07

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 山形県にある倒産寸前の金型メーカーが、デジタル化によって黒字転換できた秘策はデジタル化と変化を受け入れる土壌づくりでした。窮地に立たされた会社を引き受け、黒字転換、そして成長軌道に乗せた松本晋一氏が振り返ります。

<目次>
・倒産危機の金型メーカーが復活した裏に “デジタルな土壌”あり
・「あうんの呼吸」が、製造業に悪影響を及ぼしている
・たかが勤怠管理の自動化、されど立派なデジタル化の一歩
・倒産寸前でも危機感を抱かなかった従業員を変える方法
・変わらない従業員を辞めさせてはいけない
・デジタル化は「高精度化」ではなく「高速化」である

倒産危機の金型メーカーが復活した裏に “デジタルな土壌”あり

 市場の急速な変化や、少子高齢化による人材不足に対応できず、苦戦を強いられている製造業も多いでしょう。しかし中には、変化を恐れず新しい仕組みやデジタル技術を取り入れ、復活を成し遂げた企業もあります。

 山形県河北町に拠点を構え、従業員60名ほどの金型メーカーであるIBUKIも、デジタルを取り入れることで赤字経営から脱却した会社の1つです。同社はある時期まで6年連続で赤字経営が続き、最盛期には300名近く在籍していた従業員も、一時は約40名まで減っていました。

 倒産の窮地に立たされていたIBUKIですが、2014年にコンサルティング会社のオーツー・パートナーズ(当時:O2)が資本参加したことで状況が一変。AIを活用した見積もりの自動化、IoTセンサーによる金型の状態の見える化、受注・購買・工程・金型管理を担う基幹システムの構築など、さまざまなデジタル技術を取り入れることで、苦境を脱出しました。

 2018年には、第7回ものづくり日本大賞にて経済産業大臣賞を受賞。2021年には技術力・人材力を評価され、某自動車部品メーカーのグループ会社に加わっています。2022年の売上高は参加当時の約2倍になったといいます。

 なぜ、同社は倒産の窮地から脱出できたのでしょうか?7年間にわたってIBUKIの代表取締役を務めた、オーツー・パートナーズの松本晋一代表取締役社長CEOに話を聞いたところ、背景にはさまざまな変化を受け入れる“デジタルな土壌”がありました。

「あうんの呼吸」が、製造業に悪影響を及ぼしている

 松本氏が所属するオーツー・パートナーズは、「口も出しますが、手も出します」をモットーに掲げる、製造業向けコンサルティング会社です。松本氏はIBUKIのプロジェクトに関わる前から、数多くの製造企業を支援してきました。

 松本氏は、苦境に陥っている製造業を救うためには、デジタルは欠かせない要素であると指摘します。その理由は、デジタルによって「あうんの呼吸」から脱却できることにあるといいます。

 「日本の職場では、とかく『あうんの呼吸』で業務が成り立ってしまう場面が多く見られます。しかし、何でもそれで決めてしまうと、仕事を数字や理論で表現することができなくなり、データや根拠に基づかない、非デジタルな仕事をしてしまうことになります。もちろん、あうんの呼吸がハマる時もありますが、うまくいかない時には裏目に出ることになります」

 松本氏は多くの製造業において、企業のトップの意識の在り方が原因で、デジタル化が進みづらくなっていると分析します。

 「製造業でデジタルな仕事ができない大きな要因の1つに、企業トップの意識の低さが挙げられます。リーダー自身がデジタルを学ぼうとしなければ、デジタル改革に向けた施策の稟議(りんぎ)書が上がってきても、その内容を正しく判断できません。何より、社内がデジタルに取り組もうという雰囲気にすらなりません。

 経営者の意識が、投資対効果に向き過ぎているのも問題だと思います。いきなり大きな変化や効果を追い求めてしまうと、かえってデジタル化は進みません。大事なのは、『小さく始めて大きく育てる』という意識です。デジタル化に限らず、一度トライして失敗したら萎縮し、次のトライが怖くなります。まず小さく始めて、小さな成功体験を積んで、そこから大きく変えていくことが必要だと思います」

株式会社オーツー・パートナーズ
代表取締役社長CEO 松本晋一氏

 

たかが勤怠管理の自動化、されど立派なデジタル化の一歩

 デジタル化には“小さな成功”が必要と主張する松本氏は、IBUKIでも従業員が小さな成功を体験できるような改革を進めました。

 冒頭で触れたように、IBUKIはさまざまなデジタル技術を駆使することで、売り上げを伸ばすことに成功しました。しかし、松本氏がIBUKIで最初に始めたデジタルな取り組みは、勤怠管理のシステム導入という簡単なものでした。

 「これまでのIBUKIの勤怠管理は、紙のタイムカードの数字を、事務員がExcelに入力するというアナログなものでした。私はそのやり方を廃止し、名札にプリントしたバーコードを読み取って、自動で記録できるようにしました。大した道具ではありませんが、それでも立派なデジタルです。

 導入後、勤怠管理システムを利用している職人に『デジタルが使えるようになったね』と声を掛けると、最初は『いや、デジタルなんて全然…』という反応でしたが、だんだん『これがデジタルなのか』という意識になり、デジタルが特別な存在ではなくなってきました。そして、みんながデジタルに触れていることに気づけるようになった後、大きな取り組みへと広げていきました」

IBUKIがデジタル化のきっかけに勤怠管理を選んだ理由

 

倒産寸前でも危機感を抱かなかった従業員を変える方法…

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