雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業や教育訓練、もしくは出向を行い、労働者の雇用維持を図った場合、その休業手当などの一部を助成する制度です。
この助成制度は1975年に誕生したものですが、コロナ禍においては「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」が設けられたこともあり、特に利用が増加しました。厚生労働省の資料によると、2020年4月から2023年8月末までの約3年半で、累計支給決定件数は629万8000件、累計支給決定額は5兆9871億円に達したといいます。
しかしながら、コロナ禍初年度の2020年度をピークに、決定件数も決定額も徐々に減少しました。2023年3月31日にコロナ特例も終了し、現在は通常の運用に戻っています。
雇用調整助成金は、2024年4月1日から制度の内容が変更されています。具体的には、在職者によるリスキリング(学び直し)を強化するため、休業よりも「教育訓練」による雇用調整がしやすくなるよう変更が行われました。
従来は、休業した従業員に対し事業主が支払った休業手当負担額、および教育訓練を受けた従業員に対し、賃金負担相当額の中小企業であれば2/3、大企業であれば1/2を乗じた額が助成されていました。教育訓練の場合は、これに加えて1人1日あたり1200円が支給されていました。
2024年4月1日からは、「教育訓練実施率」により、助成率が異なっています。教育訓練実施率とは、休業および教育訓練を実施した日数のうち、どのくらいの時間を教育訓練に割いたかを表す割合です。厚生労働省のホームページにて、教育訓練実施率を計算するためのExcelファイルが公開されています。
[caption id="attachment_53612" align="aligncenter" width="600"]
出典:
厚生労働省の雇用調整助成金 PDFより[/caption]
教育訓練実施率が「1/10未満」の従業員の場合、中小規模の企業の助成率は1/2、大企業の助成率は1/4となり、従来の制度よりも助成率は下がります。教育訓練加算額は1200円で変更ありません。
教育訓練実施率が「1/10~1/5未満」の従業員の場合、助成率は中小企業で2/3、大企業で1/2、教育訓練加算率は1200円で、従来どおりの支給が受けられます。
教育訓練実施率が「1/5以上」の従業員の場合、助成率は中小企業で2/3、大企業で1/2と変わりませんが、教育訓練加算率は「1800円」と、従来よりも600円アップしています。つまり、シンプルに従業員を休ませるのではなく、その休みを利用してリスキリングの機会を与え、従業員のスキルアップを図ることで、従来よりも多くの助成金を受け取れるわけです。
支給対象となる教育訓練とは?
この他、支給対象となる教育訓練についても、見直しが行われています。
雇用調整助成金の支給対象となる教育訓練は、職業に関する知識、技能や技術の習得・向上を目的とするものです。教育訓練の具体例としては、例えば官公庁や地域において、中小企業を支援する機関が実施する講習、業務で必要となる免許・資格の取得や更新のための講習・訓練・セミナーなどが含まれます。
事業所内で実施される教育訓練も、支給対象となります。厚生労働省の資料では、経験者が講師役となり、生産活動を停止している自社工場のラインを活用して、安全に作業を行っているかの確認、業務プロセスの改善など、生産性を向上するための講習を実施するものも含まれるとしています。この他、事業所内に講師を招いて行うマネジメント研修やビジネススキル研修も対象としています。
ただし、通常の生産・事業活動と区別がつかない研修や、自習やビデオ視聴など、教育訓練の実施状況が確認できないもの、過去に行った教育訓練を、同一の労働者に実施する研修などは対象外となります。
コロナ禍では、休業という選択をせざるを得なかった企業の支えとなった雇用調整助成金ですが、コロナ禍を経た今、学びという機会を得て、企業や従業員が新たな一歩を踏み出すことをサポートする助成金としての色合いが強くなりました。この助成金を利用し、従業員がスキルや知見を得ることで、新たなビジネスへの道が開けるかもしれません。