<目次>
・2024年春は、「物流の2024年問題」以外にも大きな変化が
・運賃は平均で8%値上げ、燃料費も1L100円→120円に
・値上げは物流力を維持するための投資である
2024年春は、「物流の2024年問題」以外にも大きな変化が
2024年春、物流業界ではいくつかの変化が起きました。
1つ目が、トラックドライバーの時間外労働の上限規制です。2019年の労働基準法の改正により、時間外労働には上限が設定されましたが、トラックドライバーなど一部の業種については、他の産業と比べて長時間労働が多く、かつ運転手も不足しているなどの理由から、適用が5年間猶予されていました。
この猶予期間は、2024年3月に終了し、4月からはトラックドライバーであっても、時間外労働を年間960時間に収めるというルールがスタートしています。
トラックドライバーの時間外労働の上限規制は、労働時間も短くなるため、日本の輸送能力が不足する恐れがあります。公益社団法人全日本トラック協会の輸送能力が、2024年には14.2%不足し、2030年には34.1%不足する可能性があるというデータを公開しています。
こうしたトラックドライバーの時間外労働の上限規制に端を発する諸問題について、国や物流業界は「物流の2024年問題」と呼んでおり、輸送力が不足しないためのさまざまな対策をスタートしています。
物流業界ではもう1つ、2024年問題に関連する大きな変化が起きました。それが、トラックの「標準的運賃」の引き上げです。
標準的運賃とは、荷主(にぬし、物流業務の依頼主。荷物を送る人)が運送業者に対して正当な対価を支払うよう、国土交通省が価格設定の基準を明記したものです。運送業者が荷主と運賃交渉に臨む際の参考指標として活用することが想定されています。
この標準的運賃は2020年4月に設定されましたが、2024年問題が社会的に取り沙汰されている現在、ドライバーの賃上げの原資となる適正運賃を収受できる環境の整備が急務として、2024年3月22日に改定されました。
運賃は平均で8%値上げ、燃料費も1L100円→120円に…
今回の標準的運賃の見直しでは、大きく【1】荷主等への適正な転嫁、【2】多重下請構造の是正、【3】多様な運賃・料金設定の3点が見直されました。
【1】の「荷主等への適正な転嫁」では、国土交通省の地方支分部局が設定している運賃表を改定、平均で約8%値上げされました。加えて、運賃表の算定根拠である原価の燃料費についても、従来の1L100円から、1L120円に引き上げられました。
さらに、「荷待ち(ドライバーの待機時間)」「荷役(荷物の積み込み・積み下ろし)」に関する内容も盛り込まれました。荷待ちに関しては、待機時間料として30分当たり1760円、荷役については積込料・取卸料として30分当たり2180円が発生すると明記されました(金額は中型車4トンクラス、機械を用いた場合)。
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出典:
国土交通省「『標準的運賃』等の見直しについて」[/caption]
この他、運送業者と荷主が結ぶ標準運送約款に、運送以外の業務が発生した場合や、高速道路など有料道路を走行する場合の料金を記載し、その料金を荷主から収受をすることも盛り込まれました。
値上げは物流力を維持するための投資である
【2】の「多重下請構造の是正」は、業界で積年の課題となっている多重下請構造を改善するために設けられたものです。
物流業界では、荷主から依頼を受けた会社が、さらに別の会社に運送を依頼する多重下請構造が発生しており、このことがトラックドライバーの長時間労働や低賃金を引き起こす原因として問題視されています。今回の標準的運賃の改定では、下請けとして仕事を受けた場合は、依頼主から運賃の10%を「利用運送手数料」として別途収受することや、元請けの運送事業者は、下請けとして実質的に運送業務を行う事業者の商号や名称を荷主に通知することを明記しています。
【3】の「多様な運賃・料金設定」は、画一的な料金ではなく、サービスに合わせてさまざまな料金を設定することをさします。
その1つが「個建運賃」です。個建運賃とは、トラック1台の輸送料金ではなく、貨物1個ずつを輸送する料金のことです。個建運賃を設定すると、異なる荷主の荷物を1台のトラックに乗せられるため、より効率的な運送が可能になります。
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出典:
国土交通省「『標準的運賃』等の見直しについて」[/caption]
この他、速達を希望する荷主に対し割増料金を設定することや、逆に輸送を急がない商品に対して割引料金を用意することも明記されています。荷主が「有料道路を使用しない」よう求めてきた場合は、ドライバーの運転が長時間化するなら割増料金を設定しても良いとしています。
冒頭でも触れた通り、物流の2024年問題を放置したままでは日本の輸送力は足りなくなり、日常生活やビジネスが立ち回らなくなる恐れがあります。
たびたび物流業者を利用する企業にとっては、運賃の値上げは痛い話かもしれませんが、トラックドライバーが働きやすい労働環境を用意し、輸送力を維持するためには、必要不可欠な“投資”といえるかもしれません。