連載第1回は長時間労働の実態把握について説明しました。第2回からは長時間労働削減の具体的な手段を紹介します。ワーク・ライフ・バランスを改善するためにも長時間労働のない職場づくりは不可欠です。今回は「許可制」を取り入れることによって長時間労働を削減するポイントを解説します。また、それを取り入れるための書式もダウンロードできるようにしていますから、ぜひ活用してください。
社員の時間外労働を減らすに当たって、口先だけで「帰れ」と言っても、先は開けません。なぜなら、職場の雰囲気や慣習、労務管理の制度、業務量、生産性などが変わらない限り、時間外労働を減らすことは難しいからです。逆に考えれば、これらを変えることによって、時間外労働を減らすことができる可能性があるともいえるわけです。それでは、時間外労働を減らすための具体的な施策について考えてみましょう。
●事例1 定時ぎりぎりになると上司が仕事を振ってくる
A社の企画部長のBは、根っからの仕事人間で、仕事中心の生活を送っています。それだけならまだいいのですが、自分の価値観を部下に押し付けて、定時に帰ろうとする部下に「本当に仕事はないのか?」とか、「他の社員の仕事を手伝ってやれ」とか、迷惑千万な指示を出してきます。また、もうすぐ定時という時間になって、やたらと会議を入れてくることもあります。A社の企画部の社員たちは、これでは定時後の予定が入れられないと不満に思っています。
〇定時に帰れる体制をつくる
私が会社員だった当時も、「定時に帰るのは悪いこと」のような雰囲気が会社の中に漂っていました。「残業は当たり前」「残業をすればするほど会社での評価が上がる」「定時に帰るのはできないやつ。やる気のない証拠」「定時に帰ると、仕事が少ないと思われて仕事を増やされそうだ」。そんな雰囲気のあふれ出ている職場です。これでは長時間労働が是正されるはずもありません。下手をすると、「仕事はないけど、ただ帰りづらいから残っている」という社員もいるはずです。
これは時間外労働が恒常化・慣習化しているからで、「定時に帰るのが当たり前」「時間外労働は普通ではない」という体制をつくる必要があります。そのために会社ができることは、「その日のうちにやらなければならない仕事がない社員は定時に帰るように促す」「定時後の会議を原則として認めない」「定時の直前や定時後に緊急な用件以外の指示を上司に出させない」などがあります。
また、上司から「定時に帰るように指示を出す」「上司と一緒に帰って親睦を深める」なども有効です。上司が残っているから帰りにくいという例もあるようですが、このような場合は、管理職が自ら定時で帰ってみてはどうでしょうか。まずは、「定時に帰ることが普通であって、時間外労働をすることが異常」という雰囲気をつくる努力をしてみましょう。
会社全体、または部署全体で、「定時に帰ることは悪いことではない。むしろ当然のことで、時間外労働をすることのほうが特別なことである」という認識を深め、どのようにしたら定時に帰れるのかについて話し合いを行ってみましょう(図表1)。
許可制を取り入れ、就業規則も変更する…
●事例2 仕事もないのに残っている社員がいる
C社の社員たちは、定時を過ぎた後、仕事をせずにだらだらとお茶を飲んだり、おしゃべりをしたりして過ごしています。少し前までは、このような社員はほんの一部だったのですが、最近は半数以上の社員がこのありさまです。会社としては早く帰ってほしいと思っているのですが、なかなか言い出せないでいます。
〇時間外労働は許可制にする
時間外労働に対する意識を変えるには、「時間外労働は、上司に許可を取ってから行うもの」という意識を植え付け、この制度を徹底することが必要です。下手をすると、「生活のために残業している」と公言する社員がいます。つまり、仕事があるから残っているのではなく、生活するために、言い換えれば、割増賃金を稼ぐために残っているわけです。これでは、本来の時間外労働から趣旨がずれてしまっています。
多くの会社は、上司に許可を受けることなく、社員が自ら時間外労働を決定しているのではないでしょうか。しかし、これでは「本当に必要な業務を行うために時間外労働を行おうとしているのか」「どのくらいの時間、時間外労働を行う予定なのか」が見えてきません。
原則として、時間外労働は、上司が業務命令として行うものです。定時後に社員がまだ会社に残っている場合は、取りあえず帰宅を促し、それでも時間外労働が必要であるというときは時間外労働の申請書を提出させ、上司に時間外労働の許可を受けるよう指示を出しましょう(図表2参照)。
■図表2 時間外労働・休日労働申請書(ダウンロード)
また、仕事もせずに会社に残っている社員に対して、何も言わずにいることは黙認と取られます。黙認とは、すなわち会社が認めているということです。仕事をしないでだらだらと会社に残っている社員を見つけたら、上司に帰るよう命令させるようにしましょう。その上で、まだだらだら残っている社員がいる場合は、命令違反です。時間外労働に対する割増賃金を支払う必要もありませんし、悪質な場合は、制裁の対象にもなり得ます。
ここで、よく分からないからと、すべての時間外労働申請書について、中身を見ずに承認印を押してしまっていては、時間外労働の申請をする意味がなくなってしまいます。この書類の提出を受けた上司は、「時間外労働を行う理由」と、「必要とする時間外労働時間」が適当かどうかを判断します。
「時間外労働を行う理由」については、「その日やらなければならないことか」ということが許可するかどうかのポイントとなり、「必要とする時間外労働時間」については、部下が申請してきた時間がその業務を行うに当たって適当な時間かどうかが許可するかどうかのポイントになります。
また、管理職は、例えば1カ月というスパンで見たときに、その社員の法定時間外労働の総時間数がどれだけかを把握しておかなければなりません。36協定の上限である法定労働時間数を超えて労働している社員について特約条項を根拠にその上限以上の時間外労働を行わせるときは、その業務内容が臨時的で、かつ緊急性があるものであるかどうかを判断する必要があります。社員が、ただ忙しいという理由だけで時間外労働の申請をしてきたときには、時間外労働の許可をしてはいけません。
また、その社員が、特約条項を根拠に36協定の上限以上の時間外労働を行っている回数をカウントしておく必要もあります。もし、これが1年間のうちに6回を超えているようであれば、残業の許可をしてはいけません(図表3参照)。
■図表3 時間外労働・休日労働許可書(ダウンロード)
また、この制度をより徹底させるために、会社の就業規則に、時間外労働を行うときは、上司の許可が必要であり、上司の許可がない時間外労働に対しては賃金を支払わない旨を規定しておきましょう(図表4)。