会社は「時間外労働を減らしましょう」と社員にアナウンスし、啓発し、周知するだけでは不十分です。会社がいくら「時間外労働を減らす」と口先だけで唱えても、何ら対策を採らなければ、何もしていないのと同じことです。
今までに労働者や上司の意識改革を行うことによって職場の雰囲気を変えることや時間外労働を許可制にすることなどについて説明してきましたが、このほかに会社がすべきことはないでしょうか。今回は、時間外労働を減らすことを徹底させるために、ほかにどのような措置が考えられるかについて説明します。
上司によっては、会社と異なる方向にベクトルが向いていたり、部下に何も言えなかったりする人がいます。さらに、会社がいくら定時に帰るよう口を酸っぱくして言っても、なかなか言うことを聞かない社員もいますから、第三者である人事部や総務部の担当者が終業時刻後の見回りをすると有効です。
そして、許可を受けていない社員が時間外労働をしていた場合は、帰るよう促し、上司の許可を受けていない時間外労働に対しては賃金が支払われない旨を伝えます。また、その上司に対しても、時間外労働の許可を受けていない社員に帰る指示・命令を出すよう促す必要があります。
もちろん、その都度、どこの部署の、誰が、何時まで残っていたかを記録し、後日、総務部長や人事部長に報告の上、人事考課の対象とすることもできます。このように第三者が見回り、注意をすることによって、時間外労働に対する意識が浸透することもあります。
これと同じように、終業時刻の10分ほど前に終礼を行うことも有効です。この終礼で、お互いの連絡事項や今後の予定などを伝達し合うと同時に、社員各自がその日の終業予定時刻を伝え合うようにします。定時に帰る人は「今日は定時に帰ります」、上司から時間外労働の許可を受けている人は「今日は〇○の業務が残っているため1時間残業して18時に帰宅予定です」のように自分の予定を伝達します。
始業時刻とともに部署ごとに朝礼を行い、社員全員に前日の帰社時刻を報告してもらいます。その上で、上司の許可時刻を越えて時間外労働をしていた者には注意をし、どうして許可時刻を越えて時間外労働をするに至ったのか、その業務内容と進捗具合の確認をします。上司は、これに対応して、的確な指示を出さなければなりません。
また、その日の時間外労働の予定が分かっている社員には、どのような業務でどの程度の時間残業するのかの確認を取っておきましょう。そして、時間外労働をしてまで行う必要のない業務であると認めた場合は、上司は、その時間外労働について行わなくていい旨の指示・命令をする必要があります。
また、「○○さんは、今日は定時に帰る予定になっているから余計な仕事は頼めない」といった抑止力も働くことになります。
●事例2 時間外労働の許可した時間を超えているのに帰らない
B社は、時間外労働について上司の許可制にしましたが、その許可した時間を超えても帰ろうとしない社員が多数います。B社は、これでは許可制にした意味がないと頭を抱えています。
帰社を催促する仕組みをつくる
まずは上司が許可した時間までしか時間外労働はできないことを徹底させましょう。その上で、まだ残っているようであれば、その上司に帰る時間であることを伝えさせ、帰社させる。あるいは、終業時刻とは別に、一定の時刻を設けてチャイムを鳴らしたり、消灯したりして、許可時間を超えた時間外労働にならないよう注意喚起を促すなどの策が考えられます。
その上で、まだ時間外労働をしている社員がいるようであれば、どのような業務を、どのような方法で、どれだけの時間をかけて行っているのか、確認する必要があります。
●事例3 時間外労働の時間を毎日管理するのは難しい
自動車部品工場であるC社の社員は200人ほどで、大企業でもないし小企業でもありません。小企業であれば、社員が少ないので管理しやすいでしょうし、大企業であれば、それなりの人員がいるので毎日の労務管理も容易だと思います。しかし、C社は、中企業であり、ギリギリの社員数で業務をこなしているため、社員の労働時間を毎日管理することはできません。どのようにすればよいか、頭を悩ませています。
時間外労働を月当たりで管理する
時間外労働の時間について毎日管理することが難しい場合は、1週間ごとでも、1カ月ごとでも構いません。社員ごと、部署ごとに把握して、その結果を基に、時間外労働の許可時間を超えて労働していた社員やその上司を指導します。
一番問題なのは、時間外労働を許可制にしたにもかかわらず、何も検証を行わないことです。時間外労働を許可制にしても検証を行わないのであれば、許可制にした意味がありません。会社は、時間外労働を減らすという目標に向かって何をすべきかを常に考えていなければなりません。
●事例4 許可制にしてもあまり効果がない
D社は時間外労働を許可制にしたのですが、上司がすべて許可してしまうので、何も変わりません。これでは時間外労働を許可制にした意味がありません。
労務管理力を養う管理職研修を行う
どうして課長や部長のことを管理職というのでしょうか。これは、部下を管理するから管理職といわれるのであって、決して工事現場を管理するから管理職といわれるわけでも、部下に管理されているから管理職といわれるわけでもありません。管理職には、会社のベクトルに従って部下を管理できる能力を身に付けてもらわなければなりません。
会社は、管理職になったとき、また、1年に1回定期的に管理職研修を行い、「どのような場合に時間外労働を許可していいのか」、逆に「どのような場合に許可してはいけないのか」を指導しておく必要があります。
月当たりの時間外労働の上限時間を決めておく
管理職が的確な指示を出していても、なかなか時間外労働が減らない業務もあります。このような場合、例えば、Aさんは1カ月当たり45時間が上限だとか、Bさんは1カ月当たり60時間が上限とか、月当たりの時間外労働の上限を決めておくのも1つの方法です。
この上限の時間が近づいてきたら、該当する社員の上司から、上限時間が近づいてきた旨を伝えてもらい、その時間を意識させましょう。
●事例5 家に仕事を持ち帰っている社員がいる
E社は時間外労働を許可制にし、午後8時に全事務所の消灯を行い、帰社を促すこととしました。このため午後8時を過ぎて会社に残っている社員はいなくなったのですが、一方、仕事を家に持ち帰る社員が増えてしまいました。
仕事を家に持ち帰らせない規定をつくる
家に持ち帰って仕事をした時間は労働時間に該当するのでしょうか。一般的に労働時間は、使用者に管理監督下にある時間のことをいいますから、社員が自主的に家に持ち帰って仕事をした時間は労働時間に該当しないと考えられます。
ただし、会社が社員に対して、その日中にこなしきれない量の仕事を与えていた場合や、この仕事を明日までにやっておくように指示を出した場合、また、当然のことながら、会社が家で仕事をするよう指示を出した場合などは、家で行った労働時間も労働時間としてカウントされます。
そもそも、時間外労働をなくそうとしているにもかかわらず、仕事を家に持って帰ることは、本末転倒です。家で仕事を行うことを認めない旨を、就業規則に規定しておくことも1つの方法です。また特定の社員が仕事を家に持ち帰っているようであれば、仕事が量的に適正に振り分けられているか、または、その社員の能力について検証してみる必要があります。