土地を探している段階から、私たちは時々、住宅展示場へ行くなどして家づくりに向けた情報収集をしていた。住宅展示場のモデルハウスは大きくて豪華だし、映画やドラマの世界のようにおしゃれ。最新の設備も導入されていて、まさに夢の詰まった造りになっている。A社のモデルハウスを見ればA社に決めようという気分になるし、別の日にB社を見学すれば、やっぱりB社のほうがいいかも、と目移りしてしまう。
高い耐震構造の家、全館空調の家、自然素材を使った家、高気密・高断熱でエネルギー効率のいい家、100年の耐久性をうたう家、収納スペースの広い家など、ハウスメーカーによって重きを置くコンセプトはさまざま。そして、当然ながら柱も壁も屋根も、それぞれ使われている部材にも違いがある。
より等身大サイズの家が見られる完成見学会に参加するなどして、いろいろなタイプの家を知るうちに、私たちらしい家とはどんな家なのか、本当に必要な設備は何かを考えるようになった。そして、木造建築で、柱だけでなく床や天井にも木を使った家にしよう、外観は周辺の田園風景になじむようなシンプルなデザインに、家族で料理する時間を楽しめるようなキッチンの造りに……など、徐々にイメージを具体化していった。
さまざまな家を見学するうちに、間取りのプランニングを設計士任せにせず、自分たちで考えたくなってきた。自分たちのライフスタイルは私たちが一番よく分かっているし、それに合わせた細かな好みを第三者に気兼ねなく盛り込める。フリーのCADソフトを使い、夜な夜な2人で額を付き合わせ、玄関はここ、居室は南へ、その隣がキッチンとダイニングといったように、パズル感覚で間取りを考えていった。
「階段の上り下りが大変になる数十年先のことも考えて、やがては一階だけでも生活ができるようにしておこう」「冬に暖かいよう南側に部屋を並べたいね」「私の仕事部屋は山がよく見える位置にしたいな」「子ども部屋はリビングかダイニングを通過する動線に」「日中は電気をつけなくていいように、どの部屋も明るく」「登山やスキーの道具を収納する専用の部屋をつくろう」など、思いついたアイデアを間取り図に反映していく。
とはいっても、細部までこだわればこだわるほどコストは高くなりがち。そして、一般的に家は面積に比例して必要な予算も増大する。限られた資金で家を建てるには、まずは、面積を小さくしなければならない。いかにコンパクト、シンプルにするかが、私たちの家づくりの最大のポイントとなった。
そこで、始めに延べ床面積を決め、その中に必要な部屋・設備を、動線がよくなるように並べる。居住空間が少しでも広くなるよう廊下は最小限にしつつ、違和感のない外観にもしたい。希望と予算の折り合いをつけるのが難しくて、時には夫と衝突することもあった。でも、根気よく考えをすり合わせる工程を経て、お互いが抱く家のイメージがしっかりと固められた。そして、ハウスメーカーよりも設計やデザインの自由度がより高い、地域の工務店に依頼しようということになった。地域の工務店ならば、土地や気候のことがよく分かっていて、より安心できる。
理想の工務店との出会い
工務店を回ってモデルハウスを見学させてもらい、私たちのイメージに近い家を造ってくれそうな会社を3つに絞った。いずれも柱や床などに国産材を使っていて、私たち好みのシンプルなデザインの家を手掛けている。そこへ2人で考えた間取り図を持って相談に行くと、どこも「よく考えられていますね」とか「このまま建てられますよ」と褒めてくれた(私たちはその言葉に気分をよくしたけれど、営業トークだったかも?)。
打ち合わせをして、見積もりを出してもらう中で、A工務店に決めた。私たちが考えた間取りを生かしつつ、部屋から外の景色を楽しめるように窓を工夫してくれたり、収納の効率化などのアイデアをたくさん盛り込んだりしてくれたからだ。
それに環境に配慮した家づくりを行っていることも決め手の1つとなった。標高の高い北杜市は、冬の朝晩はかなり冷え込むので、平地よりしっかりした断熱や暖房設備が必要となる。床暖房は必須だといくつかの業者が口にしていたけれど、そのために電気やガス、灯油などのエネルギーを消費するのは、どうもしっくりこなかった。
A工務店だけが、冬は太陽の熱エネルギーを蓄熱して夜間も部屋を暖め、夏は屋根の放射冷却を利用して室温より低い外気を取り込むというエコなシステムを採用していた。これは晴天率の高い北杜市にピッタリだ。ここならば、私たちの希望する家になりそう、と家づくりをお願いすることにした。
でも、その工務店と具体的な話を進めていく中で、大きなニュースとして聞こえてきたのは輸入建築材の高騰・ウッドショックだ(https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20210719hitokoto.html)。依頼したA工務店では国産材を使っていて、長年取引のある業者から仕入れているので影響は少ないとの話だった。もちろんそれを信じているけれど、一方ではウッドショックの影響で国産材が注目され、極端に値上がりしたり仕入れが困難になったりした業者もあると聞く。さて、私たちの家は無事に建つだろうか……。
山野を彩る季節の植物たち ~ツリフネソウ~
秋が近づいてくるとツリフネソウが、少し湿った谷沿いなどで静かに花を揺らす。金魚のように華やかな花が、細い茎につり下がる。私はこの花を見つけると、ついしゃがみ込んで見入ってしまう。距(きょ:花冠から後ろに突き出した部分)がクルリと渦を巻いているのがいい。そして、熟した実にそっと触れると、パチンと種が勢いよくはじけておもしろい。なんと2~3mも種を飛ばす威力があるとか。花も実も一風変わっている。