ここのところ草刈りや畑作業が、一緒に暮らす父母の日課になっている。その作業が一段落した盛夏の折、父は家周りの整備ができていないことを心配し始めた。道路沿いのフェンス設置、駐車場の整備、まき小屋づくり、石垣の補修など、私たちがやりたいと思っていることがたくさんある中で、DIY担当の父がまず着手したのが物置小屋づくり。どんな小屋ができるだろうか。
物置小屋を父が自作することに。試行錯誤の作業がはじまる
庭の雰囲気に合う木製の小屋を手づくり
家庭菜園を始めたとき、畑で使う道具を入れるためにスチール製の小さな物置を買ったけれど、それからも道具が増えて、既に入りきらなくなっている。家族で話し合い、置き場がなくて困っている冬用タイヤやキャンプ用品などを収納するためにも、新たな物置を設置することにした。
スチール製の物置は便利だけれど、それをいくつも並べると無機質さが目立って庭の雰囲気に合わなくなってしまう。そこで、木製の物置小屋をDIYでつくってみようということになった。そうと決まると、父は私たちに物置を設置する場所を決めるように言い、「さて、どうやってつくるかな」とつぶやきながら、ホームセンターへ出掛けていった。キットではなく、一から手づくりをするようだ。会社勤めの夫はもちろん、自宅で登山雑誌編集の仕事をしている私も週末以外は手伝えず、「一人でだいじょうぶ」という父の言葉に甘えるしかない。
行き当たりばったりの作業…
それから数日間、地面にヒモを張ったり、ブロックを並べたりして考えていたようだが、やがて土を掘って束石(つかいし)という基礎になる石を埋め始めた。「どんな小屋にするの?」と聞くと、「3帖ほどの大きさで、左側は棚を作って二段で収納できるようにしたいと思う。それをどうやってつくるかは、まだ考えがまとまらないけれど、とりあえずやってみる」という。どうやら、父は設計図を書くことはせず、頭の中にある大まかなイメージを元に、できる作業から進めているようだ。
父は昔からDIYが好きでイスや踏み台、犬小屋などをつくっていたけれど、物置のように大きなものをつくるのは見たことがない。「そんな適当で、本当に大丈夫なのだろうか……」と不安を感じた。
私と父のそんなやりとりを見ていた夫は「千穂もよく見切り発車をして、後から辻つまを合わせるところがあるけれど、それはお父さん譲りなんだね」と笑う。言われてみれば、心当たりがないでもなく、ぐうの音も出ない。
[caption id="attachment_46379" align="aligncenter" width="400"] 柱を仮の筋交いで支えつつ、一人で作業をする父[/caption]
細かな父の仕事
それから父は毎日コツコツと作業をし、数日かけて一人で柱を立て、はりまで乗せた。私はその様子を、仕事部屋の窓から時々顔を出して見ていたけれど、2~3mある木材を一人で扱うのは見るからに大変そうだし、なかなか進んでいないようだ。心配な気持ちと同時に、トンカン、トンカンと音をたてながら作業をする父を見ているうちに、小屋づくりが楽しそうにも思えてきた。そうなると小屋のことが気になって仕方がない。
ついに私は仕事を中断し、これから2日間は仕事を休んで、父と一緒にやろうと決心。「う〜ん、仕事の締め切りが迫っているけれど、2日分の遅れは後から何とかしよう!」。作業用の長靴を履いて外に出た。
[caption id="attachment_46380" align="aligncenter" width="400"] ノミで木材に溝を刻む父。一つひとつが手作業でとても時間がかかる[/caption]
しばらく父の仕事をそばで見ていると、思ったよりも細かい作業をしていると分かった。立てた柱を仮の筋交いで固定し、一つひとつの木材に水準器を当てて垂直や水平を測っては、位置や傾きを微調整。さらに柱と土台など主要部分の材はノミで凹凸を削り出し、組み合わせたうえで、ビスで止めるというこだわり。「五寸の釘より三分の仕込みと言って、木と木を凹凸で組み込んだ方が、はるかに強度が増すんだ」と父は話す。そして「固定金具を使えば簡単だけれど、金具を買い増していくと既製の物置の方が安くなっちゃうから」とニヤリ。なるほどとうなずきつつ、これはなかなか本格的で、想像していたよりも時間がかかりそうだ、とDIYはほぼ未経験の私も腕まくりをした。(次回に続く)
山野を彩る季節の植物たち ~シオン~
昨年のこと、庭にあるアヤメが咲き終わると、その株の中から柔らかで緑のきれいな葉が出てきた。それは、刀のような形でハリのあるアヤメの葉とは明らかに違う。何という植物だろう、どんな花が咲くのだろうと見ていると、夏にかけてグングン伸び、9月始めには私の背をはるかにしのぐ高さになって驚いた。そして9月下旬、2m近くにまでなった草の先端についたのは、紫色の菊のような形の花。図鑑で調べるとシオン(紫苑)だった。カメラを持った両手を頭上いっぱいに伸ばし、さらに背伸びをして、やっと写真を撮る。背高のっぽで、秋の訪れを知らせてくれるシオン。今年の開花を楽しみにするほど、私のお気に入りの花に加わった。