盛夏に父が始めた物置小屋づくり。初めは見守るだけだった私も、ついに仕事の手を止めて、父の作業を手伝うことにした。父との共同作業は意外にも充実したひとときとなり、家族にも楽しい作業となった。
父の作業を手伝おうと思って、長靴をはき、腕まくりをして庭に飛び出した私。やる気は満々だけどDIYの経験がほとんどないので、一体何をやったらよいのやら、さっぱり分からない。初めは言われるままに柱を支えてみたり、道具を手渡したりするぐらいしかできなかった。
それでも数時間一緒に作業をしていくうちに父の作業を先読みできるようになり、指示される前に電動ドライバーを用意したり、木材の長さを測って印をつけたりと、自分から動けるようになってきた。
共同作業を始めた次の日、「電動ドライバーでビス留めをしてくれるか」と父に言われて挑戦。「くぎは失敗したときに抜くのが大変だけれど、ビス留めなら簡単にやり直しができるから、思いきってやっていい」と父は言う。
ビス留めぐらい簡単にできるだろうと思ったけれど、やってみるとけっこう難しい。ドライバーが空回りしたり、ビスが斜めに入ったりして、私が苦労しているのを見ては、父がおかしそうに笑う。工具が思うように使えなくて、自分でも笑ってしまう。私が加わったことで、逆に足を引っ張っているかもしれないけれど、父も楽しそうなのがうれしかった。
こうやって父と共同で作業をするなんて、中学の工作課題を手伝ってもらったとき以来かもしれない。八ヶ岳山麓に来なかったら、父とDIYをする機会はなかっただろう。それに気付いたとき、ここに越してきて本当によかったと思った。
さて、物置はやっとのことで壁を張る段階まできた。壁はベニヤ板を柱に打ち付けるのだろうと思っていたけれど、父の構想は立てた柱の間にコンパネをはめ込んで、柱を面で支えるというもの。父はその方が、強度が増すと考えたようだ。八ヶ岳山麓は冬の冷え込みが厳しく、地面の凍結や積雪もあるし、ここは周囲が開けているので、風も強い。できるだけ丈夫なものを作りたいと思っているらしい。
父のアイデアに感心したけれど、これがさらなる苦労の元になる。プロならば、柱の間隔をコンパネの寸法ぴったりに作れるのだろうが、素人の作業ではそうはいかない。慎重に作業したものの、1~2cmのゆがみが出てしまった(ゆがみの原因は私のビス留めか?)。
隙間があっては父の狙う強度が出せないし、間隔が少しでも狭ければ、そもそもコンパネが入らない。そこでコンパネ一枚をはめるごとに柱を押してゆがみを直したり、掛け矢でたたいて位置を微調整したり、ビスを打ち直したり……。初めに夫が心配したように、作業の佳境で辻つま合わせが大変だった。
難航したコンパネ作業もようやく終わりが見えた頃、最後の一枚がどうやっても入らない。仕方なくコンパネをのこぎりで少しだけ切ってはめ込み、やっとの思いで小屋を囲った。
[caption id="attachment_46929" align="aligncenter" width="400"] 内側の壁・コンパネを入れたところ。この後に屋根を張り、外壁を付ける[/caption]
父と夫のヒミツ
小屋内に仕切りの棚を付けて、ガルバリウム鋼板で屋根を張ると、一気に物置らしくなった。でも、あと少しで完成というタイミングで、私は数日間の山取材へ行かねばならず、その後の工程を手伝うことも見ることもできなくなってしまった。
私が留守にしていた間は夫が手伝い、帰ってきたときには小屋はほぼ出来上がっていた。コンパネの外側に市販のルーバーラティス(よろい戸)がはめ込まれていて、見た目もよくなっている。あとは、扉を付けるだけだ。その出来栄えに「すごいね」と父に言うと、「やっと形になった」と父はほっとした表情を浮かべた。
でも、私にはちょっとした疑問が生まれた。柱がゆがんでいるから、コンパネをはめるときと同様、ラティスをはめ込むのも苦労したのではないだろうか。コンパネと違ってラティスはカットできない。一体、どうやって合わせたのか。
夫に聞くと「それはね……」と父と顔を見合わせて笑うだけで詳細は教えてくれない。どうやら、父と夫だけが知るヒミツのワザがあるようだ。ナゾは残るけれど、まあそれもいい。あえてそれ以上は聞かないことにした。
父は結局、設計図ナシで物置小屋を形にした。息子のガクはその小屋を「おじいちゃんの家」と呼んで、毎日のように中に入って遊んでいる。
家族にとって、思いがけず楽しい時間となった物置小屋づくり。父の器用さをちょっぴり誇りに思い、みんなを笑顔にしてくれたことに深く感謝した。
[caption id="attachment_46930" align="aligncenter" width="400"] 休みながら作業をして、ここまで作るのに1カ月ほどかかった。扉を取り付ければ、ほぼ完成[/caption]
山野を彩る季節の植物たち ~ヤマラッキョウ~
秋、山の草が枯れ始めるころ、紫色の花を咲かせるヤマラッキョウ。すっと伸びた花茎の先に球状になって咲き、打ち上げ花火のようだ。甘酢漬けにしてカレーライスに添えられるラッキョウの仲間で、花も似ているけれど、ヤマラッキョウの方が花数が多くて見応えがある。秋の花も少なくなるタイミングで目を楽しませてくれる、かわいらしい植物だ。