オフィスあるある4コマ(第45回)
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公開日:2022.11.18
2年前、庭に2本のリンゴの木を植えた。そのうちの1本は「つがる」という品種。同時期に植えたパートナーの「ふじ」が折れてしまったため今年は受粉ができず、実らないだろうと思っていた。しかし、花が終わったあとに観察すると受粉に成功した様子の子房が5つあった。小さな子房は1カ月ほどでピンポン球大になり、夏に向かって実がぐんぐん成長していった。そして、秋にはついに……?
2022年5月末、リンゴ「つがる」の木に実の元になる子房が5つ付いていたときの喜びは、本コラム第15回「希望のリンゴの木」でお伝えした。今回は、その後の経過をまとめてみようと思う。
リンゴの実の成長に希望が持てたころ、父母も「家族5人だから1つずつ食べられるかな?秋が楽しみ」と期待していた。昨年は何度か殺虫・殺菌剤の散布をしたけれど、実がなりそうな今年は、無農薬で育ててみようということになった。ちなみに、リンゴの色付きをよくしたり病気を防いだりするために、実に袋がけをして栽培する方法もある。しかし、袋がけをしない方が糖度は高くなり、太陽を浴びて育った「ふじ」は「サンふじ」、「つがる」は「サンつがる」という呼称で出荷されるそうだ。わが家でも袋がけはせず、「自家製サンつがる」をめざす。
「病気になったり動物に食べられたりすることなく、大きく育ってくれるといいね」と言いながら、家族で成長を見守っていた。でも、やっぱり予想外の出来事は起こる。
7月のある日、庭で遊んでいた2歳の息子・ガクが突然「リンゴ、とったよ〜!」と言いながら、私の元へ駆け寄ってきた。「え?!」と驚いて振り返ると、ニコニコ顔のガクの手に、未熟なリンゴの実が2つ握られている。ちょっと目を離した隙に、低いところにあった実をもぎ取ってしまったのだ。「うわぁ、5つしかない大事なリンゴが」と凍りつく。
「コラ~!」と怒りそうになったけれど、瞬間的にこらえる。ガクはよかれと思ってリンゴを採り、「すごいね」と褒めてもらいたいに違いない。ここで感情任せに怒ってはいけない。心に菩薩の仮面をかぶり「リンゴを採ったんだね。でも、赤くなってから採って食べた方がずっとおいしいと思うよ」と諭す。
ガクは理解できないようだけど、リンゴの実を小さな手で転がしたり、お気に入りの長靴に入れたりして遊ぶのを見ているうちに「まあ、いいか」と気持ちが静まった。それにしても、リンゴの敵は虫でも動物でもなく、一番身近なガクだったとは。
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執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。
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