生成AIの登場以来、業務におけるAI利用への関心は急速に高まり、実際に利用されるシーンも増えている。しかし、AIを利用する際の誤用、悪用に対する懸念も常に取り沙汰されている。業務でAIを利用している企業はセキュリティについてどう捉え、どのようなプロセスで検討し、どのような体制で臨んでいるのか。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、2024年7月4日に発表した調査結果の概要を紹介する。
IPAがAI利用者に対してアンケート調査を実施
IPAは7月4日に「AI利用時のセキュリティ脅威、リスク調査」という調査報告書を公開した。これは、事前調査で「AIを利用/許可している、予定がある」と回答した約1000人を対象にWebアンケートを行い、結果をまとめたものだ。AIの利用に関心が高まっている今、タイムリーな調査といえるだろう。
事前調査は企業や組織に従事している5000人弱を対象に実施。AI利用をしている(予定を含む)人は22.5%であり、個別のAIサービスでは、チャット・質問回答など顧客向けサービス改善、翻訳など社内業務効率化などの業種共通サービスが多かった。
AIサービスのうち導入率第1位の「AIによるチャット・質問回答サービス」を最も導入しているのは、通信業、次いでサービス業だ。企業などに問い合わせをする際、チャットへ誘導されたという経験を持つ人は多いだろう。特に通信業では2023年1月以前から利用されていたケースが多い。
第2位の「AIによる翻訳サービス」は業種に関係なく導入が進み、こちらも2023年1月以前から導入されている。翻訳という専門性の高い業務を行う企業は以前からAIを利用しており、すでに定着しつつあると見られる。
興味深いのは、AIを利用している人の多くが、セキュリティに不安を抱いている点だ。約6割がAIのセキュリティに関して脅威を感じ、7割を超える人がセキュリティ対策は重要であると回答している。不安を抱きながら利用している人たちは、どのような対策をとっているのだろうか。
組織的な対応が遅れがちなAI利用のセキュリティ対策…
IPAの調査では、設問を「生成AI」(コンテンツを検索あるいは作成する)と、「分類AI」(入力データをモデルに基づいて分類し分類結果を判定や診断、予測、制御などに用いる)に分けているものもある。
各項目がAIの導入・利用可否にどれくらい重要かという設問では、「セキュリティ対策」が「非常に重要だと思う」との回答は生成AI、分類AIともに40%を超えた。「AIシステムの堅牢性や個人情報の適切な取り扱いは重要」と考えられている。
また、AIの対策状況は企業規模によって差があった。AIサービスの利用に関するセキュリティ規則の作成、周知については、大規模企業(注1)では5割弱が規則を設けたり規則化を検討していたりするのに対して、中小規模企業では3割強に止まっている。
AI利用に関するマネジメントについての対応手順や体制については、大規模企業の5割以上が管理・利用ルールが明文化され、関連部署の助言を得られる体制になっていると回答しているが、中小規模企業では4割弱だった。こちらも中小規模企業では組織的な対応が遅れていると分かる。
生成AIの規則や体制整備については、6割を超える人が課題を認識しているにもかかわらず、規則の策定、明文化、組織的な検討がされているという回答は2割未満にすぎない。リポートでは「個人任せの状態では課題の解決は難しく、事業への影響が懸念される」と記され、スキル、コスト、コンテンツなど多くの事象で課題が残されていると指摘している。
ちなみにAIを利用/許可していない、予定もない人に対して、業務にAIを利用しない理由を質問したところ、「AIを導入するほどITを活用できていない」「AIに関するエキスパートがいない」「AIサービスを利用したい業務・事業分野がわからない」「どのAIサービスを選んでいいかわからない」が上位を占めた。セキュリティなど、AIを利用するリスクを懸念する以前の問題として、AIの利用環境が整っていない企業が少なくないという現実が浮き彫りになった格好だ。
注1 以下の業種は従業員101人以上、それ以外の業種については301人以上が大規模
通信業のうち情報サービス業・インターネット附随サービス業・映像・音声・文字情報制作業。運輸業・郵便業、卸売業・小売業、金融業・保険業、不動産業・物品賃貸業、学術研究・専門・技術サービス業、教育・学習支援業・医療・福祉・複合サービス事業等を含むサービス業