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前回の記事では、ほめ方のポイントを紹介しました。ただし、全部のポイントを盛り込んでしまうと効果が薄れます。ここでは、ほめる際のより効果的なアクションについてお話したいと思います。
メリハリをつけてほめる
人は善かれあしかれ慣れる生き物です。何度も何度も同じような調子でほめられていては、いくらほめる言葉や内容が素晴らしくても部下の耳が慣れてしまい、心に届かない可能性があります。
そのため特に強調してほめたいポイントや伝えたい内容がある場合には、その部分にフォーカスして、「声を張ってほめる」「ほめるポイントの前後はあえて小さい声でほめたり、話す速度を遅くしたりする」「大きめなジェスチャーや豊かな表情を付けてほめる」など、ポイントごとにメリハリをつけてほめるとよいでしょう。
もちろん過剰に抑揚をつけたり、突然大きな声でほめたりするのは芝居がかって見えるだけです。メリハリをつけたい場合には、くど過ぎず、派手過ぎず、唐突になり過ぎないように全体のバランスを考えましょう。
ほめることは効き目の強い薬のようなもの。確かによく効くのですが、むやみにほめるのも考えものです。部下の成長につなげたい気持ちを込めてほめるときは、単なる思いつきでそうするのではなく、よく考えてほめたほうがいいのです。
ほめる話の流れ全体をビジネス文章に置き換え、「起承転結」や「序破急」を意識するイメージで構成すると、話の流れを作りやすくなるかもしれません。
タイミングよくほめる…
タイミングよくほめるのは大切なことです。言うまでもなく、苦労した業務ほど達成感や喜びは大きく、またほめられたときにうれしいものです。部下が非常に複雑な業務を任されたとき、急な出張を命じられたとき、顧客のクレームや大きな問題の矢面に立たされたときなど、誰もが避けたいと思うような業務を部下が担当したときは、ほめて育てるよい機会です。
このような場合、「困難な業務を引き受けた直後」「業務を遂行している最中」「業務を達成した瞬間」など、ほめるタイミングが何度も訪れます。
その都度、大仰にほめる必要はありませんが、部下の心身のケアをする意味でも上司はいつも以上に部下を注意深く見守り、タイミングを見計らって労をねぎらう言葉とほめる言葉を繰り返し伝えていきましょう。
また仮に業務を失敗したとしても「困難な仕事に立ち向かった努力や苦労」に対してほめてあげることで、部下の気持ちを思いやることを心掛けてください。
心を込めた「ありがとう」
上司からの「ありがとう」は部下やモチベーションを刺激する上で非常に効果的な言葉です。長い話をして思いを伝えるより、「ありがとう」の一言のほうがストレートに気持ちが伝わるケースも少なくありません。「今回の成果はあなたの不断の努力のおかげだ。ありがとう」というシンプルな言葉をかけるだけで、部下の喜びは大いに刺激されるでしょう。シンプルで素直な感謝の言葉は、時にテクニックを駆使した言葉より強く人の心に染み入ることがあります。
なかなか言えない「ごめんなさい」
先の「ありがとう」と同様、こちらもほめる際に使うと大きな効果が期待できる言葉です。例えばあるプロジェクトで部下がミスをした場合、上司にも責任があるはずですが、「今回のあなたのミスは、きついスケジュールを振った私にも責任がある。ごめんなさいね」と言える上司はあまりいません。
このような状況だからこそ、上司からの「ごめんなさい」の言葉は時に直接的なほめる言葉よりも心に響くことがあります。部下はそれだけでミスに対する自責の念が軽くなり、ネガティブな感情を次の仕事に持ち越しにくくなるでしょう。
同時に「上司もミスの責任を分担して背負ってくれているのだ」といった具合に、上司への信頼感の向上につながる可能性もあります。部下に「ごめんなさい」を伝えるのはなかなか難しいかもしれませんが、時には上司が率先して良い人間関係づくりの手本を見せてあげることも大切ではないでしょうか。