ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
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公開日:2022.08.08
記事やブログや本は、速く失敗すること、早い段階で失敗すること、何度も失敗することを盛んに勧める。シリコンバレーの時代精神は、要はラピッドプロトタイピング、実用最小限の製品をリリースすること、欠陥をすばやく見つけて修正すること、そして成功に必要な前兆として失敗をたたえることだ。問題となるのは、レガシーな組織にいる、とりわけ、失敗を減らすかなくすことを目的とした組織にいるデジタルイノベーター志望者が、この概念をどうしたら適切に応用できるかということだ。
まずは、私たちの調査にあてはめて話を始めよう。デジタルに成熟している企業は、成熟していない企業よりもイノベーティブであることは、何ら驚くようなことではない。だが、イノベーティブであるということは、単にイノベーティブなことをするという意味ではない。むしろ、イノベーションを伝導する組織環境を育てることなのである。どこで見つけたものであれ、新しいアイデアにオープンであるということである。
さらに重要になるのは、イノベーティブであるということは、そうしたアイデアに基づいて行動しようという意欲があるということだろう。急激に変化する環境で、イノベーションがビジネスの成功に不可欠だということに、大半の企業のリーダーは理論の上では同意するだろう。現実には、デジタル時代以前に誕生した組織の大半は、次の二つの理由からイノベーションに悪戦苦闘している。
1.大半のレガシー組織の文化は、変動を減少または除去するように発展してきた。変動は実験に不可欠であり、実験はイノベーションを引き起こす。
2.企業の中核をなすビジネスを効率よく効果的に営みながらイノベーションを起こすことは困難だと、リーダーが感じている。
私たちは調査対象者に、デジタル環境において、組織の効果的な競争力に影響を与えている最大の問題について質問した。圧倒的に多かった答えは、実験および人員にリスクを冒させることである。競合他社よりも成功裏にイノベーションを進めている企業でさえ、実験および人員にリスクを冒させることは、彼らが直面する唯一最大の課題だと話している。
なぜ多くの企業で実験がこれほど難しいとされるのだろうか? 実に簡単なことだが、過去50年以上にわたり、大半の企業は効率性を最適化し、運用上の変動を最小化するように構築されてきた。実験はこれに真っ向から反することなのである。従来型の企業が実験の必要性に苦労しているようすを、わたしたちは目の当たりにしてきた。それは、彼らが失敗することへの恐れに駆られているからだ。
若いデジタル企業の中には、「目的を達成するために」失敗を「来る日も来る日も」経験し、「それを心地良く感じている」企業もある。それは何とも魅力的だと、ANZの経営幹部でデジタルバンキング担当のマイレ・カーネギーは語る。その心地よさは、「彼らのミッションの大胆さに端を発する」。その一方で、老舗企業の多くは、まさに彼らの文化に「織り込まれた、失敗することへの恐れ」を抱いている。
カーネギーは続ける。「グーグルのような会社では、その目的は文字通り世界を変えることだ。同社は、崇高で達成不可能なミッションを自らに課している。多くのレガシー企業の場合、彼らは達成可能で、漸進的なミッションを抱いている。その結果として、漸進的なものを求めているなら目標を達成するだろうが、小さな、漸進的な結果しか得られないことは明白だ」。
多くの企業が実験に悪戦苦闘する主な理由は、失敗は忌避すべきものだと彼らが信じ込んでいるからだ。デジタル時代には、企業がどのように挫折に対処するかが、企業の生存能力を決めるかもしれない。新たな課題に直面することが当たり前になりつつあり、未知のものや実証されていないものがたくさんあれば、失敗は避けられないからだ。
よって、組織が実験を得意になるために重要な要素は、アイデアを試すこと、そこから学習すること、そして試した結果から生産的知見が導き出された場合には、迅速に評価できるようになることだ。企業は生産的失敗を受け入れる環境を作る必要があるが、イノベーターや起業家の速く失敗するというマントラは、失敗を見つけて除外するように仕込まれた組織からは疑わしく思われるかもしれない。速く失敗するというマインドセットよりも、「試して学ぶ」というマインドセットを採用するほうが、簡単かもしれない。
「速く試す」ためには、短期間のスケジュールを定めて実験する方法が良いだろう。実験を行う組織は、短い“スプリント”(例えば6週間から8週間の構想)で、組織の一つの側面を変えようとする。スプリントの最後に実験が終了し、成功か失敗か結論が出される。この一定のタイムフレームのおかげで、不安定なプロジェクトを長期間引き延ばすことなく、実験を辞めるのか再びフォーカスするのか、マネジャーは決断しやすくなる。
「速くテストする」に加えて、「小さくテストする」ことも重要である。企業は何十億ドルもかかるIT導入プロジェクトを、何か重大な教訓を得るためだけに失敗させたくはないだろう。よって企業は必ず、実験と学習の許容範囲を設けるようにしなくてはいけない。何かを学んで次に進めるように、失敗で被る損害を制限する小さな実験を設定すべきである。
最後に、「十分に試す」。企業はリスクをポートフォリオとして管理する必要があり、失敗を一定の許容レベル内に抑える必要がある。適切な失敗率は10パーセントか90パーセントか? それぞれの数字を、別々の企業のマネジャーから聞いたことがあるが、自分の企業にとっての生存可能領域を、必ず見つけなくてはいけない。しかし、十分に失敗していない場合は大胆さが足りない可能性もあることを、マネジャーは念頭に置くべきである。
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訳者=庭田 よう子
翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。おもな訳書に『目に見えない傷』(みすず書房)、『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』(みすず書房)など。
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MIT×デロイトに学ぶ DX経営戦略