本連載をここまで読んで、あなたの組織がデジタルの成熟に向けて最初の一歩を踏み出すべきだと納得してもらえたら、幸いである。連載最後の目標は、前に進むための実用的、実践的な指針を提供することだ。ここでは、実験、意図的なコラボレーション、反復などの多くの教訓を引き合いに出して、組織がどのように教訓を学び、実践できるのかを示す。
デジタル成熟度を高める3段階のプロセス
デジタル成熟度を高め、最終的にデジタル組織に向けて進むプロセスには、3つのステップがある。あなたの目標は、会社でどのように仕事をこなすか、仕事の未来とどのように足並みをそろえるか、それがどのようにデジタルに成熟している組織に成長する土台となるかについて、再考することだ。
1.評価する――あなたの組織がどこをめざす必要があるのか理解するために、まず、デジタル成熟度に関するあなたの組織の位置づけを理解する必要がある。組織のデジタル成熟度は、あなたがそれをどこで経験するかによって、大きく違って見えるかもしれない。企業のデジタル成熟度を評価するということは、組織における成熟度の分布を理解することでもある。
2.可能にする――このステップでは、現在あなたの会社はどの程度デジタルに成熟する必要があるのか判断する。ここで問題となるのは、あなたの会社がいかにして成熟度を高められるかではなく、デジタルに未熟にならないようにするためにどのようなステップをとれるか、ということだ。そして、どの領域でトランスフォーメーションに着手するかの決断は、費用対効果分析によって判断されるべきである。
3.成熟する――このステップでは、対象となる領域をどのように改善し、デジタルの成熟に向けて進むか決定する。アジャイル方法論の短距離走的特徴を展開して、ステップ2で明らかにしたようなデジタル成熟度に向けて、最小限の実践的な一歩を踏み出すべきである。
成熟の次の段階をめざす4段階のプロセス
私たちの3段階のモデルが企業のデジタル成熟度のプロセスを示すには最適だと、データで証明されているが、実質的に組織を評価する場合には、4つの成熟の段階があると考える。3段階のモデルは、デジタル成熟度にいたる道のりで組織が現在どこにいるのか理解するには役立つ。これに対し、4段階のモデルは、企業がどこへ行くべきか検討するために役立つのである。
成熟度の基準はテクノロジーの進化とともに変わり続けるのだ。たとえ、ある組織が今日デジタルの成熟を達成したとしても、明日訪れる変化は、間違いなくさらなる変化を求めるだろう。したがって、最初の3段階は、わたしたちの成熟度モデルの段階を示し、4つ目の段階は、企業が将来目指すところを意味するのである。
1.デジタルの取り組みを探る(初期段階)――組織は、組織の既存の機能を自動化するために従来のテクノロジーを利用する。デジタルに少しだけ手を出しているものの、企業にはわずかな変化しか起きていない。
2.デジタル構想を実行する(発展段階)――組織は徐々にデジタルテクノロジーを活用するようになっているが、組織に存在する、従来のビジネスモデル、経営モデル、顧客モデルにまだ大いに重きを置いている。
3.デジタルに成熟するようになる(成熟段階)――組織における仕事の達成方法、および顧客や取引先、サプライヤーとの交流が、いっそう意図的になり、ネットワーク化され、同時にサイロ化が解消されてくるものの、まだ現在のビジネスモデル、経営モデル、顧客モデルに対してさらに高度な変化を生み出すことに、組織は慎重である。
4.デジタル組織になる(野心的な目標)――ビジネスモデル、経営モデル、顧客モデルは、絶え間なく変化するデジタル環境とエコシステムに向けて最適化される。これは従来のビジネス経営や顧客モデルとはまったく異なり、企業がどのように組織され、経営を行い、行動するかの根幹を、デジタルが担っている。デジタルであることは、組織のDNAの一部であり、行動やあり方の代替的アプローチではない。
組織のDNAとデジタルDNA…
組織文化を幅広く定義する場合、組織の編成や経営方法、行動様式から情報が得られる。これは組織のDNAと呼ばれることが多い。個人のDNAが個人としての特徴を決めるように、組織のDNAは、その企業をほかの企業とは異なる企業にする。組織がDNAの特質を発現した姿が、組織の現在の姿である。
組織のDNAは、時間とともに何らかの方法で複製と進化を続けるが、通常は恒常性のレベルを維持するために全力を挙げ、もっとも漸進的な変化以外は抵抗するだろう。人間と同じように、組織のDNAも強い。これが、合併と買収(M&A)が非常に難しく、異なるDNAをもつ二つの企業が一つになろうとするとき失敗する理由の一つである。周到で慎重に変化に取り組まなければ、組織のDNAの中には、組織がデジタル成熟度を高めようとするとき、妨げになるものもあるだろう。特に従来型の企業や老舗企業においてその傾向が強い。以前から存在し、何世代前と同じか、もしかすると現在のほうが強くなっているDNAを指摘するのはたやすい。こうした特質は、デジタル世界で強みとなるか、移り変わりの激しい時代に対応できるほど進化していない組織の破滅の原因となる。
本連載では、非常に重要なデジタルの特質を掘り下げてきた。例えば、継続的イノベーション、意図的なコラボレーション、反復、決定権の変化、階層構造のフラット化、絶え間ない破壊などだ。こうしたデジタルの特質が、デジタルDNAを作り上げる。デジタルDNAは、デジタル“である”(“being” digital)ための基本的な指示、発達、機能、複製を伝える。
あなたの組織のDNAには、構造やガバナンス、能力、リーダーの行動、人材開発のプロセス、ポリシーに染み込んだ、こうしたデジタルDNAの特質があるかもしれないし、ないかもしれない。もしこうした特質があったとしても、あなたの組織がデジタル世界で成功するために必要な成熟レベルに達しているかもしれないし、達していないかもしれない。こうした特質があるかどうか判断し、もしあるならば、そのデジタルDNAが現在どの程度成熟しているのか判断することが、すべての企業にとって重要である。
DX化の例えとしての組み換えDNA
このDNAの例えは、組み換えDNAのコンセプトと結びつけると、企業がどのようにデジタルに成熟するか考えるうえで役に立つ。遺伝子スプライシングでは、ある生命体のDNAが切り離され、別の遺伝物質がそこに接合される。次に、修飾DNAが複製され、ホストに再び挿入される。その結果、組み換え(つまり新しい、または修飾された)DNAができあがり、次にそれは生命体全体で複製を始める。この変更の結果として、その生命体には異なる特徴が現れるかもしれないし、現れないかもしれないのだが、この生命体は確かに、外部のDNAの特徴によって修正された、ホスト生命体の特性を含んでいるのだ。
遺伝子スプライシングと組み換えDNAは、組織がどのようにデジタルトランスフォーメーションできるかについて、多くの点で秀逸な例えとなる。リーダーは、デジタル世界に企業をより適応させようとして、組織文化で修正したいある側面を特定する。次に、別の組織の望ましい特性を明確にし、実用最小限の変化(MVC)を通して、望ましい特徴をもつ少数のチームや任務、事業部門を投入する。この変化は、新しいデジタルDNAの接合に役立つほど大きな変化であるが、抵抗や拒絶が起きないほどの小さな変化でもある。何度も試行錯誤を繰り返すうちに、こうしたグループが望ましい特徴を現し始めると、組織の1カ所で証明されたその変化を、企業は同様のMVC活動により、組織に広めるようになる。
速く試し、速く学習し、速く評価する
何を変えるべきか、どこを変えるべきか明確にしたならば、次にその変化をいかに引き起こしたらいいかが、最後のステップとなる。この点に関して考えすぎてはいけない。組織全体を変えようとするような、あるいは対象とするデジタルDNAの特性を一度に変えようとするような、大規模な従来型の変革構想を採用してはいけない。わたしたちのアドバイスを実践して、アジャイルな開発メソッドを活用し、90日間(かそれ以内)のスプリントを展開すべきである。こうしたアクションは、あなたの組織をデジタルの成熟ビジョンに向けて前進させるほど大きなものだが、アジャイルのスプリントのメソッドを用いて、影響に拍車をかけるためには十分な、小さなアクションを作れる。
次に、その変化に効果があったかどうか測定する方法を定め、そこから教訓を引き出し、その教訓を、進行中のトランスフォーメーションの取り組みに織り込むことが肝要である。ここでおしまいにして、介入したスプリントの成功または試みを祝いたい衝動に駆られるかもしれない(そこから何か重要なことを学ぶ限り、失敗は選択肢にすぎないことを忘れずに)。実験から得た教訓――実験が成功であれ失敗であれ――を理解することが重要であり、そうした教訓は、次回の実験に織り込める。大事なのは、実験で立ち止まらないことだ。成功が見込めそうな最小限の変化は、成功を収めたデジタルの成熟と等しいものではない。次の二つのステップが必要になる。
①変化を基に反復する。
②組織のその他領域へと変化を及ぼす。
大切なのは、小さなことが成熟できるようにすることと、その過程で支援することである。小さな勝利を積み重ねるうちに、組織のその他の部分もやがて賛同するようになり、トランスフォーメーションのスピードに急速に拍車がかかる。この実践的プロセスの結果として、あなたの組織のDNAに新しい(組み換え)DNAが注入され、常に変化する仕事の未来において成功するために必要なデジタル成熟度のレベルが向上する。