「出生率が過去最低を更新した」というニュースに驚かなくなってきているほど、日本社会は人口減少傾向が定着してきている。子どもが少なくなる現状が続けば、将来の働き手は必ず減り、働き手不足は今よりも深刻になっていくことは間違いない。
近年は初任給の引き上げや賃上げが実施されるように、都市部の大企業ではより良い雇用条件を提示して人材確保に努めている。その影響を受けることになるのが地方の中小企業、人手を集めることが難しい状況が加速している。逆に、地方で働きたいと思う若年層がいても、魅力的な業務内容や労働条件が提示されておらず、やむなく都市部で職を求めるケースもある。
地方に経済活動を支える人材が残らなければ、将来的にはその地域が消滅してしまうかもしれない。地方の中小企業は、なんとしても働き手を集めて、企業と地域の持続可能性を高めていく必要がある。
とはいえ、「この地域にはもう高齢者ばかりで、若年層の働き手そのものが少ない」という事情もある。すでに人材が地域から枯渇しかかっている危機的な状況の地域もあるだろう。そこまでいかなくても、地域の中核都市から距離があり、通勤が難しいなどの理由で採用が難しい企業もある。
そこで考えたいのは、「企業として人材を採用したい業務は出社が必須なのか」ということだ。現場の仕事は出社が不可欠だが、事務職や企画職、営業職などの場合は必ずしも地域の事務所に全員が顔を突き合わせていなくても業務が成り立つ可能性はある。その可能性に望みを託せば、働く場所を問わずに採用するという発想の転換ができるのではないだろうか。例えば、都市部の企業では、コロナ禍を契機に出社を前提にせずにリモートワークを主体にする働き方を採用した。「うちでは、リモートワークなんて無理」と考える中小企業経営者も少なくないだろうが、業務を棚卸しして対面や紙の必要性を減らし、情報インフラを適切に整えれば、リモートワークや在宅ワークを実現することは難しくない。
場所を問わない働き方を提案できるようになると、募集対象の人材は通勤可能圏の限られた働き手を取り合う状況から格段に増える。特定業務についてフルリモートで募集できれば、それこそ対象は全国にまで広がる。もしも定期的な出社が必要だとしても、日々の通勤が不可欠な業務よりも幅広い地域の働き手が募集対象になる。企業が生き残り、地域を支えるためには、こうした人材確保の発想の転換が求められる。
在宅ワークの働き手の利点は?必要な準備とは?
リモートワーク、その中でも在宅ワークが可能になれば、企業だけでなく働き手にも多くのメリットが生まれる。通勤時間や移動時間が減るのはもちろん、業務効率が高まることも併せて、時間にゆとりが生まれる。
家族と過ごす時間や自己啓発の時間など、通勤が前提では難しかった時間が生み出せる。睡眠時間や趣味などの時間を増やすことで、仕事へのモチベーションを高めることもできる。育児や介護のために出社して仕事をするのは難しい人材も、在宅ワークを導入すれば働き手として業務に携わることが可能だ。
それでは、リモートワークや在宅ワークを実現するために、どのような準備が必要なのだろう。コストをかけずに、リモートワークでも出社しているときと同等の業務環境を提供することが課題になる。リモートワークのインフラとしては、ITが不可欠だ。まず準備したいのが、「情報の共有」と「コミュニケーション」のインフラである。
情報の共有という面では、業務に必要な資料や情報をデジタル化して場所を問わずに利用可能にする仕組みを導入し、リモートワークや在宅ワークを実現することが第一歩だろう。しかし、難しく考えることはない。各種書類や資料をAI OCRなどでデジタル化しつつ、データはクラウドストレージサービスなどを利用して保管すれば良いからだ。オフィスの内外にかかわらず、クラウドストレージサービスにアクセスできれば同等の環境で情報にアクセスできる。
もう1つのコミュニケーションは、距離が離れていてもパソコンやスマートフォンなどから手軽にコミュニケーションできるビジネスチャットシステムを導入すると良い。例えば、プライベートで慣れている無料のメッセージアプリと似た使い勝手で、業務用チャットで意思疎通を図ることで報連相も円滑なものになる。ビジネスチャットは、セキュアな環境で使用でき、リモートワークをしている人材だけでなく、出社を中心にしている従業員にも同じ環境を提供することで告知の徹底やアンケート機能による情報収集の迅速化などの効果も生まれる。
こうしたITインフラを、低コストで迅速に導入し、セキュリティを担保して運用していくことが、リモートワークや在宅ワークで人材を確保するための準備になる。その上で、経営者や既存の従業員がITインフラに慣れて、場所を問わずに働く新しい人材と一緒にビジネスを推進していく意識を持つことも、準備の要になりそうだ。
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