新型コロナウイルスの流行によって、日本社会もニューノーマル(新常態)の時代を迎えようとしています。ただし、そんな中でも少子化基調が続くことによって、人手不足に陥る可能性は高いでしょう。それを解決する手段として有力なのは、シニアと女性の活用をさらに進めることです。若年層や男性の代わりとして考えるのではなく、シニアや女性を活用することのメリットを考えて、経営に生かすことが大切です。
人口減少問題が、深刻な人手不足をもたらしています。人口減少問題だけではありません。 若い人々の就業の嗜好が、なるべくきつくない仕事、なるべくきれいな仕事、なるべく稼げる仕事、なるべく安定した仕事、なるべく福利厚生が充実した仕事などと、かなり選択の幅が狭くなってきています。
しかも、「自分の好みを曲げてまで、働きたくない」という子どもを許容する親の懐の深さ(?)もあり、特に中小企業では、若い労働力を確保するのは、ものすごく大変な状況です。仕事があっても、それをこなす人材がいないのであれば、やはり会社は立ち行かなくなります。そして、会社が立ち行かなくなれば、ますます経済は縮小してしまい、社会インフラは荒れ果てていきます。
そこで、「新卒採用がうまくいかない」といつまでも嘆いているだけでなく、新たな労働力確保を考えなければなりません。これは一企業だけの問題にとどまらない、国家的な重要な問題です。これまでは企業側も、年齢や性別などを採用の条件にしているケースも見られましたが、今後は、そんなことは言っていられません。
非常に頼もしい戦力になる
よく考えると、経験豊富なシニア、きめ細かな配慮ができて同世代のニーズを的確にキャッチできる女性は、企業にとっても非常に頼もしい戦力になり得ます。そもそもシニア、女性の業務能力が、若い男性と客観的に比較して、低いと言い切れるのでしょうか? 求人募集をかけてもなかなか人が集まらない今日、その点も経営者は改めて見直すときに来ているといえるでしょう。
今回の短期集中連載では、シニア、女性を労働力として活用することに関する法整備などを説明していきます。 若い男性が採れないから、仕方なくそれ以外の選択肢を考えるというネガティブな考え方を一度捨て去って、改めて企業にとって本当に必要な人材をどのようにすれば確保できるかという視点から考えてみましょう。
全国に設置された 「シルバー人材センター」…
シルバー人材センターとは、もともとは、現役を引退したシニアが働くことを通じて、引退後も社会とのつながりを持っていきたいというシニアの団体として、 1975年に「高齢者事業団」として設立されたのがその始まりです。「高年齢者がその経験と能力を生かしつつ、働くことを通じて社会に貢献し、生きがいを得ていく機会を確保する」という設立趣旨のもと、東京から全国各地に広まっていきました。
その後、国が1980年に事業団に対して、補助金を付けるようになり、それを契機に名称が「シルバー人材センター」と改められました。そしてさらに、1986年、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が施行され、シルバー人材センターがその法的根拠を有するに至り、全国各地の設立が促進されることになりました。現在、シルバー人材センターは、日本各地に約1300カ所が設置されており、会員数は2020年統計で約70万人になっています。65歳以上の労働人口の約1割に当たる巨大組織となっています。
請負・委任?それとも派遣?
例えば、シルバー人材センターに何かの仕事を依頼したいとします。ただ、一言で「依頼」といっても、実は法的には、さまざまな見方ができます。請負とは、発注された仕事の完成を目的とするもので、発注側は、仕事の遂行について指揮命令権を有しません。委任も同様に委任された業務の遂行を目的とするもので、委任者は、業務の遂行について指揮命令権を有しません。あくまでも、依頼された仕事・業務を契約上の納期限までに完成・完了することだけが目的ですので、請負・受任者側は、何時から何時まで働こうが、機械を使ってやろうが、手作業でやろうが、仕事のやり方は請負側の裁量に委ねられています。また、どんなに長時間働こうが、要領よく短時間で終わらせようが、代金はあくまで1件分の料金です。
ただし、委任の場合にはタイムチャージといって、時間制課金を採用する場合もありますが、給与(時給)ではありません。 他方、派遣の場合には、労働者は、派遣元に雇用され給与としての時給・日給の支払いを受けますし、仕事の遂行に当たっては、派遣先での指揮命令に服することになります。 では、シルバー人材センターは、請負なのでしょうか?それとも派遣なのでしょうか?
実は、シルバー人材センターに登録されたシニアは、原則としては、請負ないし委任として働いています。しかし、請負・委任といっても、ちょっとややこしいですが、発注者側とシルバー人材センターがまず請負・委任契約を締結し、さらに、シルバー人材センターとシニアが請負・委任契約を締結するという形になっています。その意味で、俗にいう、シルバー人材センターのシニアは、一人親方ないしは独立事業者といえます。
ただし、シルバー人材センターによっては、派遣事業を行っている場合もあります。この場合には、労働者派遣法の規制を受けることになり、シニアはシルバー人材センターから給与をもらうことになります。
シルバー人材センターに登録したシニアは、基本的に請負か委任の形で働くことになるため、個人事業者の扱いとなり、労災保険の適用が受けられません。シルバー保険という傷害保険には加入していますが、例えば、熱中症やむち打ちなどの場合には、保険の適用が受けられないということもあるようです。また、請負・委任という形になるため、最低賃金法の適用がなく、実際、請負金額なども最低賃金法より低い単価になる場合も少なくないようです。