「古くなってきた」「客足が遠のいてきた」「洋食屋から和食屋に変えたい」などが理由で、店舗の内装を変える飲食店の方もいらっしゃるでしょう。その場合、業者に頼むと費用がかかるため、今はやりのDIYを考える方もいるのではないでしょうか?
今回は、DIYでどこまで工事ができるのか、注意すべきポイントなどを店舗作りの専門家のatelier UD MIKAさんに教えていただきました。
飲食店の内装工事はどこまでDIYでできますか?
法律で決められた「電気工事・水道工事・ガス工事」以外であれば、基本的になんでもできます。一般的には壁を塗る、棚やテーブルを作るなどを自分でする方が多いです。なお、電気工事や水道、ガスは専門の資格が必要となるため、自分でできそうだと思っても業者に依頼してください。水道は軽微な変更(水栓のパッキン交換など)はセルフビルドも可能です。
設計の段階でDIYする部分は決められますか?
希望があればできます。先ほどもお伝えしたように、法律に触れない範囲であれば大丈夫です。店舗を出すときにはさまざまなパターンがありますが、さら地の状態で建築から作るものもあれば、空きテナントを借りて内装を作る場合もあります。どの場合でも、DIYの本やYouTubeで紹介されているような内容であれば、設計士と相談しながら決めることができます。
デザインだけプロに任せて、工事はDIYという方法はできますか?
できます。デザイン費はかかりますが、自分では考えつかないオシャレなデザインや、店のコンセプトにあったデザインができあがります。飲食店の設計を得意としているデザイナーは多彩な経験をされている方が多い印象がありますので、きっと心強い味方になってくれると思います。また、デザイン費用は坪単価+諸経費で計算しているデザイナーが多いですね。
業者とDIYとでどれくらい内装工事の費用は異なりますか?
工事の内容にもよりますが、確実に変わる点は人件費です。一般的に、職人さんを1人雇うと1日あたり3〜5万円が相場かと思います。たとえば、壁一面を塗る作業を2名の職人さんに頼むとします。広さにもよりますが、例えば職人さん2人で2日くらいかかる広さとしましょう。その場合にかかる費用は「2名分の人件費×日数分」+「材料費」+「諸経費」です。しかし、これをすべて自分で行うとかかる費用は材料費だけで済みます。
DIYを選ぶ理由は、費用以外にどんなことがある?
第一に、業者はスケジュール調整に時間がかかるからですね。業者に依頼する場合、どうしても職人さんのスケジュールに合わせなければいけません。そのため「今すぐ壁の色を変えたい!」などの場合は、自分でホームセンターにいって材料を買って作る方が早いのです。
第二に、店舗のブランディングにつながるからという理由でDIYされる飲食店もいます。「家具はすべてお店の手作りです!」など、店一丸となって作ることがお店のアピールポイントになる場合もあります。とくにデザイナーや職人さんに依頼しなくても、空間の作り方が具体的にわかっているオーナーさんも多いですね。知人もこのパターンで、ほぼすべてDIYで内装を作っていました。
お店を新たに作る場合、賃料発生日との兼ね合いがありますので、「いつまでにOPENさせたい!」という希望があることがほとんどです。ただ賃料発生日などの制約がなく、時間的余裕がある場合はオーナーご自身のペースでお店づくりをすることもあります。
店舗内装をDIYするメリット・デメリットについてお伺いします。…
メリットは何より低コストで行える点ですね。他にも「自分のテンポ(スケジュール)で行える」「こだわりや理想を実現しやすい」などがあります。先ほどもお伝えしましたが、業者を通すとどうしてもタイミングの調整が必要です。しかし自分で工事すれば、極端な話、今すぐにでも空間を変えることが可能です。また、材料もデザインも自分自身で決められるので、周りからとやかく言われるのが苦手なオーナーさんにはとても向いていると思います。
一方、デメリットは空間全体を見て考えることが難しいことです。空間づくりの知識やセンスがないとどうしても、店舗全体のバランスを取るのが難しいと思います。また、希望の空間に対して最適な材料を選定することも、知識がないと難しい場合があります。たとえば、洋食屋からおでん屋に業態を変えたい、じゃあ壁の色を変えよう!とします。和風な雰囲気にしたくても、塗料のチョイス一つでなぜか洋風な仕上がりになってしまうことも。そういったことを気にしなかったり、「味」だと割り切れる方々がDIYに向いていると思いますね。
飲食店のDIYを成功させるコツには、どのようなものがありますか?
「デザイン・機能・メンテナンス」という3つのポイントに注意すれば、DIYでも満足のいく内装に仕上げることができます。
第一に、デザイン面です。店舗全体を見ながら、違和感がないか確認しましょう。お店の雰囲気はスタイリッシュなのか、ナチュラルなのか、高級感があるのかなど、テイストや雰囲気によって材料を選びます。お店の雰囲気と素材や質感を調和させることがポイントです。たとえば、和風の床や壁でぬくもりを感じるお店なのに、ヨーロッパ調のデコラティブな家具を置くとちょっと違和感がありますよね?材質や物を選ぶとき、単品では素敵に見えるかもしれませんが、全体像を想像するとより成功しやすいと思います。
第二に、機能面です。自分でDIYすると、作った後から「使い勝手がよくない」と気づくことが多くあります。そうならないためにも、使う素材の特性やサイズ感は事前にしっかり考えましょう。たとえば、テーブルを作ったとします。実際にテーブルにコップを置くと、冷たいコップの汗が木の部分に染み込んでテーブルがビチャビチャになるかもしれません。また、思ったよりもテーブルが小さくて、料理を一度にたくさん出せないなんてことも起こり得ます。何も考えずに作るとあとからトラブルが起きやすいため、素材や仕上げ・サイズ感は重要です。
第三に、メンテナンス面です。前述の機能面と少し似ていますが、使い続けるといずれメンテナンスが必要です。内装工事の時点からメンテナンスも考慮して素材や仕上げを選定できると良いですね。たとえば、焼肉屋やステーキハウスの場合、料理から出る湯気には油分が含まれるため、年月がたつと床や壁がベタベタになります。場合によっては床が滑りやすくなり、お客さまが転倒してしまう危険もあるのです。そうならないためにも、店の業態によって床や壁、テーブルなどの素材を何にするのか考える必要があります。
DIYを行う上で、どのような注意点がありますか?
実際に店舗内装をDIYする際に考慮すべき点はたくさんありますが、とくに気をつけるべきポイントは「安全性・知識・規則・配慮」の4つです。床・壁・天井・インテリアすべてのDIYに共通することなので意識して行いましょう。
第一に、安全性です。自分で工事するとどうしても見た目ばかり重視してしまい、機能性やメンテナンス性を見落としてしまいます。とくにお客さまが直に使う家具は強度が大事です。たとえば椅子を作る場合、脚が不安定でガタガタしたり、脚が折れたりしないように作らなければ、お客さまが怪我をするかもしれません。実際に使ってみてはじめて気づく不具合や危険もあるため、作る際は、どんなリスクや危険があるかを想定し、事故が起こらないようにする必要があります。
第二に、知識です。壁を立てる・撤去するなどの大掛かりなDIYをする際は、建築上の構造を理解しておいた方がよいでしょう。建物の強度にかかわる壁を取り除いてしまうなどの恐れがあるからです。たとえば、雑居ビルに入っている店でDIYする場合「ここの壁が邪魔だから取りたい」と思い取り除いてしまうと、ビル全体に問題が生じる可能性もあります。建築全体での構造に必要な壁かもしれないので、内容によっては建築の構造との兼ね合いを確認しましょう。
第三に、規則です。地域によっては、店の外観を自治体が定める色やトーンにしなければいけません。その代表例に京都があります。ファストフード店やコンビニエンスストアの看板は、通常よりも色味が落ち着いていることが多いです。照明の明るさについて規定されている場合も多いです。このように、街の景観に対して規制のある自治体では、法規や条例などの兼ね合いも考慮する必要があるのです。
第四に、周りへの配慮です。雑居ビルなど他のテナントを有する建物の場合、DIYの内容によっては建物の所有者への確認が必要です。「いつ、どの部分を、どのように変更する」などを伝えます。また、塗料のにおいや、工具などから大きな音が出ると、近隣の店舗や住宅に迷惑がかかるかもしれません。内容によりけりですが、DIYをする場合は周辺の建物オーナーに一言断りを入れておくと余計なトラブルを回避できます。
最後に、内装工事を考えている飲食店の方に向けてメッセージをお願いします。
飲食店の内装・外装を自分で行う際は、店舗全体との調和を考えて、そのあとのメンテナンスや法令に気をつけましょう。デザイン面だけに重きをおいて、機能性やメンテナンス性を見落としがちになります。できればしっかりと時間をかけて慎重に、後々のことを計画的に考えて実施することがなにより重要です。
また、繰り返しになりますが電気・水道・ガス工事は有資格者の工事が法律で定められているため、間違っても自分でせず、専門家に相談しましょう。
専門家プロフィール
atelier UD MIKA
飲食店や食物販店の内装設計やディレクション業務に10年以上従事。
内装設計だけでなく、新業態のコンセプトメイクや全国展開するチェーン店の
店舗ガイドライン作成など店づくりのあらゆる業務に携わっている。
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※この記事は2021年9月時点の情報です