企業が自社ホームページを作成したいと考えた際に悩む点の1つは「なんとか自分達でできないだろうか?」ということでしょう。なぜなら外部の制作会社に依頼すると、そこそこの制作費用がかかってしまいます。そのため、手元資金の関係でホームページを諦めている経営者もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は「自社でホームページを制作する」ことが現実的にどうなのか?という点について、中小・小規模事業者の方々の支援経験が豊富なWEBコンサルティング会社、株式会社ラウンドナップの中山陽平氏に話を伺いました。
用途や目的ごとにホームページ作成方法は異なりますか?
使うツールや作り方は大きくは変わりません。ただ、ECだけは別なので注意して下さい。集客やブランディングが目的の会社や店舗用のホームページは、一般的な作成方法で作りましょう。作り方はいろいろありますが今はネット上に管理画面があるクラウド型の専門ホームページ制作ツールがおすすめです。後述するECを除き、ほとんどのホームページはこちら側ですね。一昔前に流行った無料ブログやビジネスブログなどはやめましょう。
そして、物をその場で売ることが目的のECサイトはまったく別物です。ECサイトは物を売ることが目的のため、決済機能も必要です。作成するには時間と、専門知識、経験が求められるため、ショッピングモールやショッピングカートASP※を利用することがおすすめです。ECを検討している方は、きちんとEC部分はEC専門のツールを使うことをおすすめします。ECと普通のホームページ両方の機能を持っているものもありますが、中途半端になりがちなので、別々に契約をおすすめします。
※ショッピングカートASP:ECサイトに必要な機能を提供するクラウドサービス
自分で作る場合と、プロに依頼する場合でどの程度コストに差が出ますか?
一般的な制作会社にホームページ作成を依頼する場合は、規模にもよりますが最低でも、50〜100万円かかるところがほとんどです。業種業界によっては、あるいはその会社の料金テーブルによってはもっと高いことも少なくありません。ホームページ制作は労働集約型の商売なので、単価いくらの人間に何時間働いてもらうかで費用は決まります。費用を抑えたい場合はクラウドソーシング系が使われることが多いです。時間単価が安いからです。例えば「クラウドワークス」や「ランサーズ」、「ココナラ」などが大手ですが、数ページ5〜10万円で安価に作成できる可能性もあります。
ただ、スキルについてはバラツキが大きく、値段だけで選ぶと、素人に近いようなホームページが納品されるケースも少なくありません。きちんと依頼と要望の伝達、提示されたものに対しての評価などいわゆる「発注と検収」ができないと、最初は失敗が多いかもしれません。
先に申し上げれば、今の時代は特に中小・小規模事業者の方々は自分で作る方法をおすすめします。最初は難しいかもしれませんが、最初だけWEBコンサルの伴走支援を受けながら進めれば、私の経験上1年もあれば充分ひとり立ちできます。年に数度の定期診断だけさせてもらえれば、上手く回るケースが多いです。
しかし、どちらにしても前提として考えていただきたいのは「事業主や担当する従業員の方がホームページ作成にどれぐらいの時間を割けるか」です。なぜなら、放置されたホームページほど害悪な物はないからです。現場にはないメニューがあったり、古いキャンペーンがそのまま掲載されていてクレームになったり。また、最終更新が古いと「潰れたのか?」と思われてマイナス印象を与えてしまいます。きちんと時間を割ける体制を取れることが必須要因です。必ずシミュレーションして考えましょう。
これが難しい場合は、まずは体制作りから入ることをおすすめします。落ち着くまで何も無いのも良くないので、HPができるまでの間はSNS、例えばInstagramやLINEなどでつなぎましょう。ムリにはじめて現場が苦しんでは良いものはできません。飲食店の場合、直接的な成果が出るまで時間がかかるため尚更です。
また、自分たちで作るなら実費以外タダという考え方もやめましょう。なぜなら、担当者の人件費がかかっているからです。ヒマで何もすることがない従業員であればいいかもしれませんが、この人手不足のご時世それはないでしょう。誰かが本来別のことをやっていた時間を、WEBに振り分けるのですから、それは人件費を使っていると考えるべきです。コスト計算はその前提で行うことをおすすめします。ちなみに、それをやった結果、かなりのコスト増に気づいた…ということがよくあります。伴走支援者を入れたほうが安上がりなケースは少なくありません。
独自ドメインとは何でしょうか?
独自ドメインとはいわばWEB上の住所です。一般には、ドメイン販売会社から取得します。ただこれは1度買えば永久に自分の物になるものではなく、毎年使用料の支払いが必要です。賃貸に近いイメージかもしれません。更新を忘れると取り返せないケースが多いので、必ず更新は忘れないようにしましょう。
費用としては、一般的なものは年間数千円以内で取得・管理できます。後述しますが今は「必須」ですので、必須コストと考えて、必ず独自ドメインを取得するようにしましょう。ホームページを作成する際に独自ドメインは必須とお考え下さい。詳細はそれだけで1つの記事になってしまうので省きますが「ビジネスの信頼性アップ」「使うサービスが変わってもお客さまを迷子にしないで済む」「SEO(検索エンジン最適化)でメリットが大きいから」などさまざまな理由があります。
例えば、「使うサービスが変わってもお客さまを迷子にしないで済む」とはどういうことでしょうか?例えばホームページをビジネスブログで運用していたが、そのサービスが終了するので別のサービスに移動しないといけないような状態になったとします。その場合独自ドメインを持っていないと、あなたのホームページのURLは変わってしまいます。そうすると、QRコードなどで自分たちのホームページのアドレスをいろいろなところで宣伝していたなら、それが全部「リンク切れ」になってしまうのです。
しかし独自ドメインを使っていれば、URLは代わりませんので、その事態を避けられます。他にも前述の様々なメリットがあります。ドメインは年間数千円程度で取得できるため、必ず独自ドメインを取得することをおすすめいたします。
知識・スキルがまったくなくてもホームページは作れますか?…
はい、なくても作れます。技術の発展に伴い、昔のようなHTMLやCSSのスキルは不要です。デザインもホームページ作成ツールやサービスですでに出来合のテンプレートがありますので、それを使えばオリジナルではありませんが必要十分なホームページができます。
仮にHTMLやCSSの知識があれば、どのようなことをできますか?
HTMLやCSSが書けると何が良いのか?それは自由度が高まるという点です。例えば、文字の大小や画像の大きさはもちろん、様々な物のレイアウトや配置、細かい調整など、かなり自由にカスタマイズができるようになります。
また、より深く知っていると、例えば以下のような機能も「自分で」ホームページに組み込むことができるようになります。こういったものは、従来は制作会社にそこそこの費用を払って、追加してもらう機能でしたが自分でできたらとても良いですよね。
・SNS投稿シェアボタンを設置する ・ページ表示速度を改善する ・YouTubeなど外部ツールとの連携を自動化する ・携帯で見やすいようにPCとスマホで見栄えを切り替えるようにする ・画像をギャラリーにして見やすくする ・問い合わせフォームを設置する ・アニメーションをつける
ただ、HTMLやCSSを越えて、JavaScriptやPHPなどのいわゆる「プログラミング言語」になると、それなりに経験がないと自分でトライするのはリスキーかもしれません。なぜなら、1つのミス、例えばたった一文字を誤って消しただけでも、ホームページが動かなくなって真っ白になってしまうこともあるからです。そこは、餅は餅屋、プログラマーの方と共闘したほうがよいでしょう。HTMLやCSSはそこまでの大きな事故は起きませんし、修正前のHTMLをコピーして取っておけば直すのも楽です。
有料テンプレートは何を選べばよいでしょうか?
有料無料にかかわらず、テンプレートは、自分の好みではなく「自分たちのお客さまが好むもの・使いやすいもの」を選んで下さい。
テンプレートについては、使うホームページ作成サービスによって選ぶ自由度・カスタムする自由度が異なりますので、そのサービスで可能な範囲でというのが前提になります。その上で選び方としては最も大事なのは「お客さまがあなたの業種に対して抱いているイメージから離れるな」です。医者ならブルー系をまずは想像しますよね。奇をてらって変な配色にすると、その業種だと認識されず、せっかくホームページに来た人を逃がしてしまうかもしれません。
また、レイアウトも重要です。日本人が慣れているデザインやレイアウトの方が反応は良くなります。できるだけそういった物を選びましょう。日本企業が作っているテンプレートは日本人向けに作られているものが多いので、まず国産を探すのが良いかもしれません。
例えば、海外のテンプレートがほとんどそうなのですが、日本の「ホームページのお作法」に合わないものが多いです。例えば日本だと「右上に問い合わせボタン」があるのが一般的ですが、海外ではない、あるいはページの一番上にある事の方が多いです。国毎にスタンダードが異なります。あとは、わからなかった時のために相談できるサポートがついているものがおすすめです。
ホームページ作成サイトを使うメリット・デメリットは?
一番のメリットは、簡単な操作でホームページが作れることです。また、ホームページ運用に必要なシステムやサーバーの管理が不要です。さらに、メジャーな機能はそろっているため、初心者でも覚えて使えるようになるまでが早いでしょう。
デメリットはフォーマットがほとんど決まっているので、フォーマットの枠を超えたオリジナルのサイトを作ることが難しい点ですね。できることはサービスの機能に縛られているため、やりたいことができないケースもあります。また、サーバーのチューニングもできません。
初心者におすすめの簡単にホームページが作れるサービスはありますか?
ユーザーが多いのは「Wix」と「Jimdo」ですね。お客さまの問い合わせでもっとも多いサービスでもあります。デザイン性と自由度が高いから、必要な機能をある程度押さえているからだと思います。
「Wix」は数百種類ものテンプレートがあり、ドラッグ&ドロップでページを作成していけるので初心者におすすめです。簡単に美しいホームページが作成できますね。無料の拡張機能もあり、ネットショップも作りやすくなっています。
「Jimdo」は無駄な要素を削ぎ落とし、必要な要素のみが厳選されています。そのため、初心者が迷うことなく、短時間でスムーズにホームページを作成できます。どちらもオンラインで提供されており、月々無料~1,000円程度と比較的安価です。まずはこのあたりを試用していただくとよいのではないでしょうか。
初心者向けに作られています。拡張性や普及率を考えると「WordPress※」が最もおすすめです。また、両方ともインターネット経由で使用する「クラウド型」です。「クラウド型」はホームページの運用や管理をWEB上で利用できるため、自分のパソコンやスマホにアプリをインストールする必要が基本的にありません。いつでもどこでも、更新作業ができます。これは大きいですよね。みんなの分のツールを買う、データを共有する等の必要がありません。
「WordPress」は自分で借りたレンタルサーバーにインストールが必要ですが、できてしまえば、「Wix」や「Jimdo」と同じように自由に使えます。「Wix」や「Jimdo」などには管理用アプリがあるので、スマホだけでホームページ作成も可能です。Wordpressはブラウザで更新可能です。画面が小さいのでできればタブレットやPCがよいと思いますが。
※WordPress:初心者でもブログやホームページが作成できるオープンソースのツール
他にも、デザインにこだわったホームページを簡単に作れるサイトはありますか?
国産だと「WordPress」の有料テンプレート「TCD」を使われている方が多いように思います。ただし、基本はWordpressですので、テンプレートで作るものとしては「Wix」や「Jimdo」より難しいです。それでも自分好みにカスタマイズできるデザインやレイアウト、便利に拡張しやすいところなどWordpressを使いこなすことによるメリットはたくさんあります。
毎月かかる費用はいくらでしょうか?
「Wix」や「Jimdo」などホームページ作成サービスは基本的に無償から使えます。月額1,000円から2,000円で、ドメインのオプションや、SSLセキュリティ※、24時間サポートサービスなどがついたプレミアムプランの選択もできます。ビジネスで使うなら有料版だと考えた方が良いです。自分でレンタルサーバー&ドメインを取得する場合なら、「さくらのレンタルサーバ」の月額500円のスタンダードプランが多いですね。また私がおすすめしている「エックスサーバー」は月額1,200円程度から使えます。
管理までの運用代行を制作会社にお願いする場合の費用は、どこまでやってもらうかによって違いがあります。セキュリティのためのアップデート・保障などをつけて月額20,000〜30,000円程度が多いかなと思います。ただし、制作会社によってかなり違いますのでご注意下さい。値段が水物だからです。
※SSL:データ通信を暗号化して第三者に傍受されづらくするセキュリティ技術
それでも難しい場合、他にも簡単にできるものはありますか?
それでもどうしてもホームページ作成が難しい場合もありますよね。その場合、たとえば、InstagramなどのSNSを代用品としてはじめてみてはいかがでしょうか。何もしないよりはずっと良いです。もしアカウントがあっても中途半端なら、お客さまにあなたのお店の情報が届くように改善しましょう。またGoogleマイビジネスから料理の写真や店舗の写真の投稿をしてみるのもよいでしょう。ポイントは、継続して投稿することと、使える機能は積極的に使ってみることです。失敗しても良いのでやってみてノウハウを貯めましょう。それはホームページ運用の時にも役に立ちます。
最後に、ホームページ作成を考えている事業者にメッセージをお願いします。
ホームページ作成はコーディング知識がなくても、ホームページツールを利用すれば簡単にできる時代になりました。何か1つおすすめしろと言われれば、とくに初心者にはドラッグ&ドロップでページを作成できる「Wix」が今でしたらおすすめです。費用もビジネスで使うためのオプションをつけても年間30,000円程度です。新しいサービスもどんどんでてくるので、使えそうな物は使っていきましょう。失敗してもやってみる精神が大事です。
また、お店をPRする上でホームページは当然あった方がよいですが、難しい場合の急場しのぎや、ホームページを補助する集客ツールとしてSNSもぜひ利用してみてください。ホームページやネットでの発信は、いまや企業や飲食店集客に必須の手段です。ご自身で商売をされている方は、少しずつチャレンジしてみましょう。
専門家プロフィール
中山 陽平
株式会社ラウンドナップ代表取締役・WEBコンサルタント。『この世からウェブを活用できない企業をゼロにする』をミッションに,中小企業・小規模事業者を中心に活用支援を行う。WEBセミナーPodcastは300回以上配信中。https://www.roundup-consulting.jp
※「クラウドワークス」は株式会社クラウドワークスの商標または登録商標です
※「ランサーズ」はランサーズ株式会社の商標または登録商標です
※「ココナラ」は株式会社ココナラの商標または登録商標です
※「Instagram」はMeta Platforms, Inc.の商標または登録商標です
※「LINE」はLINE株式会社の商標または登録商標です
※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの商標または登録商標です
※「Wix」はWix.com, Incの商標または登録商標です
※「Jimdo」はJimdo GmbHの商標または登録商標です
※「さくらのレンタルサーバ」はさくらインターネット株式会社の商標または登録商標です
※「エックスサーバー」はエックスサーバー株式会社の商標または登録商標です
※この記事は2021年9月時点の情報です