資本金は、会社の規模を示す数字の一つとして広く一般にも知られています。しかしながら、会計や経理に携わっている方を除いては、実際に関わる機会もなく、経営者であってもあまりなじみがないものかも知れません。今回は、資本金とともに、個人事業主にとっての資本金に相当する元入金とともに、言葉の意味や基礎知識について学んでおきたいと思います。
そもそも資本金・元入金ってナニ?
法人で事業の元手になる「資本金」
株式会社は、出資者からのお金を元手にして事業を興し、利益を生み出しています。この出資者は、出資したお金と引き換えに株式を受け取ることから株主と呼ばれ、利益の一部を配当金として得たり、会社の方針に意見したりすることができます。この出資したお金のうち、資本に繰り入れたものが資本金です。会計上は資本に繰り入れた上で、そのお金を現金として事業に使う形をとるため、資本金自体が会社の業績にあわせて増減することも、マイナスになることもありません。事業で得た利益は、利益剰余金として、資本金とは別に区分することになります。
個人で事業の元手になる「元入金」
一方で個人事業主も、開業時は個人のお金を事業用に出資するという形を取ります。これを元入金といい、会計では個人事業特有の科目となります。法人と同じく、事業の元手となるお金ですが、個人事業主は事業主借や事業主貸などの科目があることでもわかるように、あくまで個人の範囲内で会計を行うため、元入金自体は毎年変動します。例えば初年度に100万円で開業すれば、元入金は100万円となりますが、初年度の期末に20万円の赤字に陥っていれば、元入金は80万円となります。
資本金と元入金は、こうした違いもあるとはいえ、会社にとっては資本となります。そのため、取引相手や銀行はこれら金額も「信用できる情報」として評価する基準としています。
資本金・元入金の適正金額は?
かつてはブームにもなった「1円起業」
「株式会社は1円からできる」という言葉を耳にしたことがある方もいると思いますが、2006年5月に施行された新会社法により、旧法の最低出資金(有限会社300万円、株式会社1000万円)制度が廃止され、株式会社は1円以上の資本金で設立ができるようになりました。施行された当時は、実際に資本金を1円にして設立する「1円起業」がブームにもなりました。
しかしながら、先述の通り「元手となるお金」が1円しかない会社が事業を興すことは難しく、会社は設立直後から何かしら借金をした形でのスタートとなってしまいます。これを良しとするのも経営判断の一つかも知れませんが、イメージも決して良くなく、あまり得策とはいえません。
先の運転資金も踏まえて金額設定を
では、資本金や元入金の適正金額とは、どうやって算出するのでしょうか。まずは言葉の意味通り、元手となるお金がどれくらい必要かを考えてみましょう。開業に必要な費用はもちろんですが、事業が軌道に乗るまでの期間の運転資金も用意しておくべきでしょう。業種にもよりますが、6カ月程度あれば安心といわれます。また、キリのいい数字として100万円、旧会社法からの流れを継いで、資本金を300万円前後に設定する会社が散見されます。
また、これは次項に詳しく書きますが、資本金が高ければ良いとも言い切れません。資本金が高いことで、支払う税金が増えることもあるのです。
最近多い「資本金の減資」、メリットは?…
[caption id="attachment_43936" align="aligncenter" width="600"] 大手企業が軒並み減資を実行[/caption]
2021年に入ってからも、JTBや日本旅行、スカイマーク、出前館など、一般にも知名度が高い会社が軒並み減資を行っています。昨今はコロナ禍の影響によって少しでも赤字を抑えたいということは理解できますが、なぜ事業規模の大きな会社が自社の信用にも関わる資本金を減資するのでしょうか。
法人税法上、資本金が1億円以下の法人には優遇税制が設けられているからです。その一つとして、欠損金(法人税法上の損失)の繰越控除があります。資本金1億円以下の法人では、この欠損金が全額控除できますが、それ以外の大規模な法人では、50%までしか控除できません。欠損金自体は10年間の繰越控除ができることから、大きな利益が生じた年には法人税を節税することができます。
法人税率、消費税などでも優遇が
また、資本金が1億円以下の法人については、年間800万円までは低い法人税率が適用されます。さらに資本金が1000万円未満であれば、法人住民税の均等割の金額を抑えられたり、会社設立から2年間は消費税の免税事業者という扱いで、消費税の納付が免除されます。
もちろん、他にも各事業をあわせた規模感がコロナ禍等で変化し、規模に見合う形で減資を行っているということもあるでしょう。かつては高価な設備や土地、人員を要する事業を行っていたが、事業規模の縮小や転換を行ったものの、資本はそのままにしていたという会社もあると思います。減資は株主総会での特別決議が必要ですが、まずは見直す機会としていただければと思います。
資本金にまつわるトラブル事例&注意点
融資時に影響が出る「自己資本比率」
ほか、資本金・元入金に関するトラブルと注意点について見ていきましょう。
一つは融資時のトラブルです。会社では、運転資金や新規事業立ち上げのための資金として、銀行や信用金庫から融資を受けることがあります。法人の場合、資本金は変動しないので、「以前に融資を受けたから、今回も大丈夫だろう」と思いがちですが、決してそうとは言い切れません。とくに負債と資本の合計のうち、自己資本がどれくらいの割合になっているかという「自己資本比率」が低ければ、銀行や信用金庫は貸倒れリスクを恐れて、融資をしないこともあります。また、個人事業主の場合、融資時に「元入金がマイナス」の状態だと、いくら事業自体が好調であっても、先と同様に貸倒れリスクと判断されかねません。いずれにしても、少し先までの融資の可能性も考えて、経営に取り組みたいものです。
「50:50の共同経営」は大きなリスクが
もう一つ、これは法人に限りますが、2人で均等に出資して設立する場合に生じるトラブルです。友人と会社を設立する場合、公平性を求めて均等に出資するということを考えがちですが、これは大きなリスクとなります。それは、将来的に必ず起こるであろう「出資した2人の意見が対立する」ということ。出資金が均等ということは、議決する権利も対等であり、どちらかが納得しなければ経営が立ち行かなくなることは明白です。これは4人や6人といった偶数では起こりうるリスクであるため、あらかじめ出資比率に差をつけておくか、奇数の人数での共同設立にしたほうがいいと考えられます。
おわりに
資本金や元入金は、経営者であっても日常的に確認することは少ない科目といえます。しかしながら、会社にとっての資本であり、他からの信用を生み出す大切な数字でもあります。会社設立時には事業計画を念頭に置きながら、また創業期を過ぎてからも定期的に顧問税理士など専門家の意見を聞きながら、より良い会社経営に役立てたいものです。
専門家プロフィール
室田 昌克
税理士。大阪市都島区に所在するBiz Bloom経営会計事務所の代表として、顧客の税務や資金調達などのサポートに従事。事務所開設前は、パナソニックをはじめ大手企業数社の財務部門にて、資金調達、M&A、事業計画策定などの業務に携わる。
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