新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために、多くの会社でマイナスの影響が出るなか、昨年来さまざまな助成金・給付金が打ち出され、利用が進んでいます。なかには複雑な条件が設定されているもの、多数の書類を用意しなければならないものもありますが、経営にとっては少なからずプラスへ転じる要因となるため、申請しておきたいところです。今回はとくに利用が多い、雇用に関する助成金について概要をご紹介します。
コロナ禍ではニュース報道なども手伝って、多くの人に「経営を支援する助成金を国が用意している」ということが知られるようになりました。しかし、経営者のなかには「煩雑な手続きがあり、条件が厳しい助成金なんて、まだまだ受けられる会社規模じゃない」と二の足を踏む方も少なくないと思います。
確かに「助成金を上手に活用できて、はじめて一人前の経営者」という考え方を持たれている士業・コンサルタントの方もいますが、コロナ禍においてはスピードを優先させるため、手続きが簡素化されているものも増えています。
助成金に関して注意したいことの一つが、悪徳な業者による詐欺不正行為です。多くの場合、「儲かる」「こちらがすべて手続きをする」と言葉巧みに近づいてきて、多くは「助成金総額の○%を謝礼としてバック」と提案してきます。これで成功報酬といわれれば、損をしないイメージを持つかもしれませんが、これが大きな落とし穴です。
助成金に関しての詐欺行為は、非常に厳しく、発覚すると①助成金の返還②受給から発覚までの期間の延滞金(返還を延滞したと見なすため)③事業所名の公開④5年間の支給停止⑤刑事告訴――など5つのペナルティが用意されています。
また、不正受給がなかった場合でも、摘発された後で必ず周辺調査があり、監督官庁の捜査を受けることになります。もちろん不正はしていないにしても、悪い印象を持たれてしまうのには変わらないことを考えると、近づかせないことが何よりのリスク回避といえます。
[caption id="attachment_43954" align="aligncenter" width="600"] 「雇用保険適用事業所」であれば申請OK[/caption]
雇用主のなかには「従業員のために、国が雇用主と会社に費用を負担させている」と思ってしまう方がいるかもしれません。しかしながら国は、従業員の雇用をつくる雇用主・会社にも費用の一部助成を行っており、なかでも人材の雇用に関する条件を満たすことで申請できるのが雇用関係助成金です。厚生労働省は多種多様な助成金を用意しており、会社の規模に関わらず利用が検討できそうなものも見つかると思います。
また、当然ではありますが、これら助成金は雇用を守るためのものであるため、雇用保険適用事業所でなければ申請できません。個人・法人に関わらず、会社は一人でも雇用すれば雇用保険の加入手続きが必要になり、その手続きをもって雇用保険適用事業所となります。
労働を管理し、きちんと申請することで助成が受けられる
これも当たり前のことかも知れませんが、助成金を受けるためには、従業員をどのような形態で、どのように働かせているかを示し、加えて賃金の支払いも明示しなければなりません。労働法でも基本となりますが、会社は労働者名簿や賃金台帳、出勤簿などを作成・保管することが前提となります。
また、助成金を申請しなければ受け取ることはできません。助成金には細かな要件もあることから、検討する際には社会保険労務士やハローワークへ相談し、助言を受けた方が良いでしょう。
また、2019年からは雇用関係助成金の不正受給に関して厳罰化され、発覚した際には受給した助成金の全額に加えて、違約金、延滞金も上乗せさせるようになりました。また、代表者や会社名、不正内容なども労働局のホームページに記載されます。加えて以降5年間は助成金の申請ができず、さらに悪質な場合は刑事告訴されることになりました。経営者として故意に不正を行うのは論外ですが、悪質な専門家に騙されないように注意する必要があるといえるでしょう。
あなたの会社は?知っておきたい2つの助成金
[caption id="attachment_43955" align="aligncenter" width="600"] コロナ禍での雇用を守る「雇用調整助成金」[/caption]
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて事業活動を縮小せざるを得なくなった場合でも、従業員の雇用が守られるようにつくられた制度です。
通常、会社は契約通りに従業員を勤務させなければならず、会社都合で欠勤させた場合は休業補償を支払わなければなりません。そのため、会社としては雇用維持が難しくなることから、国はこの制度で休業補償の一部を代わりに支払うことで、会社側の負担を減らしつつ、従業員の雇用を守る目的で創設しました。
受給額については、これまで日額8330円でしたが、コロナ禍では15000円まで上限をアップ。従業員を解雇しなかった事業者は休業補償分を満額(100%)支給することとなりました。
当初は2021年11月末までとされていましたが、今後の感染拡大を見守りながら、制度の延長または引き下げが検討されています。
いろいろなケースで適用できる「キャリアアップ助成金」
非正規雇用の従業員をキャリアアップさせる目的で創設された制度で、①正社員への雇用転換②障がい者の正社員への雇用転換③昇給④諸手当の支給を正社員と同等にする⑤非正規雇用の従業員に対する社会保険加入⑥有期雇用の労働時間延長で社会保険加入の6コースが用意されています。それぞれ受給条件と金額が異なりますが、例えば①で中小企業なら、1人当たり57~72万円が支給されますから、ぜひ申請しておきたいところです。
もちろん雇用自体は、会社の事業規模や今後の成長にも密接に関わるため、安易な経営判断は禁物です。しかし、助成金を活用して雇用の負担を減らしつつ、より良い人材活用が可能となれば社会全体にとってもプラスといえるでしょう。
おわりに
ここまで社会保険また雇用に関する助成金について解説しましたが、雇用主の方の相談や質問に多いのが「どんな助成金が使えるか?」というものです。
社会保険は、従業員の生活や社会全体を支えるために必要であり、助成金は従業員の雇用や会社を守るためのものです。「助成金をもらうために何かをする」のではなく、まずは会社と従業員を見ながら、活用できる助成金を検討してみると良いでしょう。
また、昨今のコロナ禍に関連する助成金のように、社会情勢に応じて期間を限定した助成金もありますから、厚生労働省のサイト、所属する業界団体のお知らせ等を、定期的にチェックをしておくことをお勧めします。
専門家プロフィール
島村 修平
公認会計士。税理士。2007年有限責任監査法人トーマツ入社、2012年デロイトトーマツ税理士法人転籍。その後、中小税理士法人の役員を経て2019年7月に島村修平会計事務所を大阪に設立。「会いたくなる、会計事務所」をキャッチコピーに上場企業からスタートアップまでの税務顧問を中心に活動。2018年4月より関西大学商学部非常勤講師。2020年2月度NewsPicksマンスリープロピッカー。
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