2020年以降は、コロナ禍による影響から「開業・出店を控える」企業が少なくありませんでしたが、感染者数の減少やワクチン接種率の向上による経済回復の反動を受け、今後は開業や出店が加速すると見られています。そこで今回は、「今がチャンス!」と出店を考える経営者が、何からスタートし、開店までどのようなフローを辿るべきかについて、考えていきたいと思います。
まずは業態・コンセプトを固め、物件を探す
「お金の心配」は大切だが、まずはコンセプト固めから
お店を開くとなると、まずイメージするのは「ある程度大きなお金がかかる」ということ。以前から貯蓄してきた、相続や贈与を受けてまとまったお金が手に入ったというケースがない限りは、融資や他社からの資金援助を受けないと実現しないこともあって、いわゆる金策に走るところからスタートされる方もいると思います。
もちろん、そうしたアクションも必要になりますが、まずは「どんな業態で、どんなコンセプトの店にするか」というイメージを固めていくことが大切であり、ここがスタートになります。
ここで理解しておきたいのは、「街にはすでにあらゆる業態の店が営業している」ということ。多様化が進展している日本で、「うちの店にしかない!」ということを探し出すことは困難です。むしろお客さまの目線で、「どういったお客さまが、どんなシーンで店を利用し、価値を感じるか」ということを冷静に考え、突き詰めていくことでしょう。
とくに飲食店の場合、参入障壁が低く、いわゆる見切り発車でも開店できるかも知れません。しかしながら、それが長続きすることはありません。よくいわれますが、飲食店の場合は1年目で3割、2年目で5割、3年目で7割の店が廃業を余儀なくされています。他と差別化できない、廃業率も高いというのであれば、そうした不安を上回るくらいの「自分らしいコンセプト」を洗練させていく必要があるでしょう。
物件は、周辺エリアの特徴まで意識を
業態とコンセプトが固まったところで、次は物件選びです。
物件を選ぶ前提として、広く情報収集をしておくことが成功のカギといえます。地元に詳しい不動産業者に、複数社声をかけておくのは当然として、取引している銀行や信用金庫、同業の知り合いなど、考えつく限りの人脈に当たっておくべきです。その上で物件を選んでいくこととなります。
物件については、多くが「スケルトン」といわれる状態です。これは、以前どのような業態の店舗が営業していたとしても、「退去時には原状回復させる」契約となっているからです。しかし、中には前の店舗で使っていた設備や什器を置いたままにした「居抜き」といわれる状態の店もあります。居抜き物件だと初期費用を抑えることができるため、もし巡り逢った時には幸運といえるでしょう。
さて、物件の内覧が済み、内部の状態や立地、家賃などの条件が良ければ契約となりますが、ここで見落としがちなのが「周辺エリアの特徴への意識」です。もともと自身で土地勘がある場所であれば問題ないかも知れませんが、あまり知らない土地であれば、「どんな人が生活しているか」「物件の前の人通りはどうか」「周辺エリアとお店の客層がマッチするか」などをチェックする必要があるでしょう。
加えて家賃が適正か、定期建物賃貸借契約があるなら期間はどうか、といった点も確認しておくようにしましょう。
インターネットやSNSでの集客効果が期待できる時代ではありますが、お客さんは「すぐに」「手間なく」物やサービスを入手できることが最適であり、わざわざ集客のためのアクションを起こさなくても、自然に来店いただけるような物件を見つけたいものです。
FLRコストを踏まえて事業計画を立てる…
[caption id="attachment_43962" align="aligncenter" width="600"] FLRの比率を理解しておこう[/caption]
店舗を経営する場合、指標として多く利用されているのが「FLRコスト」と呼ばれるものです。FLRとは、F(Food、材料費)、L(Labor、人件費)、R(Rent、家賃)をさし、例えば飲食業であれば、店舗の売上高全体からFが30%、Lが30%、Rが10%に収まるような経営をめざすことになります。
FLRのうち、Fは季節ごとに変動があり得ること、昨今のコロナ禍のように急な休業が起こりうるということも踏まえておくべきでしょう。またLについても、来店客数に応じてシフトを調整すること、働き手が見つからなければ求人費がかかるということもあります。こうしたリスクまで織り込んで事業計画を立てることは難しいでしょうから、専門家のアドバイスを聞きながら、定期的に見直しつつ経営していくことが大切です。
事業融資は「創業時が一番難しい」と理解しておく
事業計画書をまとめれば、いよいよ事業融資を受けるためアクションを起こすことになります。多くの方は普段から都市銀行やネット専業銀行、地方銀行に預貯金用の口座を開設していると思いますが、これら金融機関から融資を受けることは難しいものです。まずは店舗が立地する地域を管轄している信用金庫の支店、または日本政策金融公庫の支店に相談することになります。
こうした事業融資は「審査の点で創業時が一番厳しい」ともいわれます。それは、これまで事業を行ってきた履歴がないからです。そのため、経営者個人の資産やクレジット・ローン等の履歴を見ながらの審査となります。
審査には最低でも1カ月程度かかるため、できれば2~3カ月程度前から、余裕を持って相談するようにしましょう。また、店舗や取引業者にもよりますが、資金は大抵2回払い(着手時と納品後)ということが多いので、それらも逆算して融資の相談を行うようにしましょう。
事前に知りたい2つの失敗事例
失敗事例①不慣れな業者の工事ミスで届出承認が間に合わずオープンを延期
居酒屋Aは、12月1日をオープン日と決めて、7月頃から準備をはじめました。幸運にも9月には物件が決まり、10月までには融資も決定。それから1カ月をかけて内・外装の工事をはじめ、11月中旬には引き渡しの予定でした。
ところが、給排水設備について保健所から指摘が入り、急遽工事を追加。そのため、消防の検査も遅れました。その間に飲食店営業許可や衛生管理者の資格取得は済ませましたが、施工業者の追加工事と、その後の再審査によって、承認されたのはオープン日となってしまいました。
ある程度は経験ある業者に依頼すること、事前に図面等を消防や保健所へ確認してもらうといったことをしていれば、と後悔しつつのオープンとなりました。
失敗事例② 半導体不足で冷蔵設備が入手困難に。オープン日を模索中
焼肉店Bは、11月オープンに向けて準備を進め、10月初旬までに「一部を除いて」工事が完了。内装や外観も問題なく、スタッフも確保できている状態でした。
この完了していなかった工事とは、冷蔵設備です。そもそも工事がはじまる8月末には、業者からも確保できる見込の連絡が届いていましたが、その後は納品の遅延連絡が度々寄せられました。業者からの話では、原因は世界的な半導体不足。冷蔵設備は平均で2~3カ月待ちだそうです。
Bの経営者は、少しでも売上が得られるよう、材料である食肉やアルコール類の販売も検討しましたが、食肉は食肉販売業許可、アルコール類は酒類小売業許可が必要になるため、時間と労力を踏まえて断念。今もなおオープン日を模索しています。
おわりに
冒頭の通り、2020年から現在まではコロナ禍の影響が大きく、飲食だけでなく多くの店舗が深刻な被害を受けました。これに対応し、国や市町村は2021年11月まで給付金や補助金、月次支援金、協力金を支給してきましたが、これも打ち切る方向となっています。これだけを聞くと開業は難しいイメージが浮かびそうですが、逆に考えれば好物件が手に入りやすい商機でもありますから、これまで検討されてきた方はぜひアクションを起こしていただければと思います。
専門家プロフィール
堀部 太一
株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役、株式会社wacle 取締役CMO、News Picksプロピッカー(2015年10月〜)、元株式会社船井総合研究所 フードビジネス支援部 グループマネージャー。
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