会社に勤めるビジネスパーソンであれば、基本的には毎月決まった給与から納めるべき税金や社会保険料を会社が差し引いて支給してくれます。さらに日本では会社が本人に代わって年末調整もしてくれるため、日常的にはあまり税金について意識しなくても生活できる環境にあります。
意識するとしたら消費税や持ち家などにかかる固定資産税、自動車税でしょう。中には、親の高齢化に伴い相続税も意識することがあると思いますが、一生に何度も経験するわけではないので、相続税について四六時中考えている人はいないと思います。
一方、会社を辞めてフリーランスになって仕事を請け負い始めたり、自分で事業を起こしたりするとなると、そうはいきません。さまざまな税金がかかってきます。こうした場合、大きく分けると2つのやり方があります。まずは個人事業主になる方法と、会社(法人)を設立する方法です。
2006年以前の商法、有限会社法には「最低資本金規制」といわれた制度があり、株式会社の設立には1000万円以上、有限会社の設立には300万円の資本金が必要でした。それが2006年の法律改正によって資本金1円から株式会社が設立できるようになり、会社設立という選択がしやすくなっています。
個人事業主と法人では税金の種類も変わります。個人事業主にかかってくる税金としては、所得税、住民税、事業税、消費税があります。これが法人になると、法人税のほかに、法人住民税、事業税、地方法人特別税、消費税などの税金を納めることになります。
●<個人事業主が納める税金>
・所得税および復興特別所得税
・消費税
・住民税
・個人事業税
●<法人が納める税金>
*すべての法人が納める
・法人税
・地方法人特別税(地方税)
・法人住民税(地方税)
・法人事業税(地方税)
・所得税(源泉徴収した中から納める)
・住民税(源泉徴収した中から納める)
*一部の法人が納める税金
・消費税
・固定資産税(減価償却税)
・事業所税
・印紙税
利益アップに売り上げ向上より税金チェックが効く場合も…
上記の「一部の法人が納める税金」は、一般的なものを紹介しました。法人の業種や事業内容などによっては、これ以外の税金も発生する場合があります。個人事業主にしても法人にしても、会社に雇用されているビジネスパーソンと比べたら、さまざまな税金が発生します。
このほかにも税金ではありませんが、第二の税金といわれる社会保険料、雇用保険なども納めなくてはなりません。つまり、事業を営んでいく上で毎月支出するお金はかなりの額になるのです。
例えば、利益の出ていない会社や赤字の会社でも、会社の規模に応じた均等割りとして「法人住民税(都道府県税)(市町村税)」を会社が存続している限り、最低でも7万円(資本金1000万円かつ従業者数50人以下)を納税する必要があります。経営者は事業を営むに当たっては、こうした費用が発生することも念頭に置かなければなりません。
事業を行う中で、利益を順調に増やすことは並大抵ではありません。売り上げを伸ばしても、利益が確保されなければ事業は赤字になってしまいます。特に、現在の日本の経済状況では、利益を多少増やすだけでもかなり大変です。
前述のように個人事業主や法人が支払わなくてはならない税金はたくさんあります。それをチェックして適正化するほうが、売り上げを拡大し、利益を増やすよりも簡単かもしれません。税金をまったく納めないのは、銀行や取引先などの印象もよくないし、経営者としては褒められたものではありません。とはいうものの、納める必要のない税金を支払うのは経営者としていかがなものかなと思います。
経営者としては、事業計画通り利益を出し、そこから「このぐらいの税金なら納めてもよい」と感じる額が一番よいといえます。決算を組んでから税金の多さにがくぜんとする経営者も少なくありません。しかし事前に対策をしておけば、余計な税金を納めなくて済みます。例えば、今期に多くの利益が見込めるなら、事業を大きくするための設備投資にもお金を回せます。決算を組んでから無理な対策をして、税務調査で痛い目を見るケースも少なくありません。
この連載では今後、厳しい日本経済の中で勝ち抜いていくため、個人事業主やほとんど従業員を雇っていない中小・零細企業の経営者として身に付けておいたほうがよい、適切な納税知識を基礎から紹介するとともに、実際に使えるテクニックについても紹介していきます。
監修=武田 恒男
一般社団法人租税調査研究会代表理事
執筆=宮口 貴志
一般社団法人租税調査研究会事務局長。一般社団法人租税調査研究会は専門性の高い税務知識と経験を兼ね備えた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手掛けている。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。