「苦労に苦労を重ねてここまで成長させた自分の会社なのだから、自ら支出したものはすべて会社の経費にしたい」などと考えるオーナー社長がいるかもしれません。このように考える気持ちは理解できなくはないですが、法人の営業活動に基づかない個人的な支出を経費として処理していた場合、税務調査において、個人が負担すべき費用は会社から経済的な利益を受けているとみなされます。
さらに、みなされた利益額は法人から臨時の賞与を受けたと認定される可能性がありますし、場合によっては重加算税を課されるというリスクも高まります。このように、実質的な賞与と認定された場合(これを「認定賞与」といいます)、社長個人の給与収入が増加したこととなり所得税や住民税が課税されますし、会社としてはこの賞与に対する源泉所得税を納税しなければならなくなります。
社長に対する賞与は法人税法上損金となりませんので、結果として損金とならなくなった分の法人税が追徴課税されることとなり、「ダブルパンチ」を受けたような状態となってしまいます。そして、税務署から見れば2つの税金を課税できます。
それでは、税務調査で、「ダブルパンチ」となるような認定賞与にはどのようなケースが当てはまるでしょうか?具体例として以下のような行為を示してみます。
〇社長がプライベートな物品の購入費用を会社の経費として計上している
〇社長夫人が自宅で使用する家電製品の購入費用を会社名の領収書で経費に計上している
〇会社名義のクレジットカードを社長とその家族で個人的に使用している
〇社長の子どもが大学に進学して一人暮らしのマンションを社宅として賃借している
〇勤務している実態のない社長の家族に対して高額な役員報酬を支払っている
上記は認定賞与とみなされる代表的な行為です。一般的に会社の経費についての考え方ですが、会社の売り上げに何らかの関係のあるもの、会社の営業活動に関連して支出されたものなどとなりますので、具体例のような行為に基づく支出は、賞与として認定されます。
ダブルパンチどころかトリプルパンチにも…
税務調査においては、このような支出の存在を厳しくチェックしますし、「認定賞与」とされる費用の計上方法や処理方法が悪質な場合には、追徴税額の35%が重加算税として課されてしまいます。さらに、会社が消費税の課税事業者ですと、「認定賞与」の額に対応する仕入税額控除が認められなくなりますので、消費税の追徴税額も発生してしまいます。この場合、「ダブルパンチ」では済まずに「トリプルパンチ」となってしまいます。
なお、この「ダブルパンチ」は、社長に限らず役員も対象となります。社員であれば源泉所得税の納税で済みますが、役員に対する認定賞与も法人税法上の損金とはなりませんので、役員の支出についても十分なチェックをする必要があります。
また、税務調査において、この「認定賞与」を指摘された場合には、軽々に応じようとはせず、例えば、会社から経費として支出されていることには変わりありませんが、賞与という処理ではなく、会社から社長に対して貸し付けたという処理は可能かどうかを税理士に相談して、調査担当者に交渉してもらうよう依頼することを検討してください。
以上のように、「認定賞与」は、オーナー社長にとって最も厳しい「ダブルパンチ」や「トリプルパンチ」となりますので、日頃から、会社の支出と個人的な支出をきちんと区分した経理処理を行い、指摘されるような行為は慎みましょう。とにかく、税務調査を受けて申告額を修正するようになりますと、支払う税金は多大なものとなってしまいます。そのような事態にならないよう適正な申告を心がけるとともに、税法の規定に従った節税対策を講じ、税務調査に際しても自信を持って費用の正当性を説明できるようにしましょう。
執筆=笹崎治孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、数カ所の税務署長などを経て2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験を兼ね備えた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。