個人事業主が納める税金は、第4回の「サラリーマンとは違う個人事業主の税金」に記載した通り、所得税・消費税・住民税・事業税があります。まず、それぞれの税金の申告方法や納税の仕方を簡単に説明しましょう。
所得税や消費税は、自分で確定申告を行う必要があります。確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た収入からその収入に掛かった経費、いわゆる「必要経費」を差し引いた結果を、翌年の2月16日から3月15日の間に所轄税務署に申告・納税する制度のことをいいます。
ここでの差し引いた結果を、「事業所得」といいます。住民税・事業税は、税務署に確定申告をすると、各自治体がその情報をもとに税額を計算して、納税額を郵送で通知します。納税者はこの金額を納税することになります。
個人事業主の税金は、収入から必要経費を差し引いた金額である「事業所得」をベースに課税するので、必要経費が多くなり「事業所得」が減れば、納税額が少なくて済みます。こうした「必要経費」を多くするためにさまざまな節税対策が研究されていますが、節税対策はこれだけではありません。では、節税対策にはどのようなものが考えられるでしょうか。
まず、税務署への申告方法には、青色申告と白色申告がありますが、節税対策の第一歩は青色申告です。青色申告を選択した場合、以下のようなメリットがあります。
・配偶者や15歳以上の親族に給与を支払った場合、その給与の額が適正水準であれば必要経費として計上できる(白色申告で控除できる額は配偶者86万円、その他の親族は50万円となっており、支払った給与額は認められない)。
・事業で損失が出て「事業所得」が赤字となった場合、最長3年間、赤字を繰り越すことができるため、繰り越した赤字を翌年以降の黒字と相殺して税金を減らせる。
・30万円未満の物品を購入した場合、一度に必要経費にできる。本来は、購入した物品は耐用年数分の複数年にわたって経費としなければならない。
・さまざまな条件を満たす必要はあるものの、10万円から最大で65万円の特別控除を受けることができる。
ただし、この青色申告を選択するためには、事前に税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出して承認を受けなくてはなりません。また、取引の記帳を複式簿記で行うことや、確定申告書を提出する際には貸借対照表と損益計算書を添付することが必要となります。
自宅を事務所に使っていれば必要経費を計上できる…
次に、事業にかかる必要経費は漏れなく計上するということです。そのためには、日々発生する支出の中で、どのような支出が経費計上できるのかを十分把握して、細かく領収書などを保管するとともに、帳簿付けを行うことが必要です。こうした要件を満たせば、「事業上必要である支出」はすべて経費となります。
他に、個人事業主の中には、自宅を事業所と兼ねて仕事をしている人も少なくありません。実際に仕事で使っている面積や使用時間などから事業使用割合を計算して、家賃や水道光熱費、通信費などの支払額の一部を必要経費とすることができます。持ち家で事業をする場合は、返済中のローンの元本以外は前記同様に事業使用割合を計算して、その比率に相当する額を経費とすることができます。
また、個人事業主として納める税金のうち、事業にかかわるものは必要経費として落とせます。例えば、消費税・事業税・固定資産税・自動車税などがありますが、プライベートと事業にかかわっている税金の場合には、家賃や水道光熱費のように事業用の割合を案分して必要経費を計上することもできます。
さらに、「所得控除」の活用も有効な節税手段の一つです。この「所得控除」は、所得税や住民税の税金を計算する場合、計算した「事業所得」などの合計額から各控除の一定額を差し引くことができます。「所得控除」は15種類あり、事業主の選択や加入により額を増加できる控除もあります。この「所得控除」のポイントについては、次回以降に解説します。
以上のように、個人事業主は青色申告や必要経費の計上などを正しく利用すれば、納める税金を低く抑えられます。こうした制度を知っているか知らないかでは、納税額が大きく違ってきます。適用にはさまざまな要件を満たす必要があるため、来年の確定申告に際しては、早めの準備をお勧めします。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。