個人事業主やオーナー社長も個人として所得税・住民税を納税していますが、これらの税金をどのようにして低く抑えるのか、この抑えるための節税対策の一つに「所得控除」があります。
「所得控除」とは、個人事業主であれば「収入金額」から「必要経費」を差し引いた「事業所得」、オーナー社長であれば会社から支払いを受けた役員報酬額が給与収入となり、この給与収入から給与所得控除額を差し引いた「給与所得」、このそれぞれの所得金額から税金の計算をする前に差し引くことができるのが「所得控除」です。
この「所得控除」は生活上の経費ともいわれ、控除の種類は15種類あり、それぞれに適用される条件や控除額の計算方法などが定められています。その一つに、小規模企業共済の掛け金を支払った場合に、その支払った掛け金全額が控除の対象となる「小規模企業共済等掛金控除」があります。小規模企業共済については、次回に紹介する予定です。
今回は、こうした控除の対象になるもの以外の節税手段として「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を紹介します。iDeCoは、原則20歳以上60歳未満であれば誰でも加入でき、自分で決めた掛け金(月額5000円から)を積み立て、自分で好きな運用方法(定期預金・保険・投資信託などの金融商品)をしていきます。積み立てた金額や運用で得た利益は、60歳以降に受け取ることができます。
国が運用するものを「公的年金制度」といい、個人で運用するiDeCoは「私的年金制度」といわれます。もともとは2001年に成立した確定拠出年金法に基づいて設けられ、当時は個人型拠出年金や日本版401Kなどといわれてました。これが、2016年に「iDeCo」という愛称がつけられ、国民年金や厚生年金など全員加入の公的年金と違い、加入は任意となっています。
iDeCo は、2022年に加入できる年齢の要件の拡大や、60歳以降に受け取る老齢給付金の受給開始時期の選択肢の拡大など、制度改正が行われています。老後資金を貯蓄する方法はさまざまですが、その中でもiDeCoは積み立てた掛け金が全額控除の対象となり、運用益も非課税となるなど節税効果が大きく、個人事業主やオーナー社長にとっては、節税と老後資金をためられるという長期的に資産形成していくうえでも、上手に利用していきたい制度です。
iDeCoには3つの節税メリットがある…
iDeCoには、大きく3つの節税メリットがあります。それぞれ解説しましょう。
【メリット1】
iDeCoで積み立てた掛け金は全額が所得控除の対象
掛け金は全額所得控除の対象のため、税金計算の基となる所得が減らせ、所得税と住民税が軽減されます。特に、個人事業主は月額掛け金の上限が6万8000円ですので、年額81万6000円まで積み立てられ、この全額が控除の対象となります。将来のための積み立てをしながら目先の節税ができるというのは大きなメリットとなります。
【メリット2】
iDeCoを運用して得た利益には税金がかからない(非課税)
通常、定期預金の利息や投資信託を運用した際に出る利益(譲渡益や分配金)に対して20.315%の税金がかかります。仮に10万円の利益が出れば2万0315円の税金がかかりますが、iDeCoの場合、それらはすべて非課税です。
【メリット3】
積み立て・運用したお金は原則60歳から給付も
iDeCoで積み立てた金額や運用利益は、原則60歳から老齢給付金として受け取り可能です。受け取り方は、5年以上20年以下の期間に分割して受け取る「年金」方式か、一括で受け取る「一時金」方式から選択できます(年金と一時金の組み合わせもできる)。「年金」方式の場合には「公的年金等控除」、「一時金」方式の場合には「退職所得控除」という控除を受けられるなど、税金の負担が軽減されます。
このように多くの面で税金の負担が軽減されているiDeCoですが、デメリットもあります。それを簡単に3つ説明しておきます。
・積み立てた金額は原則途中解約ができず、60歳になるまでは引き出せない。
・iDeCoの専用口座の開設に2829円、口座の維持費に月数百円の手数料がかかる。
・金融商品のうち投資信託を選択して運用した場合には、経済の状況・市場の動きなどの要因により、積立金額が変動する。
iDeCoは、所得税・住民税の節税効果が期待できて、老後の資産形成に向いている魅力的な制度です。メリットだけでなくデメリットも十分理解して活用することが重要です。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。