令和4年分の個人の確定申告が始まります。申告書の提出期限は2月16日から3月15日ですが、これは納税期限でもあります。今回の確定申告で注意したいのは、確定申告書が昨年までのものとは少し違う点などです。それも含めて令和4年分の確定申告で注意すべき事項について紹介します。
今回の確定申告では、申告書の書式が見直されました。従来は、申告書には「A」と「B」がありました。申告書Aは、サラリーマンで医療費控除などの適用を受ける方や給与と年金収入のある方向けの簡易な様式。申告書Bは、個人事業主の方など簡易な様式を使用できる方以外が使用する様式でした。今回から申告書Aは廃止され、申告書Bに一本化されます。ですから、提出の際には今までのAとBの区別がなくなります。以下の図1と図2が新しくなった申告書です。
従来の「確定申告書A」との主な違いは、第一表の収入欄に「事業所得や不動産所得の項目」、税金の計算の欄に「予定納税に関する項目」や「修正申告」の欄ができた点です。また、第二表には「退職所得のある配偶者・親族に関する欄」および「個人事業税」の欄ができました。従来の確定申告書Aと比較すると、新様式は「事業所得」や「不動産所得」などの申告にも対応しています。
この他、今回の確定申告から、一定の雑所得のある人は「収支内訳書」(白色申告をしている個人事業主が申告書に添付している)の提出が必要となります。この一定の雑所得に関してですが、副業収入などで営利を目的とした継続的収入のある人のうち、前年度の売上高が1000万円を超えている人になります。
制度の見直しも行われていますので、ポイントを3つに絞って解説します。1点目は、住宅ローン控除(正式には「住宅借入金等の特別控除」)の適用期限と借入限度額の見直しについてです。住宅ローンの控除とは、マイホームを住宅ローンで取得した場合や一定の要件のもとにリフォームをした場合、ローンの年末残高に基づいて税額控除が受けられるというものです。対象となるためには、取得した住宅に年末まで引き続き住んでいる、かつ住宅ローンを返済している必要があります。
旧制度では年末ローン残高の1%の税額が控除されていましたが、改正後は0.7%となりました。また、適用対象となる方の合計所得金額の制限が3000万円以下から2000万円以下と厳しくなりましたが、合計所得1000万円以下の方の床面積などの制限は緩和されています。この控除は所得控除とは異なり税額控除ですので、計算された納税額から直接減額される節税効果の高い制度です。
2点目は、居住用財産の買い換えなどに関する特例の見直しについてです。正式には、「居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の特例」といいます。これは、自己が所有しているマイホームを売却し、新たなマイホームに買い換えた場合、一定の要件のもとで売却したマイホームの売却益を繰り延べるというものです。繰り延べるとは、売却した年には税金が課税されず、買い換えたマイホームを将来売却するときまで課税を待ってくれるというものです。
制度の対象は、年内にマイホームを買い換えた際に買い換えたマイホームの価格の方が安く、売却益が発生した方になります。見直された点は、この特例の適用期限が2023年12月31日まで2年間延長されたことと、買い換えた新築マイホームが一定の省エネルギー基準に適合していることが、買い換え資産の要件とされました。
3点目は、所得控除の中での社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除に関する確定申告手続きの見直しです。年末調整や確定申告において控除を受けるためには書面での添付が必要でしたが、電子データでの提出が可能となりました。生命保険料・地震保険料・寄付金控除については電子データでの提出が可能でしたが、さらに社会保険料・小規模企業共済等控除についても可能となりました。
このように、毎年大なり小なり税制改正が行われます。ご自身にとって影響の大きい事項が改正される場合もありますし、実行可能な節税につながる改正事項がある場合もあります。税制改正については日頃からアンテナを張っておく必要があります。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ複数の税務署長を経て2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。