前回は、会社がオーナー社長にお金を貸し付ける「代表者貸付金」について取り上げました。この「代表者貸付金」は活用するメリットがほとんどなく、デメリットが数多く発生するということについて説明しました。
今回は、「代表者貸付金」の逆となる、会社がオーナー社長からお金を借り入れる「代表者借入金」について取り上げます。
社長が同意すれば利息を支払う必要なし
「代表者借入金」は会社の運転資金などを調達するため、オーナー社長がプライベートで蓄えている資金の一部を会社に充てて、会社の資金に余裕ができた時点で返してもらうものです。オーナー社長からみれば会社に対する貸付金ですし、会社からみればオーナー社長からの借金となります。
会社にとっては、借入金は将来に向けて返済しなければなりませんが、オーナー社長からの借入金は都合がつくまで返済する必要はなく、金融機関からの借入金とは違って返済のタイミングは自由です。ですから、会社において資金繰りの余裕が生まれた時点で返済できるということになります。
また、オーナー社長が同意すれば利息を支払う必要もありません。これは、「代表者貸付金」の場合とは大きく異なります。さらに、資金調達の方法に出資がありますが、出資の場合、出資額の半分以上を資本金に組み入れなければならないので、場合によっては資本金の増加による租税特別措置法上などの特例が受けられなくなります。しかし、借入金として会社がオーナー社長から調達した場合は資本金が増加することはないので、中小企業に適用される優遇税制の適用に影響はありません。
また、オーナー社長から見た場合、出資ですとお金を返してもらうことはできませんが、会社への貸付金であれば、会社に充てたお金もいずれは返済という形で戻ってきます。このように、一見資金調達などに都合の良い便利な方法ですが、「代表者借入金」には気を付けなければならないポイントがいくつかあります。
都合の良い便利な資金調達の方法だが、注意点も…
主な注意事項は以下の3点です。
【注意事項1】
会社にとって都合の良い「代表者借入金」ですが、オーナー社長の資金には限度があり、調達できる金額にも限界があります。この借入金が増加してしまいますと、会社の資産よりも負債の方が多い債務超過の状態となってしまい、金融機関をはじめ取引先からの信用がなくなってしまうケースがあります。
【注意事項2】
オーナー社長からみれば会社にお金を貸しており、返してもらうべき債権ですので社長個人の財産になります。そのため、オーナー社長が亡くなった場合には、相続人の相続財産として会社の借入金残額が相続税の課税対象となります。借入残額が高額なら相続税も高額になってしまう場合があり、相続人の大きな負担となります。前号の「代表者貸付金」のデメリット3の逆のケースとなります。
【注意事項3】
オーナー社長が会社の債務超過や将来を考えて、会社の借金の返済を免除する方法もあります。しかし、会社への貸付金の債権を放棄した場合、免除された借入金の残額は「債務免除益」という利益が生じたとして法人税が課税され、会社は税の負担が増加します。また、免除したオーナー社長は、会社の負債を減少させて株式の評価額を増加させた「みなし贈与」として贈与があったと認定される場合があります。当然ですが、認定されると贈与税が課税され負担が増えます。
「代表者借入金」は、オーナー社長にとっては都合の良い便利な資金調達の方法ではありますが、注意事項として解説した通り、会社の資金繰りの厳しさが続き、代表者借入金が膨らんでしまいますと、債務超過やオーナー社長が亡くなった際に相続人の相続税の負担が増すなどしますので、しっかりとした対策を構築したうえで貸し付け実行を判断することが肝要です。
そのためにも、日ごろから会社の経営状態の現状や借入金などの資金繰りの状況を十分把握しておき、必要な資金調達手段を決定するよう心がけましょう。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。