2024年6月に定額減税が始まりました。従業員を雇用している事業主の中には、従業員の退職金支払いの対応に迫られるケースがあります。この退職金支払いへの備えの一つとして、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する中小企業退職金共済、いわゆる「中退共」があります。中退共の加入要件の概略は以下の通りです。
中退共の魅力は掛け金を経費で落とせる点で、これにより節税効果が生じます。他にもメリットがありますので理解しておくとよいでしょう。一方、デメリットもありますので注意が必要です。それぞれについて説明します。
まずはメリットです。事業主と従業員に分けて解説します。
【事業主のメリット1】節税効果がある
会社や事業主が従業員の掛け金を負担しますが、この掛け金は全額損金算入できます。
【事業主のメリット2】掛け金の一部について国からの助成を受けられる
新たに中退共に加入すると、従業員ごとに5000円が上限となりますが、加入後4カ月目から1年間、掛け金の半額を国から助成されます。掛け金を増額する場合は、月額掛け金が1万8000円以下であれば、事業主に対して増額分の3分の1を1年間、国から助成されます。
【事業主のメリット3】退職金(給付金)手続きの手間を削減できる
退職金は従業員が中退共の事業本部に請求し、本部から従業員に支払われますので、会社は手続きの手間がかかりません。
【従業員のメリット1】運用利息を受け取れる
加入後24カ月を経過すると掛け金総額の全額を受け取れます。加入後3年7カ月以上経過すると運用利益などが掛け金総額に加算され、掛け金を上回る退職金を受け取れます。
【従業員のメリット2】転職した場合も退職金を通算できる
中退共に加入している会社から同じ共済制度に加入している会社に転職した場合、一定の要件を満たせば積み立てた退職金を通算できます。
【従業員のメリット3】福利厚生サービスを受けられる
中退共に加入した従業員は、中退共が提携する宿泊施設やレジャー施設の割引など、福利厚生面でサービスを受けられます。
このように、事業主、従業員それぞれにかなりのメリットがあるとお分かりいただけたと思います。一方で、次のようなデメリットもあります。
【デメリット1】加入者は従業員のみ
加入条件の箇所で解説しましたが、加入対象は従業員のみです。経営者や役員は共済制度には加入できません。
【デメリット2】掛け金を減額するには一定の条件がある
掛け金の減額を行う場合は、従業員の同意が必要になります。同意が得られない場合は、厚生労働大臣に「現在の月額掛け金の支払い継続が著しく困難である」と認めてもらう必要があります。
【デメリット3】短期間で退職した場合、退職金が支給されない
中退共に加入して掛け金の支払い開始から12カ月未満で退職すると、退職金は全額支給されません。また、12カ月以上24カ月未満で退職した場合の退職金支給額は、掛け金の納付総額を下回ってしまいます。支払期間が24カ月以上になると掛け金総額の100%を受け取れるようになり、3年7カ月以上になると運用利息分が加算されて、掛け金支払総額を上回ります。
以上の通り、中退共は従業員の退職に備えつつ、毎月の掛け金支払いに伴う節税を行える制度です。詳しくはWebサイト「中小企業退職金共済事業本部」で内容を確認できます。今期、売り上げアップが見込める場合の節税対策の他、退職金制度構築による福利厚生の充実で定着率アップ、人材採用時のアピールなどでも有利に働くと思われます。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。