先日、取引先に「残暑見舞い」の品を贈りました。お中元を贈り忘れてしまい時期に合わせて「残暑見舞い」として贈ったものでした。このような取引先へのお中元やお歳暮、取引先のもてなしのための飲食費などの費用に用いる勘定科目として、「接待交際費」があります。
この「接待交際費」の税金上の取り扱いについては、個人事業主は所得税法、企業などの法人は法人税法によりますから、その取り扱いも大きく異なります。法人税の場合、一定の金額のみが経費として認められ、それ以外は課税の対象とされますが、所得税には法人税のような規定はありません。
小規模事業者は、個人事業主として事業を行っているケースと、法人を設立しているケースがあると思います。今回は個人事業主の「接待交際費」に関する節税対策のポイントなどを解説し、次回は法人に関する税制改正事項や節税対策のポイントを解説します。
個人事業主が対象となる所得税法上、接待交際費として経費に計上するためには「必要経費」として認められる費用であることが根本的な考え方となります。所得税法で「必要経費」として落とせる金額は以下の通りと定められています。
1 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
2 その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
つまり、業務を行う上で直接必要なものであれば「必要経費」として算入でき、経費の1つである接待交際費についても計上できるということになります。計上額の制限に関する規定がないため上限額もありませんので、接待交際費とみなされる費用はすべて必要経費となります。
ただし税務調査の際に、事業に関係のない費用ではないかということがたびたび問題となりますので、接待交際費として計上した費用の内容については、きちんと説明できる費用であることが重要となります。
事業に直接必要か、説明・証明できるか…
次に、接待交際費になるもの、ならないものについて具体的に解説します。
【接待交際費になるもの】
・取引先との会食費(もてなしのための飲食費など)
・取引先へのお中元やお歳暮、祝儀や香典にかかる費用
・取引先から招待されたパーティーなどへの参加費用
・取引先とのゴルフや旅行、観劇に招待する費用(高額な費用などは税務調査の際に問題となるケースが多く、接待しなければならない理由が必要)
【接待交際費にならないもの】
・個人事業主自身の生活上の費用、私的な買い物などの費用
・事業に関係のない友人や家族との食事や飲食・旅行費用
繰り返しになりますが、接待交際費として認められるためには、事業に必要であることが必要不可欠ですし、プライベートな費用は計上できません。
続いて、節税対策のポイントを解説します。接待交際費は事業に直接必要なものでなければなりません。言い換えれば、事業に直接必要であったと説明・証明できれば、たとえ高額であっても計上できます。
税務調査の際には、この「必要であったと説明・証明ができるように準備しておく」ことが重要となります。そのためには、費用を支払った事実として領収書などの保管を確実に行い、以下の項目を必ず記録しておきましょう。
・飲食などを行った年月日
・飲食などに参加した得意先などの氏名や名称と関係性
・飲食などに参加した者の数
・飲食などの開催場所
・その他お中元・お歳暮・贈答品の相手先やパーティーの案内状など
最後に、税務調査に際して、必要経費として認められる費用かどうか、どのような観点でチェックしているのかを挙げておきます。
・個人事業主の方の事業に関連する経費であるか
・事業に関連するということは、取引先や仕入れ先など事業に関係する者のために支出された経費であるか
・領収書などは存在しているか
・支出する動機は、自らの事業を円滑に進めていくためのものか
・事業の内容や取引規模などから判断して社会通念上、妥当な金額であり妥当な支出回数であるか
以上の通り個人事業主の場合、必要経費と認められる接待交際費の額には上限がありません。事業に直接必要な費用であれば全額経費計上が可能です。ただし、経費計上するためには、領収書の保管は当然ながら、日頃から業務に直接必要であったと説明・証明するための記録の備えが重要ですので、十分に心がけておきましょう。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなど運営を手がける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。