前回は、個人事業主の接待交際費の取り扱いや注意点について解説しました。今回は、オーナー社長などの会社が取り扱う接待交際費について、税法上の規定を解説します。
接待交際費は、取引先など事業に関係のある会社の人を会食などでもてなしたり、お中元やお歳暮などで金品をふるまったりした際の費用に用いる勘定科目です。国税庁によると、「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待など」といいます)のために支出するものをいいます」と定義されています。
このため、接待交際費は「事業に関係のある支出」であり、全額経費になると考えているかもしれませんが、税法上、法人の接待交際費は原則として損金不算入、いわゆる経費で落とせないものとされています。つまり、会計上は経費処理したとしても、税金の計算をする際には経費にできないわけです。ただし、この損金不算入の原則には特例があり、会社規模に応じて接待交際費を一定額まで経費計上できると認められています。
会社の規模については、①資本金が1億円以下の法人、②資本金が1億円超100億円以下の法人、③資本金が100億円超の法人と、資本金の額で分けられており、それぞれの区分によりどこまでを経費に計上できるかが定められています。今回は①の資本金が1億円以下の法人について解説します。
資本金が1億円以下の法人の場合は、次の(1)(2)のいずれかの金額を接待交際費として経費に計上できます。
(1)支出した接待交際費のうち「接待飲食費」の50%相当額
(2)支出した接待交際費の金額のうち年間800万円までの金額
(1)の「接待飲食費」は、支払った接待交際費のうち、取引先の接待などにかかった飲食費となりますので、取引先へのお中元やお歳暮などの費用は含まれません。
(1)(2)のどちらを選択するかは各社の任意となります。「接待飲食費」も含めて年間の接待交際費が800万円以下であれば、2を選択して全額を経費にできます。反対に、800万円を超える接待交際費額があったとしても、800万円までしか経費として認められません。このように、会社の接待交際費は原則として経費にはなりませんが、特例により、会社の規模に応じて経費計上できる上限額などが規定されています。
「接待交際費」と「会議費」の違いに要注意…
ここからは、接待交際費に計上できない支出について解説します。以下のような支出については接待交際費にはなりませんので注意が必要です。ただし、金額により他の勘定科目で損金算入できるケースがありますので十分理解しておきましょう。
【1人当たり1万円以下の飲食などの費用】
飲食その他これに類する行為のために支出した費用については、その支出する費用の額を飲食などに参加した者の人数で割った1人当たりの金額が1万円以下となる場合、接待交際費にはなりません。例えば、4人で飲食して3万円を支払った場合、1人当たりの金額は7500円となるため接待交際費ではなく、打ち合わせなどを行った際の費用科目である「会議費」などの勘定科目で計上することとなります(会議費については後述)。会議費などの経費は接待交際費ではありませんから、資本金1億円以下の法人の場合の「接待飲食費」の50%相当額か年間800万円までの金額といった制限の対象にはなりません。
また、接待交際費に計上されるのかの判断基準は、以前は1人当たり5000円でしたが、2024年の税制改正により、1人当たり1万円に引き上げられました。この基準は、2024年4月1日以降に支出する接待交際費が対象となっています。
【会議や打ち合わせのための飲食費】
得意先や仕入れ先の人と食事をとりながら、会議や打ち合わせをする場合があります。このような際の飲食代などの費用は、接待交際費でなく「会議費」として経費に計上します。会議の席でのお弁当代や茶菓子、飲み物代も会議費となります。
会議費は2013年までは全額経費となりませんでしたが、2014年以降の税制改正で損金算入できるようになりました。会議費は接待交際費のように計上額に上限がありませんので、1人当たり1万円以下の会食費用であれば、全額損金算入できます。費用が高くならないように、1人当たり1万円以下の飲食を心がければ全額経費に計上できますので、節税対策につながるとも考えられます。
以上のように、会社の接待交際費は原則損金不算入での経費としては認められません。経費として認められるのは、交際費課税の特例が設けられている法人の規模による上限額が規定されていると理解しておきましょう。
前回も解説しましたが、プライベートな飲食費や事業と関係のない人との会食費などは税務調査の対象となりますから、経費として認められるものなのかどうかを確認する必要があります。さらに、接待交際費は特例で認められているため、今後の社会情勢や景気の動向などにより改正される可能性があります。最新のルールを十分確認しておきましょう。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなど運営を手がける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。