当初は大企業に限られていた働き方改革関連法は、2020年4月から中小企業も対象となりました。同法では時間外労働(残業)の規制も含まれているため、従業員が労働に費やす時間をどのようにマネジメントすればよいか悩む経営層や人事担当者も多いでしょう。本記事では改めて、時間外労働時間の上限規制について解説。さらに、上限規制によって起こりうる問題や対策方法についてお伝えします。
働き方改革によって、時間外労働(残業)の上限が規制されるようになりました。時間外労働とは、企業が定めた所定労働時間を超えて働くことです。時間外労働をした場合、各企業の賃金規定に基づいた残業代を従業員に支払う必要があります。時間外労働には「法内残業」と「法定残業」の2つがあります。
法内残業
労働基準法で定める1日8時間、1週間40時間の範囲内で、職場の所定労働時間を超えて行われた時間外労働。
法定残業
労働基準法で定める1日8時間、1週間40時間を超えて行われた時間外労働。法定残業が行われた場合、
・超えた時間について25%以上の割増賃金を支払う
・企業と従業員との間で事前に「36(サブロク)協定」(後述)を締結する。これにより月に45時間まで、年間360時間までといった範囲内で時間外労働を行うことが可能になる。
働き方改革による「時間外労働の上限規制」
働き方改革関連法が施行される前から、労働時間は1日8時間、週40時間を超えてはならないという制限がありましたが、法律上は時間外労働時間の上限がなく、制限を超えて労働させても行政指導に留まっていました。しかし、働き方改革関連法の実施に伴い、労働基準法が改正されました。現在、時間外労働は月45時間、年360時間以内と、法律で上限が定められています。これに違反した場合、罰則(6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。
猶予される事業・職種
「時間外労働の上限規制」については、特例として施行までの猶予期間が設けられている事業・業務がいくつかあります。建設事業、トラックなどの自動車運転の業務、医師などがこれに当たります。これらは2024年3月31日まで猶予されており、猶予後の取り扱いは以下のようになります。
事業・業務 | 猶予期間中の取扱い (2024年3月31日まで) | 猶予後の取扱い (2024年4月1日以降) |
建設事業 | 上限規制は適用されません。 | ●災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。 ●災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、 ・月100時間未満 ・2~6カ月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 |
自動車運転の業務 | ●特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。 ●時間外労働と休日労働の合計について、 ・月100時間未満 ・2~6カ月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 ●時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されません。 |
医師 | 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています。 |
鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休日労働の合計について、 ・月100時間未満 ・2~6カ月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 | 上限規制がすべて適用されます。 |
出典元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
36(サブロク)協定とは
労働基準法では、1日の労働時間、1週間の労働時間、休日日数を定めていますが、これを超えて時間外労働または休日労働させる場合には、あらかじめ労使間で「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。「36協定」を締結すると、月45時間、年間360時間まで時間外労働時間を設定できるようになります。
特別条項の上限拡大は年6回まで
職種や業種によっては、繁忙期や緊急対応でより柔軟に労働時間を定めなければならないケースも出てきます。その場合は「特別条項付き協定」が必要になります。「特別状況付き36協定」を労使間で締結すると、規制時間を超えて従業員に時間外労働してもらうことが可能になります。しかし、規制時間を超えられる回数には制限があり、時間外労働時間を月45時間以上に延長できるのは年6回までと決められています。
残業代の計算方法について
残業代の計算方法
時間外労働は、通常より割り増しの賃金を支払うことが労働基準法で定められています。一般的な勤務体系の場合、残業に対して発生する賃金は、1時間あたりの賃金の25%以上の割増額となり、「1時間あたりの賃金(時給)×1.25以上(割増率)×時間外労働時間」で算出します。
1時間あたりの基礎賃金
基礎賃金とは、基本給に各種手当を加えた、1時間あたりの賃金額を示します。ただし家族手当、扶養手当、子女教育手当、通勤手当、別居手当、単身赴任手当、住宅手当、臨時手当は含まれません。
みなし残業と理解しておくべきこと
「みなし残業」とは、労働時間の裁定を実労働時間ではなく「みなし時間」によって行うことで、労使間であらかじめ定めた時間分、時間外労働したとみなすものです。業務内容に占める従業員の裁量が大きい裁量労働制に基づいた概念で、残業代は、あらかじめ一定の額を給与の中に含めて従業員に支払います。あらかじめ定めた時間外労働時間に実際の時間が達しなくても、残業代は全額支払われます。
企業にとっては、みなし残業代は割増賃金の対象外となるため残業代が抑えられるほか、あらかじめ定めた時間までは残業代の計算が不要というメリットがあります。しかし、みなし残業制度を導入していても、定めた時間を超えた残業代や、深夜残業・休日出勤などの残業代は支払わなければなりません。
時間外労働(残業)が多い仕事・職場の特徴
時間外労働時間の上限規制を守るためには、自社の業務を再確認することが欠かせません。時間外労働が多い職場の特徴としては、そもそも人的リソースが不足しており、個々の従業員が抱える仕事量が多いことが挙げられます。また、従業員の人数は足りていても、スキルに差がありすぎて、一部の従業員に仕事が集中してしまうことがあります。この場合は、社内研修などで経験や知識を共有し、業務スピードやスキルの向上を図る必要があります。
この他にも、突発的な業務が発生しやすい、締め切りや納期がタイトな仕事が多い場合も時間外労働が増える傾向にあります。人員配置やスケジュール管理をいま一度見直すことが必要でしょう。
時間外労働(残業)時間の上限規制により発生する問題
サービス残業が増える可能性
時間外労働の上限規制を設けたからといって、業務量が減るわけではありません。総務省の報告では、日本の労働生産性は、OECD加盟の35カ国の中で21位、G7各国の中では最下位となっています。これまでと同じような働き方をしていては、生産性が上がらず、サービス残業が増えることになりかねません。これまでの慣習にとらわれず、業務の優先順位を見直したり、無駄な打ち合わせを減らしたり、メール・ビジネスチャットなどオンラインツールをうまく活用して業務を効率化することが必要です。
生活費の減少
これまで「残業代を生活費の足しにしていた」という従業員もいます。時間外労働が制限されれば、その分、生活水準を下げなければならないケースも考えられます。従業員の満足度向上などの観点から、企業は、残業の上限規制によって削減できた人件費を、手当やボーナス、福利厚生で還元することも検討するとよいでしょう。
時間外労働(残業)時間の上限規制に伴うリスクの対策方法
時間外労働時間の上限規制へ対応するためには、従業員の業務量と労働時間を把握することが不可欠です。仕事量と労働時間を正確に把握する過程で、これまで従業員が業務範囲を超えてカバーしていた業務や、担当者が不明確な業務が洗い出される可能性もあります。そういった業務を遂行するためには、社外のリソースを活用するBPOを導入するという選択肢も考えられます。
従業員の業務量・労働時間把握にITサービスを利用する手もあり
従業員の業務量・労働時間を把握するには、NTT西日本の「おまかせAI 働き方みえ~る」を活用するのも1つの方法です。これは、従業員のパソコンに専用ツールをインストールすることで使用状況を見える化し、業務時間実績をレポートするサービス。一人ひとりの業務をタイムリーに把握することで、拠点間やリモートワーク時のマネジメントに活用できます。月次レポートを出力する際、勤怠管理システムとデータ連係することも可能です。レポートをもとに、作業の見直しやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:作業の自動化)によって効率化できる業務を見つけ出せる可能性があります。
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レポート例(おまかせAI 働き方みえ~るのWebサイト内「レポート例」より引用)[/caption]
まとめ
働き方改革にともなう時間外労働の上限規制に対応するためには、従業員の勤務実態と業務時間の実績を正確に把握する必要があります。場合によっては、規制に対応するために、自社の業務内容や職場環境を見直さなければなりません。これまでのやり方を継続していては難しい場合もあるため、業務プロセス自体を見直すという選択肢も考えられます。社外のリソースを活用するアウトソーシングや、RPAによる業務の自動化も視野に入れながら、大きな枠組みで対応することも検討してみてはいかがでしょうか。
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