第1回と第2回でサービス業の時短の現状を解説しました。第3回以降は現場の生産性を上げ、時短を進めていく具体的な手法について、6つのステップに分けて解説していきます。各ステップにはそれぞれいくつかのアプローチがあります。まずは6つのステップを一覧で紹介します。
●第1ステップ 「現状を把握する」
生産性が上がらないのは、上がらない理由があるからです。原因は現場のどこかに存在します。そこで、最初に現場の状況をしっかり把握する必要があります。
●第2ステップ 「人員配置の無駄をなくす」
人員配置の無駄をなくすといっても、いきなり従業員の削減に取りかかったり、合理化を進めたりするという話ではありません。適正な人員を投入できる勤務シフトはどのように編成すればいいのかについてお話しします。
●第3ステップ 「業務の無駄をなくす」
すべての業務を「仕事」「作業」「無駄」に分類するのが第一歩。無駄を省き、業務改善をどのように進めるべきか解説します。
●第4ステップ 「要求を理解する」
お客さまの要求をきちんと理解できれば、それに合わせて無駄のない人員配置や業務内容の見直しができます。生産性向上の最終目標は、業務プロセスの改革を通じて商品やサービスの品質を上げて、顧客満足を向上させることです。そのためには独りよがりにならず、率直にお客さまの声に耳を傾けなければなりません。
●第5ステップ 「事業戦略を立て直す」
第1から第4までのステップは「戦術」に当たります。シフトや作業を見直して継続的に生産性を向上させれば、事業の「戦略」を生産性という視点から再構築できます。そこからさらに高い生産性の実現へと飛躍していくよう考えます。
●第6ステップ 「データで評価する」
業務プロセスを改革して労働時間をどんなに減らしても、それによってお客さまの不満が増えたり、利益が大幅に落ち込んだりしては、会社の存続を危うくします。ここでは、どこの会社でも持っている会計データを活用し、生産性向上がどのように進んでいるか、改革が正しい方向に進んでいるのかなどをモニタリングする手法を解説します。
現状把握のためのプロット分析…
それではここから各ステップを詳しく解説していきます。
●第1ステップ 「現状を把握する」
ある会社では、23人の従業員で300人のお客さまに対応した日があるかと思えば、客数が同じ300人で38人も出勤していた日がありました。無駄が発生しているように見えますが、詳しくチェックすれば、実は出勤者数が多い日のほうが適正だったのかもしれません。ひょっとしたら、客数が同じでも何らかの理由で業務量が多かったかもしれないからです。
「あの日は何となく大変だった」と感覚や記憶で過去を振り返るのではなく、データでしっかり状況を把握できれば客観的に実情を分析でき、それによって業務の改善を進められます。ここではまず、感覚的な議論に陥らないよう、現場で何が起きているのかを客観的に把握する手法について紹介します。
■アプローチ1 プロット分析 ~感覚的な議論はやめよう~
日ごとの労働量と業務量をプロット(記入)し、それらの相互関係を見るのが「プロット分析」です。単純な手法ですが、実施している企業はほとんどありません。現場では「シフトをしっかり考えて組んでいます」「むしろ人が足りないくらいです」と感覚的に言うばかりで、シフトの精度をデータで分析している会社は少ないのです。
プロット分析はとても簡単で、横軸に作業量を反映していると考えられる各日のデータ――例えば客数、売り上げ、注文数などを取ります。縦軸はその日の労働時間、それが難しければ出勤者数を取り、これらのデータを一定期間取得します。小さな施設であればその施設全体で集計し、それなりに規模が大きく、部署ごとにシフト管理の状況を評価したいのなら、部署ごとにデータを取っても構いません。
図1 プロット図の作り方
一例として、図2のプロット図をご覧ください。この会社では、横軸に客数、縦軸に投入人員数(出勤者数)を取っています。そして、各日のデータを一定期間にわたってプロットしていきました。
図2 プロット分析で分かること
プロット図を見ると、作業量が多いとそれなりに多くの人数が投入され、作業量が少ないときには少なめの人数で顧客対応しており、一見、しっかりシフト編成がされているように見えます。しかし丁寧に見ていくと、実は適正な人員配置ができておらず、シフト管理の問題点も発見できます。
まず、横軸の客数が200人前後の日を見てください。200人弱のお客さまに対して出勤者数は25人前後であるのに、200人を少し超えた日は40人弱を投入している日もあります。客数がほぼ同じなのに、労働投入量にこれほどの差があるのはなぜでしょうか。その理由を現場の管理者に確認しても判然としませんでした。労働投入量にこれだけの差があり、管理もされていないのですから、シフトを適正に管理するだけで時短できる余地があり、生産性を上げられるポテンシャルがまだまだあると考えられます。
次に見えてくる大きな問題は、投入人数の下限です。客数が少ない日であっても20人も投入しています。極端に少ない日でも20人が配置されているのは、投入しなければならない固定的な人員数が大きいためです。これでは会社の固定費が高止まりして、売り上げが減っていくとすぐに経営を圧迫します。
さらにじっくりと図を見ていくと、客数が少ないときはざっと25人前後、客数が多いときは35人前後という投入人員の固まりがあるようです。これは、作業量が少ないと予測される平日が25人、作業量が多いと思われる週末は35人で対応するよう、暗黙の目安になっているのではないかと推測できます。実際に現場で確認してみると、予想通り平日25人、週末35人でシフト編成していると分かりました。
この会社のように、平日と週末の2パターンでシフト編成している会社が少なくありません。お客さまの動きを見ているのではなく、カレンダーを見ながら出勤させる従業員数を決めているのです。そこに改善の余地があります。