中小サービス業の“時短”科学的実現法(第12回)マルチタスク化は従業員の意識を変える

業務課題 経営全般 スキルアップ

公開日:2023.11.02

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 前回からアプローチ6として、マルチタスク化について解説しています。マルチタスク化に取り組んだケースとして、前回、福井県あわら市にある温泉旅館のグランディア芳泉を取り上げました。このケースでは、マルチタスク化を実現するに当たって賃金制度にまで踏み込むなど、強力に推し進めました。

「空いた時間にお膳の準備などをするのはいいが、通常業務もある。その分の時間を捻出しないといけない」。半導体メーカーから転職してきたグランディア芳泉のスタッフはそう考え、前職で培ったノウハウを活用しました。三定、5Sを現場で進め、誰が来てもすぐに業務に着手できる職場環境にしていったのです。

 それまでは、お膳の準備に必要な器や固形燃料がある場所はベテランの客室係しか知らず、しかも置き場所も収納ケースも担当によってバラバラでした。そこで、必要なものを一カ所に集め、何がどこにあるのかを一目で分かるようにしました。さらにお膳のどこに器を配置するのかを写真で示したマニュアルも作成し、経験のないパートでもすぐに着手できるように改善しました。

 改革を進めるうちに従業員の意識も変わり、業務効率化のアイデアが次々と出るようになったそうです。例えば、現場のスタッフの発案で朝食バイキングのトレーを廃止し、料理を取る皿の種類も半分以下にしました。これにより、洗う皿の量も半分以下に削減できました。

 グランディア芳泉の山口専務は、「無駄を排して接客時間を増やそう、収益性を上げようと考える組織になってきた」と語ります。マルチタスク化が機能すると、外部の目で業務を見直すことができるので、こうした効率化のアイデアも出やすくなるのです。

 女将は当初、マルチタスク化に強い抵抗を感じていたといいます。「休みだけ増えて、給料はそのままなんて聞こえはいいけど、かえって仕事を増やして社員に負担をかけるのではないかと心配でした。マルチタスク化するよりも、人を増やしたほうが社員にとってもお客さまにとってもいいのではと反対しました」。当時の胸の内をそう明かします。しかし、慣れるにつれて次第に仕事をスムーズにこなし、積極的に提案までするようになった社員の姿を見て、考え方が変わっていきます。

 「時代の流れについていかないと、むしろ社員を駄目にしてしまう。彼らの力を埋もれさせていたのは、私だったのかもしれないと思うようになりました」。こうして、グランディア芳泉は取り組みからわずか半年で顧客満足を落とさずに時短を進め、結果として給料は同じで休みだけを増やすことに成功したのです。

震災のピンチをマルチタスク化で乗り切る…

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執筆=内藤 耕

工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。

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