ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
似ているようで違う、法人向け光回線の選び方
公開日:2024.07.02
前回から、アプローチ10の「おもてなしピラミッド~会話へのステップをつくる」を解説しています。おもてなしピラミッド(下図)は、お客さまの要求を理解するプロセスであり、「観察」「笑顔」「あいさつ」「会話」の4段階で構成されています。前回は最下段の「観察」について具体例を挙げました。今回は残りの3つについて紹介します。
笑顔 ――顧客に安心感を示すメッセージ
なぜ人は「笑顔」を見せるのでしょうか。笑顔とは互いに安心感や満足感を確認し合うための行為といえます。怒っている人には誰も近づきたくありませんが、笑顔の人には近づきたくなります。つまり、サービス業で働くスタッフにとって、笑顔にはお客さまが近づきやすい環境をつくるという目的があるのです。
西日本でふとん店を経営するある会社では、「売上高の前に笑顔高」をポリシーにしています。お客さまの笑顔が会社に届けば、その中の一部が最終的に売り上げになる。つまり、お客さまにもらう笑顔の量が多いほど、それにつれて売り上げも増えると考えているのです。従業員はふとんを売る前に、どうしたらお客さまが笑顔を見せてくれるかを考え、現場で行動しています。
あいさつ ――患者の満足度が上がり、赤字病院が黒字に転換
鹿児島県曽於市にある昭南病院は、かつて人手不足に悩み残業は当たり前、患者からのクレームも絶えず、赤字体質の経営を続けていました。2006年に就任した朝戸幹雄院長は、経営改革に向けて院内でまず「あいさつ」を徹底しました。というのも、病院内のさまざまな問題は基本的にコミュニケーション不足が原因で、どんなにコミュニケーションをよくしようとしてもうまくいかなかったからです。
そこで朝戸院長は、「あいさつは誰でもできて、会話は必ずあいさつから始まるので、まずあいさつをすれば、その一部が会話につながるかもしれない」と考えたのです。
以前は、医師や看護師側から患者にあいさつをすることはなく、職員同士も同様でした。朝戸院長は自分だけでもと、「こんにちは」「おつかれさま」と大きな声であいさつを続けました。しばらくすると病院全体で職員同士、職員と患者のあいさつが増えるようになりました。
これにより病院は大きく変わりました。あいさつをするときは患者の顔を見ますから、医師や看護師は顔色が悪い、声に張りがないといった異変がいち早く分かります。また、患者やその家族は普段から医師や看護師とコミュニケーションが取れていると、本音で話しやすくなります。その結果、「こんなところに不満を持っていたのか」「こういうところに感謝してくれていたのか」など日々発見できるようになったと朝戸院長は言います。
こうして患者や家族の満足度が上がり、昭南病院は地域に愛される病院として再生し、黒字転換しました。現在は周辺の病院やクリニックにあいさつ運動が拡大し、医療機関同士のコミュニケーションも密になりました。その結果、組織を超えて互いの顔が見えるようになり、地域の各医療機関がスムーズに連携して高齢化に対応した医療サービスの充実を図れるようになりました。
病院のクレームの大半は情報伝達の不足です。患者を待たせるときに職員が、「混んでいるから少しお待ちくださいね」と伝えればよいのですが、ほうっておくからクレームが起きるのです。こうした情報伝達のミスを減らすには会話の機会を増やすしかありません。とはいえ、いきなり「会話するように」と言ってもだめです。会話は必ずあいさつから始まりますから、「あいさつだけでもしよう」という朝戸院長の取り組みは、実に理にかなったものだったのです。
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執筆=内藤 耕
工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。
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中小サービス業の“時短”科学的実現法