ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
似ているようで違う、法人向け光回線の選び方
公開日:2023.03.14
私が初めて「安全率」を学習し、実際の設計の演習でその掛け算を行ったのは大学3年の機械設計演習のときだったと思います。「安全率」とは計算上、物が壊れるときの負荷を、予測される最大負荷で割った比率です。
例えば、考えられる最大負荷が1のとき、設計はその負荷を倍の2と仮定してちょうど壊れないぎりぎりの寸法を決めてやると、安全率は2です。学生のときは言われるがままに整数3(だったと思います)を想定される最大負荷に掛けて、模範解答と同じ数字を導き出したのですが、違和感があったと覚えています。
今ではその違和感を説明できます。有効数字3桁の材料の降伏点(降伏点とは、負荷がなくなったときに元に戻れないほどの変形を材料に与える最小の負荷)と部材にかかる最大負荷、それにいくらでも正確に計算できる材料の断面積から部材の寸法を計算するにあたって、想定される部材に作用する最大負荷に、3.01でもなく、2.9でもない、3という有効桁数1の数字を掛けるのが違和感の元でした。この安全率について、みなさんと一緒に考
えてみたいと思います。
私は5月5日と聞くと、忘れられない事故を思い出します。2007年のこの日、大阪万博跡地にできたエキスポランドで、走行中の6両編成立ち乗りジェットコースター「風神」の1両から、4つある片側抱え込み式の車軸ブロック固定端で車軸が折れ、端部はナットと共に落下。しばらくはそのまま走行を続けましたが、終点まで200メートル余りのところで車軸がついにすっぽり抜け、車軸ブロック全体が落下。4つある支えの1つをなくした車体は大きく傾き、ジェットコースター走行レールの隣に並行していた保守通路の手すりに、乗客の1人が頭部を強打して即死しました。
捜査を担当した大阪府警は、写真付きで車軸の折れた部分を公開し、金属疲労によって発生した傷が徐々に進行したと説明しました。エキスポランドでは、「風神雷神II」(それぞれ6両編成の風神と雷神が交互に走行するのでこの名前になりました)を設置してからこの事故までの15年間、車軸を交換しておらず探傷検査も簡単な目視で済ませていました。最も大きな問題はこの保守の手抜きですが、もともとの設計も怪しいと失敗学会が発行する「失敗年鑑」に説明しました(注1)。
日常では体験できないようなスリル感が面白く、人はジェットコースターに乗るのですが、いつの頃からか3次元空間を複雑なねじり回転や360度以上の回転を交えながら、人を楽しませるようになりました。
しかし、そのような動きを2本の曲線レールを抱え込んだ状態で、何両も連なった列車が高速走行する場合を考えてみます。どんなに精度良くレールを設置しても、その2本をピッタリ抱え込んだ状態で車両が走るのは無理で、製作誤差から来るガタが残りますから、車両の車輪はその誤差を吸収する構造になっていなければなりません。
また、鉄の熱膨張率を考えれば、30度はある夏と冬の寒暖差では、100メートルを超えるレールの空中軌跡はセンチ単位でずれていると分かります。事実、大阪府警が発表した写真を見ると、車輪はレールの上で5センチほどの横滑りを常に起こしていました。
つまりジェットコースターは空中を滑らかに滑走するのではなく、車輪にガタガタと非常に負荷をかけながら、あの動きを実現していると思わなければなりません。近くを通るジェットコースターから発生する機械音がとても大きいのは、これから乗ろうとする人の恐怖感をあおる効果もあるのですが、構造的にそのような音が出ているのです。
このように過酷な条件下で使用している機械ですから、普通に動的荷重の安全率を掛けてはいけないのです。単純な負荷の中でも過酷な、引っ張りと圧縮を繰り返す「両振り繰返し荷重」の安全率、8を掛けるべきでしょう。
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執筆=飯野 謙次
東京大学、環境安全研究センター、特任研究員。NPO失敗学会、副理事長・事務局長。1959年大阪生まれ。1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業、1984年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、1992年 Stanford University 機械工学・情報工学博士号取得。
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経営に生かす「失敗学」