いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第2回のテーマは、「インセンティブ(Incentive)」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
古代から懸賞金や報奨金、褒美の金品、領地、役職など、インセンティブに当たるものはたくさんあります。「アメとムチ」という言葉がありますが、インセンティブは「アメ」に当たるもの。例えば戦国武将から、大企業の経営者、政治家、スポーツチームの監督など、古今東西、あらゆるトップは「アメとムチ」を駆使して成功を収めてきました。近年のビジネスシーンにおいてもこの言葉をよく耳にします。
年功序列や終身雇用制度が消滅しつつある中、企業は少子化などによる人手不足や優秀な人材の確保に悩まされています。さらに、未来を担う若い世代は、「自分に合わない」「自分を生かせない」と判断すれば、すぐに職を辞して新天地を求めることに抵抗がない、という傾向もあります。優秀な人材や苦労して育てた人材が末永くとどまる、高い成果を持続する、目標を効率よく達成できる、良い人間関係を維持するなどのためにも、インセンティブを上手に活用して、企業も社員も互いにメリットを享受したいものです。
昨今、人材不足に加え、IT関連人材など、優秀なスキルをもつ人材はさらに不足を極めています。このような状況の中で、従来の金銭的インセンティブよりも、自己実現やモチベーションアップにつなげる目的で、個人の価値観に着目したインセンティブを導入する傾向も高まっています。社員の個性に応じた効果的なインセンティブを行い、優秀な人材に生き生きと働いてもらう環境づくりを進めましょう。
物質的インセンティブ(金銭)
インセンティブの中で最も代表的なもの。業績に応じ、給与や賞与への上乗せで金銭などが支払われる。あらかじめ契約件数や売上高、アクセス数、目標達成率などに対して条件を設定、条件を達成すると給与や賞与に加算されるという形式が一般的。
物質的インセンティブ(金銭以外)
個人の業績に応じて自社製品やサービス利用権、記念品、時計やスーツ、商品券、旅行券などを支給するもの。業績を上げた社員、店舗、チームなどに報奨として支給する報奨旅行(インセンティブツアー)、特別休暇などもここに当てはまる。最近は、商品やサービスなどと交換できる社内ポイントを報酬とする企業も。
評価的インセンティブ
成果に対して評価を上げるもので、表彰や昇進、重要プロジェクトへの参加などを与えることがよく行われる。社員の前で成果を発表したり、シンプルに褒めたりすることも、評価的インセンティブの一種といえるが、評価が現実に反映されづらいので、やはり昇進、昇格、表彰など、地位を与えるのが効果的とされる。
人的インセンティブ
上司や先輩との対人関係を円滑にしたり、職場や部署で良好な人間関係を構築したりすることで、社員のモチベーションアップを図るもの。社員が「〇〇さんのためにがんばろう」「〇〇さんのために成功させたい」「喜びを分かち合うためにも、みんなで目標を達成しよう」などと思えるような人事や配属を行う、相性のよい、仲のよい社員を部署やプロジェクトに集めるなどが想定される。成果による報奨とは直接関係はないものの、成果を上げている社員を優秀な上司に付けるなどはよく行われる。
理念的インセンティブ
成果自体には直接関係ないが、企業理念に共感したり、価値観を共有することなどが、やる気を起こさせたりモチベーションを持続させる意味で、インセンティブの一種に分類されるもの。企業理念を朝礼などで伝える、社内報や社内ネットで啓発する、目標や社訓などを壁などに掲げる、朝礼で共に読み上げる、理念をよく理解した仕事熱心な社員をプロジェクトリーダーに登用する、などが想定される。
自己実現的インセンティブ
仕事を通じて社員のビジョンや夢を実現させる、または実現の補助を行うことで、社員のやる気やモチベーションアップを図るもの。個々の要望に沿ったやりがいのある仕事をまかせる、キャリア形成や要望に沿った研修に参加させる、資格習得のための講座や外国語のレッスンを受けさせる、などが該当する。このインセンティブは、社員のスキルアップやポテンシャルも高められるため、企業側のメリットも大きいといえる。
これから予測される課題は?
やりすぎや弊害に注意しつつバランスよく導入、運用
インセンティブの導入により、社員のモチベーションが上がる、職場が活気づく、などがメリットとして挙げられます。社内の雰囲気がポジティブになれば、社員の充実感、満足感も上がり、社員の定着度や会社の業績向上につながるなど、なかなかいい方向ともいえます。
ただし、インセンティブにはデメリットや弊害がつきもの。この点には注意が必要です。「社員のモチベーション」や「やる気」という、目に見えないメンタルなジャンルなので、慎重な導入と運用が必要となります。これから以下に挙げる、想定されるデメリットや弊害をふまえ、バランスのよい運用を心がけましょう。
競争激化につながり団結力が低下する
例えば、営業部で契約件数によるインセンティブが支払われる場合、営業部内での競争心が上がり成果につながる一方、「競争が激化して人間関係が悪化する」「団結力が低下しチームワークが阻害される」「個々の競争のため情報の共有が行われずノウハウが上がらない」「無理をし過ぎて過労になる」「強引な契約や勧誘で会社の信用を落とす」などが想定される。
関係ない仕事がずさんになる
インセンティブは、報奨を設定した業務に対して、成果や実績を上げる動機付けになる一方、対象外の業務への意欲や興味が低下するリスクが想定される。例えば、子どものお手伝いで、おつかいには報奨があり、掃除にはない場合なら、おつかいばかりにやる気や興味が向く。こうした構図と同様にインセンティブに結びつかない業務がなおざりになる可能性も生じる。
優秀社員ばかりに偏る
インセンティブは成果に対してのものではありますが、成果を出し続ける優秀な社員にばかりインセンティブが与えられる状況では、社員の中で優劣が生まれる、評価の上がらない社員のモチベーションが下がる、ねたみなどで人間関係が悪化する、などの弊害が想定される。もともと成果や業績に対して行われる報奨とはいえ、同じ社員ばかりが報奨を受ける状況は、回避する必要があるだろう。
金銭に偏る
金銭的インセンティブは一時的に意欲を向上させる効果はあっても、「無理な労働による過労やストレス」「人間関係の悪化」「視野が狭くなる」などで、業績悪化や離職率を高める結果にもなりかねない。仕事のやりがいやスキルが向上できる環境、気持ちよく働ける環境など、非物質的インセンティブのほうが、離職率低下や生産性向上といったビジネスの本質的な課題解決に有効といえるケースもある。
インセンティブは、メリットも大きいもののデメリットや弊害も伴います。自社の状況をよく把握した上で全社員・全部署に気を配りつつ導入は慎重に行い、実行時は常に状況を見守りつつ、内容や条件を定期的な見直すことが必要となるでしょう。これらをよく頭に入れ、効果的に活用していきましょう。
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