いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第3回のテーマは、「ストレスチェック」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
近年、働く人が受けるストレスは拡大する傾向にあるといわれ、仕事に関して強い不安やストレスを感じている人が「6割」を超えるという見方もあります。多くの企業がメンタルヘルス不調による休務者を抱えている状況ともいわれ、働く人のメンタルヘルスの保持増進が、社会的にも大きな課題となっています。
一般的に、メンタルヘルスに不調をきたす人は年々増加傾向にあり、メンタル面の不調は、誰でも抱える可能性がある問題との認識を持つことが重要とされます。メンタル不調による休業は長期化する場合もあり、職場復帰や雇用継続はなかなか一筋縄ではいきません。また、メンタルの不調が進むと、離職などの事態を招くリスクもあり、そうした事態はできる限り避け、早期発見早期対策を心がける必要があります。
ストレスチェックは、働く人のストレスの程度を把握し、自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場環境改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を主な目的としています。自分の状態を知り、ストレスを抱え過ぎないよう対処し、ストレスが高い場合は医師の面接を受け助言をもらう、会社側に仕事の軽減など措置を依頼するなどメンタルヘルスの不調を未然に防止する仕組みです。
働く人のメンタルヘルス不調防止には、企業ぐるみの努力が必要
ストレスの原因となる要因(以下「ストレス要因」)は、仕事、家庭、地域などあらゆる場所に存在します。心の健康づくりは、誰しもメンタルヘルスに不調を抱える可能性がある昨今、セルフケアの必要性を一人ひとりが認識する必要があります。
しかし、職場のストレス要因は、働く人自身の力だけでは取り除くことができないものが多く、心の健康づくりには、職場環境の改善も含めて事業者側はメンタルヘルスケアを積極的に推進し、職場ぐるみの組織的・計画的な対策が必要です。働く人のメンタルヘルス対策の視点や事例については、厚生労働省の「こころの耳」が参考になります。
事業場でのメンタルヘルスケアの推進に向けては、事業者側としてはストレスチェック制度を含めた取り組みの積極的な推進を表明し、自社の現状とその課題点を明確にして、基本的な計画(「心の健康づくり計画」)を立て、ストレスチェック制度の規程に沿ってストレスチェックを円滑に実施することが重要です。これらの取り組みには、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つのメンタルヘルスケアが基本となります。概要と事業者が行うべきことを見ていきましょう。
セルフケア
心の健康づくりは、従業員一人ひとりがストレスに気づき、対処するための知識や方法を身につけ実施することが基本。事業者はセルフケアに関する研修や情報の提供を行うとともに、相談体制を整備して従業員が自発的に相談しやすい環境を整え、年一度のセルフチェックを事業場の全員が受けられるよう努める。また、「職場のストレスセルフチェック」(ストレスチェック制度の質問票と同内容)や「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」などで、従業員が随時セルフチェックを行える機会を提供するのも効果的とされる。
ラインによるケア
部下の状況を日常的に把握している管理監督者(上司)は、職場における具体的なストレス要因を把握し、改善をはかれる立場にあることから、職場環境の把握と改善、労働者からの相談対応をいつでも行える体制を整える。なお、一時的なプロジェクトに参加する場合など従業員への通常のケアが難しい状況には、実務の管理者に依頼するなど、通常と同等のケアが実施されるよう尽力する必要がある。
産業保健スタッフによるケア
事業場内の産業保健スタッフは、セルフケアやラインによるケアの支援を行う他、心の健康づくり計画に基づいた企画立案や実施、メンタルヘルスに関する個人情報の管理、外部とのネットワークの整備など、メンタルヘルスケアの中心的な役割を果たす。事業者はこうしたスタッフに対し、必要な研修や情報を提供し、方針を明示し実施すべき内容を委嘱または指示、従業員から相談を受ける体制の整備、産業医の助言や指導を得ながら実務を行う「メンタルケア推進担当者」の選定、などを行う必要がある。
外部の医療機関や保健機関によるケア
メンタルヘルスケアを行う上では、外部の医療機関や地域保健機関の支援を受けるのも有効とされる。従業員が事業場内での相談を望まない場合は、外部機関を利用することも選択肢となる。この場合、サービスや情報管理が適切に行われているかを事前に確認する必要があり、社内で専門的知識や情報を必要とする場合など、産業保健スタッフが窓口となり、適切な外部機関と円滑な連携を図ることが重要となる。また、必要に応じて従業員を速やかに外部の医療機関や地域保健機関に紹介できるよう、ネットワークを日頃から整備しておく
これから予測される課題は?
実際のストレスチェック制度の実施は、「こころの耳」の「ストレスチェック制度について」を参照しましょう。ここには、ストレスチェック制度に関する実施マニュアルやパンフレット、Q&Aや相談窓口、ITツールなど、役立つ情報がまとめられています。導入時には、「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」が分かりやすいでしょう。
50人未満、小規模事業場のメンタルヘルス対策は?
常時50人以上の従業員を抱える事業者は、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを行い、報告書を所轄労働基準監督署長に提出する義務があります。この一方、50人未満の事業場では、努力義務にとどまり、「労働者健康状況調査」によれば中小規模事業場におけるメンタルへルス対策の実施率は大企業に比べて低い傾向にあるとされます。しかし、今後、働く人のメンタルヘルス問題が拡大していけば、実施義務が課せられる可能性もなくはありません。今のうちから環境を整備しておく、情報を取得しておくなどをしておいて損はないと思われます。
小規模事業場のメンタルヘルス対策には「こころの耳」の「中小規模事業場に適したメンタルヘルス対策は?」が、個人事業者やフリーランス向けには「フリーランスの方のメンタルヘルスケア」が参考になります。なお、小規模事業者や個人事業者には、労働安全衛生法で定められた産業保健サービスが無料で受けられる「地域産業保健センター」の利用がおすすめです。
ストレスチェックで気を付けなければならないこと
ストレスチェック制度は、労働者の個人情報が適切に保護され、不正な目的で利用されないようにすることで、労働者も安心して受け、適切な対応や改善につなげられる仕組みです。このことを念頭において、各種の情報の取り扱いには十分留意する必要があります。また、プライバシーの保護も重要です。この点、ストレスチェックや面接指導で個人の情報を取り扱った者には、法律で守秘義務が課され、事業者に提供されたストレスチェック結果や面接指導結果などの個人情報は適切に管理する必要があります(面接指導の結果は5年間保存する義務があります)。
また、事業者が従業員に対して、「医師による面接指導を受けたい旨の申し出を行ったこと」「ストレスチェックを受けないこと」「ストレスチェック結果の事業者への提供に同意しないこと」「医師による面接指導の申し出を行わないこと」などを理由に不利益な扱いを行うことは禁止されています。さらに、面接指導の結果を理由に、解雇、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換や職位変更などを行うことも禁止されているので、こうしたポイントにも注意が必要です(なお、ストレスチェックは、事業者、管理監督者、産業保健スタッフ、メンタルヘルス推進担当者などももちろん、受ける必要があります。忘れずに受けましょう)。
少子化などにより人材不足を抱える日本の社会ですが、貴重な人材をメンタルヘルスの不調で減らしたくない、失いたくないのはもちろんです。まずは前述のセルフチェックを行って自分のメンタル状態を知り、何が必要か何をすべきかを考えてみるとよいでしょう。
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