いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第6回のテーマは、「個人情報」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
氏名や性別、生年月日、住所などの情報は、個人のプライバシーに関わる大切な情報です。これらの情報を活用することで、行政や医療、ビジネスなどさまざまな分野において、サービスの向上や業務の効率化が図られるなどのメリットがある一方で、個人情報の漏えいや不正取得、不正利用など個人の権利や利益を侵害する危険性が高まっています。実際、ECサイトやインターネット銀行などのID・パスワード、支払い情報などが盗用されて財産が侵害される、実名公開その他によるSNSでの誹謗中傷などのさまざまな被害が表面化しています。
(「個人情報保護法」における)「個人情報」とは
①個人情報
生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報のこと。これには、他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できるものも含まれる。生年月日や電話番号などは、単体では特定の個人を識別できない情報だが、氏名などと組み合わせることで特定の個人を識別できるため、個人情報に該当する。また、メールアドレスについてもユーザー名やドメイン名から特定の個人(○○社所属の△△さん、など)を識別することができる場合は、それ自体が単体で個人情報に該当する。
事例 1)本人の氏名
事例 2)生年月日、連絡先(住所・電話番号・メールアドレス)、会社における職位、または所属に関する情報について、それらと本人の氏名を組み合わせた情報
事例 3)防犯カメラに記録された情報など、本人が判別できる映像情報
事例 4)本人の氏名が含まれるなどの理由により、特定の個人を識別できる音声録音情報
事例 5)特定の個人を識別できるメールアドレス。例えば
「kojin_ichiro@example.com」のようにメールアドレスだけの情報でも、example社に所属するコジンイチロウのメールアドレスであることがわかる場合など
事例 6)個人情報を取得後に付加された個人に関する情報(取得時には生存する特定の個人を識別することができなかったとしても、取得後、新たな情報が付加、または照合された結果、生存する特定の個人を識別できる場合は、その時点で個人情報に該当する)
事例 7)官報、電話帳、職員録、法定開示書類(有価証券報告書等)、新聞、ホームページ、SNSなどで公にされている特定の個人に関する情報
②個人識別符号が含まれる情報
「個人識別符号」とは、番号、記号、符号などのうち、その情報単体から特定の個人を識別できる情報で、政令・規則で定められたものをさす。この個人識別符号が含まれる情報は個人情報とされる。
(1)個人の身体のデータ
身体の一部の特徴を電子処理のために変換した符号で、顔認証データ、指紋認証データ、虹彩、声紋、歩行の態様、手指の静脈、掌紋など
(2)個人に割り振られる公的な番号
サービス利用や書類において利用者ごとに割り振られる符号で、パスポート番号、基礎年金番号、運転免許証番号、住民票コード、マイナンバー、保険者番号など。
「要配慮個人情報」に注意!
個人情報の中には、他人に公開されることで、本人が不当な差別や偏見などの不利益を被らないようにその取り扱いに特に配慮すべき情報があります。例えば、次のような個人情報は、「要配慮個人情報」として、取り扱いに特に配慮しなければいけないとされています。このような「要配慮個人情報」の取得には、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。
人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により被害を受けた事実の他、身体障がい・知的障がい・精神障がいなどの障がいがあること、医師等により行われた健康診断その他の検査の結果、保健指導、診療・調剤情報、本人を被疑者または被告人として逮捕などの刑事事件に関する手続きが行われたこと、非行・保護処分等の少年の保護事件に関する手続きが行われたことの記述などが含まれる個人情報
企業に与えるインパクトは?
各個人それぞれが、個人情報を扱う際、配慮や注意が必要なのはもちろんですが、企業はその業務において、社員名簿や顧客・ユーザー名簿、取引先などさまざまな個人情報を扱います。「個人情報データベース等」を事業の用に供している事業者を「個人情報取扱事業者」と呼びます。今の世の中、ほとんどの事業者が該当すると思われます(国の機関、地方公共団体、独立行政法人等などを除く)。
「個人情報データベース等」とは、特定の個人情報について、コンピューターを用いて検索することができるように体系的に構成した、個人情報を含む情報の集合物をいいます。コンピューターを用いない場合でも、紙面で処理した個人情報を一定の規則(例えば、五十音順など)に従って整理・分類、特定の個人情報を容易に検索することができるよう、目次、索引、符号などを付し、容易に検索可能な状態に置いているものも該当します。「個人情報保護法」施行時は「取り扱う個人情報の数が5000人分以下の小規模事業者」は対象とされませんでしたが、2015年の改正法から「取り扱う個人情報の数が5000人分以下の小規模事業者」も対象となり、情報数にかかわらず、個人情報保護法の管理下となっています。
また、個人情報取扱事業者が個人情報や個人データを取り扱うときは、個人情報保護法に基づき、個人情報の漏えいや盗用・悪用などの事態が起こらぬよう、慎重に管理する必要があります。もし、個人情報の漏えいなどが発生したとき、または発生したおそれがある場合、個人情報取扱事業者は、速やかに個人情報保護委員会に報告、本人へ通知しなければいけません。
では、個人情報取扱事業者が個人情報や個人データを扱う基本ルールについて、以下で簡単に確認していきましょう(詳細については、前出の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」や「個人情報保護法をわかりやすく解説 個人情報の取扱いルールとは?」が参考になります)。
①個人情報を取得・利用するとき
・個人情報取扱事業者が個人情報を取り扱うに当たっては、どのような目的で個人情報を利用するのか具体的に特定する必要がある。個人情報の利用目的は、あらかじめウェブサイトなどで公表するか、本人に知らせなければならない。
・個人情報は、違法または不当な行為を助長し、または誘発するおそれがある方法で利用してはならない。
・「要配慮個人情報」を取得するときは、あらかじめ本人の同意が必要。
・取得した個人情報は、利用目的の範囲内で利用する。
・取得している個人情報を、特定した利用目的の範囲外に利用する場合は、あらかじめ本人の同意が必要。
②個人データを保管・管理するとき
・個人情報取扱事業者は、個人データの漏えいなどが生じないよう、安全に管理するために必要な措置を講じなければならない。例えば、紙で管理する場合は鍵のかかるキャビネットに保管する、パソコンで保管する場合はファイルにパスワードを設定する、セキュリティ対策ソフトを導入する、など。
・従業者や委託先においても、個人データの安全管理が図られるよう、必要かつ適切な監督を行う。
・個人データの漏えいなどが発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合は、個人情報保護委員会に報告、本人に通知する義務がある。
③個人データを第三者に提供するとき
・個人データを本人以外の第三者に提供するときは、原則として、あらかじめ本人の同意が必要となる。ただし、本人の同意を得なくても、例外的に個人データを第三者に提供できる場合がある。例えば、法令に基づく場合(警察、裁判所、税務署などからの照会)、人の生命・身体・財産の保護に必要で本人の同意取得が困難な場合、公衆衛生・児童の健全育成に必要で本人の同意取得が困難な場合、学術研究目的での提供・利用、委託・事業承継・共同利用など。
・外国にある第三者に提供する際には、次のいずれかを満たす必要がある。
1)あらかじめ本人の同意を得る
同意を得る際に、その外国の個人情報保護制度や、提供先が講じる保護措置などの情報を本人に提供する必要がある。
2)外国にある第三者が適切な体制を整備している
提供先における個人データの取り扱い実施状況などの定期的な確認および問題が生じた場合の対応の実施、さらには本人の求めに応じて移転先における個人情報保護委員会が定める基準に適合する体制の整備の方法に関する情報などを提供する必要がある。
3)外国にある第三者が個人情報保護委員会が認めた国または地域に所在している
・第三者に個人データを提供した場合は「いつ・誰の・どんな情報を・誰に」提供したか、第三者から個人データの提供を受けた場合は「いつ・誰の・どんな情報を・誰から」提供されたかを確認・記録する必要がある(記録の保存期間は原則3年)。
④本人から保有個人データの開示等を求められたとき
・本人からの請求があった場合は、保有個人データの開示、訂正、利用停止などに対応する必要がある。
・個人情報の取り扱いに対する苦情を受けたときは、適切かつ迅速に対処する必要がある。
・以下の内容について、ウェブサイトで公表するなど、本人が知り得る状態にしておかなければならない。
1) 個人情報取扱事業者の氏名または名称、住所
2) 全ての保有個人データの利用目的
3) 保有個人データの利用目的の通知の求めまたは開示などの請求手続
4) 保有個人データの安全管理のために講じた措置
5) 保有個人データの取り扱いに関する苦情の申出先
・第三者に個人データを提供した記録も開示請求の対象となる。
・保有個人データの開示方法について、電子データなどによる提供を含め、本人が請求した方法で対応する必要がある。
これから予測される課題は?
先ほど個人情報取扱事業者において「個人データの漏えいなどが発生し、個人の権利や利益を害するおそれが大きい場合は、個人情報保護委員会に報告、本人に通知する義務がある」と述べました。この個人情報保護委員会への報告および本人への通知は、施行当初は努力義務でしたが、2022年4月の2回目の改正から義務化されています。
個人情報取扱事業者においては、個人データ漏えいなどの事案を起こさないに越したことはありません。起こしてからでは、データを盗まれた顧客など個人にとっても、自社の信用やブランドイメージにとっても取り返しがつかないダメージを受ける可能性があります。そのためにも、個人情報は何かをよく知り、大事な情報を扱う自覚を持ち、万全の態勢で管理、ルールに従って整備・扱う必要性があります。個人情報保護法にならって情報を管理するには、厳重な整備や管理を行う必要があり、自社のみで対応が難しい場合は、ベンダーや有識者、相談機関などに声掛けすることも手と思われます。個人情報保護法まわりの各種ソリューションも多く登場しているので、導入を検討するのもよいでしょう。
個人情報をはじめとしたデータを守るために、セキュリティ関連の強化、ウイルスやマルウェアの被害に遭わないための、標的型メール対策や従業員の意識強化など、行うべきことは数多くあります。常に情報のアンテナを張って最新の法改正などの情報を心得ておく必要がありそうです。
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