いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第10回のテーマは「脱炭素」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を大量に燃やすようになったことで、人類のCO2排出量は急激に増加しています。CO2には地表の熱が宇宙に逃げることを妨げる「温室効果」があり、地球温暖化が加速していると考えられています。世界の平均気温は2020年時点で、工業化以前(1850~1900年)から約1.1℃上昇していることが明らかにされています。このままの状況が続けば、さらなる気温上昇が予測されます。
近年、国内外でさまざまな気象災害が発生しています。気温上昇に伴う気候変動により、今後、豪雨や猛暑のリスクがさらに高まることが予想されています。日本でも、農林水産業、水資源、自然生態系、自然災害、健康、産業・経済活動などへの影響が出るとの指摘があります。こうした状況は、もはや私たち人類や全ての生き物にとって、生存基盤を揺るがす「気候危機」ともいえるでしょう。その原因となっている温室効果ガスは、経済活動・日常生活に伴い排出されていますが、人々の衣食住や移動などライフスタイルに起因する温室効果ガスが、わが国全体の排出量の約6割を占めるといった分析もあり、将来の世代も安心して暮らせる持続可能な経済社会をつくるには、国民一人ひとりが脱炭素社会の実現に向けて取り組む必要があるといわれています。
こうした地球規模の課題である気候変動問題の解決に向け、2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として、世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をすること、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成することなどを合意しました。現在、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を掲げて、努力を重ねています。
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました(以下、「2050年カーボンニュートラル宣言」と記述)。すべての企業や個人がそれぞれリサイクルや資源の節約に取り組むことが「脱炭素社会」の実現につながります。環境省では、脱炭素社会の実現に向けて私たちができることとして「ゼロカーボンアクション30」をまとめています。
「ゼロカーボンアクション30」
〇エネルギーを節約・転換しよう!
1 再エネ電気への切り替え
2 クールビズ・ウォームビズ
3 節電
4 節水
5 省エネ家電の導入
6 宅配サービスをできるだけ一回で受け取ろう
7 消費エネルギーの見える化
〇太陽光パネル付き省エネ住宅に住もう!
8 太陽光パネルの設置
9 ZEH(ゼッチ。住宅の高断熱化、高効率設備による省エネルギーで消費エネルギーを減らし、太陽光パネルにより再生可能エネルギーを導入し、エネルギーを創ること)
10 省エネリフォーム、窓や壁等の断熱リフォーム
11 蓄電池(車載の蓄電池)、省エネ給湯器の導入・設置
12 暮らしに木を取り入れる
13 分譲も賃貸も省エネ物件を選択
14 働き方の工夫
〇CO2の少ない交通手段を選ぼう!
15 スマートムーブ(自転車や公共交通機関など自動車以外の移動手段の選択)
16 ゼロカーボン・ドライブ(再生可能エネルギー電力と電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を活用した、走行時のCO2排出量がゼロのドライブ)
〇食品ロスをなくそう!
17 食事を食べ残さない
18 食材の買い物や保存等での食品ロス削減の工夫
19 旬の食材、地元の食材でつくった菜食を取り入れた健康な食生活
20 自宅でコンポスト(家庭の生ごみなどの有機物を微生物の動きを活用して発酵・分解させること)
〇サステナブルなファッションを!
21 今持っている服を長く大切に着る
22 長く着られる服をじっくり選ぶ
23 環境に配慮した服を選ぶ
〇3R(リデュース、リユース、リサイクル)
24 使い捨てプラスチックの使用をなるべく減らす。マイバッグ、マイボトル等を使う
25 修理や修繕をする
26 フリマ・シェアリング
27 ゴミの分別処理
〇CO2の少ない製品・サービス等を選ぼう!
28 脱炭素型の製品・サービスの選択
29 個人のESG投資(環境・社会・企業統治の3つの観点から企業を分析、評価した上で投資先を決める方法)
〇環境保全活動に積極的に参加しよう
30 植林やゴミ拾い等の活動
企業に与えるインパクトは?
「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、「地球温暖化対策推進法」が2021年5月26日に改正されました。詳細は「脱酸素ポータル」の「改正地球温暖化対策推進法 成立」にありますが、改正には3つのポイントがあります(なお、それまでの改正経緯は「地球温暖化対策推進法について」から参照できます)。その概要は次のとおりです。
①2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に
わが国では、2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」やパリ協定に定める目標などを踏まえ、2050年までのカーボンニュートラルの実現を明記。これにより、国の政策の継続性が高まり、国民や自治体、事業者などはより確信を持って地球温暖化対策の取り組みを加速できる。
②地方創生につながる再エネ導入を促進
2050年までのカーボンニュートラルの実現には再生可能エネルギーの利用が不可欠。一方、再生可能エネルギー事業に対する地域トラブルが見られ、地域における合意形成が課題となっている。こうした課題を解決するため、地方自治体が策定する地方公共団体実行計画において、地域の脱炭素化や課題解決に貢献する事業の認定制度を創設し、関係法律の手続きのワンストップ化を可能とするなど、円滑な合意形成による再生可能エネルギーの利用促進を図る。
③企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化
地球温暖化対策推進法では、一定以上の温室効果ガスを排出する事業者(「特定排出者」)に対し、排出量を報告させ、国がとりまとめて公表する制度がある。この制度においてデジタル化を進めることにより、報告する側と使う側の双方の利便性向上を図る。また、開示請求を不要とし、オープンデータ化を進め、企業の脱炭素に向けた前向きな取り組みが評価されやすい環境を整備する。
1つめのポイントは、「パリ協定」および「2050年カーボンニュートラル宣言」の長期的な方向性を法律に位置づけ、脱炭素に向けた取り組みや投資を促進する狙いがあります。2つめは、地方の求める方針(環境配慮・地域貢献など)に適合する再エネ活動事業を市町村が認定する制度を導入、円滑な合意や形成を促進するというもの。そして3つめは、企業からの温室効果ガス排出量報告をデジタル化、開示請求を不要とし、常に最新のデータを見られるようになりました。
改正された「地球温暖化対策推進法」の「第五章 事業活動に伴う排出削減等」には、こう書かれています。
(事業活動に伴う排出削減等)
第二十三条 事業者は、事業の用に供する設備について、温室効果ガスの排出の量の削減等のための技術の進歩その他の事業活動を取り巻く状況の変化に応じ、温室効果ガスの排出の量の削減等に資するものを選択するとともに、できる限り温室効果ガスの排出の量を少なくする方法で使用するよう努めなければならない。
(日常生活における排出削減への寄与)
第二十四条 事業者は、国民が日常生活において利用する製品又は役務(以下「日常生活用製品等」という。)の製造、輸入若しくは販売又は提供(以下この条において「製造等」という。)を行うに当たっては、その利用に伴う温室効果ガスの排出の量がより少ないものの製造等を行うとともに、当該日常生活用製品等の利用に伴う温室効果ガスの排出に関する正確かつ適切な情報の提供を行うよう努めなければならない。
日常生活用製品等の製造等を行う事業者は、前項に規定する情報の提供を行うに当たっては、必要に応じ、日常生活における利用に伴って温室効果ガスの排出がされる製品又は役務について当該排出の量に関する情報の収集及び提供を行う団体その他の国民の日常生活に関する温室効果ガスの排出の量の削減のための措置の実施を支援する役務の提供を行う者の協力を得つつ、効果的にこれを行うよう努めるものとする。
これは、事業者の温室効果ガス削減についての基本が書かれています。すべての事業者がこれにならって事業に臨む必要があります。続く条文では、事業活動に伴い相当程度多い温室効果ガスの排出をする者として政令で定める「特定排出者」について記述されていますが、これは3つめのポイント「企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化」に相当します。「特定排出者」については「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」において、「一定以上の温室効果ガスを排出する事業者」とされ、定義は「制度概要」の「対象となる温室効果ガスと事業者」にあるように、「全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる事業者」などが対象とされています。
現在、報告対象外業者であっても、今後、事業拡大などで、算定・報告・公表制度の対象(「特定排出者」)となる可能性も想定されます。可能性のある事業所は、注意が必要です。
これから予測される課題は?
「地球温暖化対策推進法」本文の「第五章 事業活動に伴う排出削減等」をふまえ、「脱炭素化」のためにすべての人が行うべき「ゼロカーボンアクション30」を、業務で考えられる例を挙げてみましょう。
・太陽光発電や風力発電を導入する
・再生可能エネルギー、つまり「太陽光発電および太陽熱発電」「風力発電」「水力発電」「バイオマス発電およびバイオガス発電」「地熱発電」などから作られた電力を極力利用する
・照明をLEDに替える。白熱電球(消費電力54W)に比べて、LED電球(消費電力9W)を使用すると消費電力を83%カットできる。使わない照明はこまめに切るなど節電を心がける
・ピークカット(電力消費の多い時間帯の電力をカットする)やピークシフト(生産活動を昼間から夜間に移す)などの省エネ努力を行う
・「非化石証書」(再生可能エネルギーなどによる電力の環境価値を証書化したもの)、「トラッキング付き非化石証書」(非化石証書にどこで発電されたものかを示す情報を付加した証書)付きのクリーンなエネルギーを積極的に導入する
・「デマンド監視装置」などで電力使用量を見える化、より細かく具体的な省エネ対策を行う。最大ピーク電力の上限を超えそうになったら空調Aを自動で消すといった自動制御も可能な「デマンドコントローラー」も効果的
・太陽光発電や、風力発電、植林活動など温室効果ガスの削減や吸収を助けるプロジェクトに投資する
・クールビズ・ウォームビズにより、節電・省エネに取り組む
・状況に応じて在宅勤務を取り入れ、渋滞時間に巻き込まれることなく、自動車やバスなどの排ガス削減に取り組む
・出張などで外部に出向いて行っていた打ち合わせや会議を、テレビ会議で行うことで、出張費や旅費、ガソリンなどを節減する
・社用車を電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)に替え、クリーンなエネルギーを心がける
・同じ方向から通勤する従業員は自動車を乗り合わせて出退勤する
・出張も通勤も、なるべく公共交通機関を利用する
・残業時間を減らし、定時出退勤を心がけることで、暗くなってからの電気代や冷暖房費などを削減する
・デジタル機器上のメール、チャット、テキスト、PDFなどを利用することで、ペーパーレスを目指す
・クラウドツールの導入により、社内サーバーを撤廃して節電する
・RPAツールなど自動化ツールの導入でPC作業を効率化、稼働時間をさらに減らして省電力化する
・パソコンや各種設備において、リユース品やリサイクル品を積極的に検討する。使用済みのパソコンや機械類などはリユースやリサイクルに回す
・リサイクルマーク付きの製品を積極的に利用する
まだまだたくさんありそうですが、こうして思いつくまま書き出してみると、脱炭素化を心がけることで、電気代や燃料代が多く節約され、業務効率化やコスト削減につながることがわかります。例えば、「全員が定時出退勤する」という目標を掲げて力を合わせて効率化することを考えてみましょう。もちろんそれで脱炭素化は大きく進みます。従業員も事業も余裕ができてますます工夫を凝らせるようになり、さらに事業は幸せな方向に進む、というような一石二鳥どころではない「いいことづくめ」な構図が見えてきます。
自動化ツールやバックオフィスツールなど、ITツールでの効率化はもちろんですが、「脱炭素化」を目指すためのツールもたくさんあります。電力見える化ツールなどで、エネルギー利用を見える化し、より具体的な省エネに取り組むのも一案です。「電力見える化+ソリューション」などの検索で数多く出てきます。自社でカーボンニュートラルを実現したい場合は、「カーボンニュートラル+ソリューション」で探すのもよいでしょう。場合によってはベンダーにまるごと相談するのもいいかもしれません。また、脱炭素化社会に対する貢献度は、会社のイメージアップにもつながります。一人ひとりの生活はもちろん、事業においても「脱炭素」をめざせば、業務がさらに効率化してなおかつ未来の地球も守れるという「好循環」が見えてきます。ぜひ、自社に合った方法で、進めていきましょう。
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