いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第14回のテーマはスッキリわかる「5S活動」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
工場や病院など、現場でスローガンとしてよく掲げられる「3S」。「整理(Seiri)」「整頓(Seiton)」「清掃(Seisou)」のローマ字からそれぞれの頭文字である「S」を取った言葉です。これらを徹底することで、職場の環境改善などを図る活動を「3S活動」と呼びます。「3S」の他、整理・整頓のみの「2S」や、3Sに「清潔」(3Sの状態をキープすること)を加えた「4S」、そして4Sに「しつけ」(4Sのルールを習慣化すること)を加えた「5S」があります。近年盛んなのは、「継続性」と「人」を重視した「5S」です。経済産業省や厚生労働省なども、「5S」を推奨しています。
筆者は以前、企業の企画室に勤務していましたが、工場には「3S」のポスターやスローガンが貼られていました。そんなこともあって「3Sって何か知ってる?」といわれたら、誰でも当たり前に「整理・整頓・清掃だよ」と即答できるほど、スローガンとして徹底できていたと自負しています。しかし、改めて考えると、社員一人ひとりがその本当の意味を理解できていたのだろうかと、疑問が湧いてきます。
もちろん、整理整頓されて、キレイに掃除され、清潔さが保たれた環境は誰しも気持ちがいいのは確か。だからといって、目的なく実行しては効率化には結びつきづらいでしょう。正しく理解するため、それぞれの定義と実行のポイントを見ていきましょう。
・「整理」:「必要と不要を区別し、不要は捨てる」
使わない機械や不要な資材など、「不要なものがあるということは、貴重な作業スペースをムダになっていることを意味する。ここでの整理とは、必要なものと不要ものを区別して適切に処理(廃棄)することをさす。不要品を整理すると作業スペースが広がるだけでなく、通路が通りやすくなるなどで安全性が向上、労働環境の改善、業務の効率化につながる。なお、整理の障害になるのが、物を捨てることへの心理的な抵抗感。このため「〇カ月使わなければ廃棄」など「捨てるルール」を決めて、定期的にチェックしていくのがコツ。
・「整頓」:「置き場所を決めて“探す時間”をなくす」
仕事に取りかかろうとした時、道具が見つからない、必要な書類が見つからない、という経験は誰しもあるが、「探す時間」は生産性のないムダな時間となる。「整頓」は、材料、道具、作業着、指示書、書類などあらゆるモノの置き場所を明確にすることで、必要なものを探す時間を限りなくゼロに近づけることが目的。「どのタイミングでどの場所で使うのか」を考え、使い勝手のよい、取り出しやすい、わかりやすい場所に配置するのがポイント。
・「清掃」:「掃除とともに点検する」
「清掃」は、現場の掃除を行い、きれいな環境を維持管理すること。衛生面だけでなく、社員が快適に気持ち良く作業できる精神面のメリットも大きい。掃除をすると、ホコリなどによる機械設備のエラーや故障を防げるうえ、異常も発見しやすくなるので、清掃とともに道具や設備なども点検しよう。なお、清掃にも「誰が・いつ・どこを・どんな方法で・どのレベルまで清掃するか」、ルールを決めて。効率よく行うのがよい。
・「清潔」:「整理・整頓・清掃の状態をキープする」
社内の習慣を変えることはなかなか難しく、油断するとすぐに散らかった状態や汚れた状態に戻ってしまう。3S(整理・整頓・清掃)の手順をマニュアル化する、チェックシートを作成する、汚れを出さないよう作業方法を工夫するなどで、3Sの状態を維持しよう。
・「しつけ」:「ルールを作り習慣化する」
ここでの「しつけ」は「整理・整頓・清掃・清潔で決めたルールや作法を守り、身につけさせる(習慣化させる)」ことをさす。とはいえ大人である社員を、子どものようにしつける(従わせる)わけではない。5Sの目的とルール、作法を全社員で共有し、理解を深めつつ習慣化、全社員が自発的に整理・整頓・清掃・清潔に取り組めるよう、業務でのさまざまな変化にも対応できるよう、工夫を凝らしていくとよい。
「整理」は不要物を捨てること、だなんて、わかっていた人はいますか? 「整理・整頓・清掃」という字面だけでは、本当の意味や目的を理解できません。各項目の意味をよく知り、活動の本質を見極めて、その大切さを胸に皆が心を1つにして活動することが大切です。特に3S以降の「清潔」「しつけ」、すなわちキープする、自発的な取り組みを習慣化するという、高度な目標の達成には、企業ぐるみの大きな取り組みが必要となります。
企業に与えるインパクトは?
これらの活動は、もともと製造業、建設業、病院などの現場を中心に定着してきたものですが、すべての業種・すべての業務に大事な要素であるのはもちろんです。例えば、小売業ならば売れ筋と見切り品など在庫を区別・分類し(「整理」)、お客が買いやすいように陳列(「整頓」)、店内をきれいに「清掃」するのは基本の基本です。さらに、「清潔」な状態を維持できるようルールをつくり、店員に浸透・定着(「しつけ」)させていく、といった具合です。自分の業種や業務でそれぞれの項目について、どうすべきか、具体的にイメージしてみるのはいかがでしょう。
なお、5S(3S/4S)活動の目的は「Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の改善」といわれます。5Sを推し進めることにより「より質の高い商品・サービスを、できるだけ安く、お客が望むタイミングで提供」できるようになります。つまり5S(3S/4S)は、顧客満足を高めるための重要なキーワードなのです。
ただし、5S(3S/4S)活動にもメリットとデメリットがあります。以下のような項目が挙げられるので、よく理解しておきましょう。
●メリット
・業務効率化:必要な道具がすぐに取り出せて、探す手間がなくなる。不要なものが片付くことで、移動や運搬がスムーズになる
・コスト削減:不要な在庫や設備、不用品などが減り、維持費や倉庫代など、経費が節減される
・職場環境の改善、安全性の向上:事故やけがのリスクが減り、安心して働ける環境が作れる
・機械の稼働率向上:設備を清潔に保つことで、故障を引き起こす原因が減る。きれいに整備された設備は、トラブルの元となる原因を早期に発見しやすくなる
・生産性・品質の向上:整理整頓、清掃が行き届いた環境は、品質管理や生産管理がしやすく、生産性や品質が向上する
・社員のストレス軽減・モチベーションアップ:クリーンな職場環境は、社員のストレスを減らし、満足度や意欲を高める
・チームワークの向上:活動を徹底することで社員の結束力が強くなる。コミュニケーションの活性化や人間関係の改善も期待できる
●デメリット
・効果が出るまで時間がかかる:継続的な取り組みが必要で、すぐには結果が出ない
・維持する、徹底するのには手間がかかる:ルールを整備して徹底させ、自発的に取り組む姿勢を根付かせるまでは、かなりの手間や工夫、それぞれの努力が必要となる
・効果がわかりづらい:売り上げや利益などに直接結びつかない。結果の数値化、見える化が難しい
・コストがかかる:整頓のための資材(棚、ラベルなど)、社員の活動分の時間と給与がかかる
・無駄な作業やストレスの原因となる:中途半端な理解やルールでの活動は、無駄な作業やストレスの原因になり、かえって非効率になる可能性がある
活動には、これらのメリット・デメリットを理解の上、進める必要があります。なお、多忙なときなどは、こうした整理整頓、掃除などの活動が「それどころではない」と思えることもあり、「整理整頓に時間や手間を掛けるより、1つでも生産や売り上げを上げる努力をしたほうがいいのでは…」と思いがちですが、何事にも冷静になって、5S(3S/4S)の重要性をよく認識して、臨機応変に対応していきましょう。
これから予測される課題は?
ところで、「3S」を掲げていても、3Sによるクリーンな環境を維持・継続していくには、実質的に5Sに近い運用を行う必要があり、最初から「5S」を掲げたほうが、もしくは途中からでも5Sにシフトしていったほうが、最終的に効率的となる可能性が大いにあります。実際、現代社会の情報も5S寄りになっています。
なお、3Sから5Sまでは、段階的に進めるのがよいとされています。まずは3Sの実現を目指し、3Sが実現したら「4S」の「清潔」(3Sの状態をキープする)を心がけます。キープしつつある状況がおおよそ整ったら、4Sの徹底・運用を行う(「しつけ」)といったように、順序立てて構築するのがよいでしょう。
IT活用がビジネスで必須となった今の時代では「情報分野での5S」活動も盛んです。データの必要・不要を分けて不要を捨てる(整理)、必要な情報の保存場所や保存方法のルールを決める(整頓)、ルールに従って整然と運用し必要な情報をいつでも取り出せるようにする(清掃)の「3S」に加え、3S状態の継続(清潔)、社員に徹底・習慣づけ(しつけ)というものです。
5S(3S/4S)が根付くと、社員の意識や仕事の作法も変わり、それが習慣化し社風となり、会社が良い方向に回りはじめ、やがて好循環となっていきます。「デメリット」に挙げたように、すぐ結果が出るものではありませんが、5S(3S/4S)が快適な職場環境につながることは間違いなく、できることから始めてみるのがおすすめです。例えば自分の机まわりの「整理」から始めることを呼びかけるのも有効でしょう。
世の中には5S(3S/4S)のためのソリューション、便利なツールも多く存在します。先述の「情報分野」に関してもしかりです。Webなどで自社に合ったものを探してみるのもよいでしょう。ベンダー、ミラサポなどの相談窓口に相談するのも手です。自分の習慣を変えることが難しいように職場の習慣を変えることも簡単ではありませんが、気長に根気よく、毎日の積み重ねでクリーンな環境を作っていきましょう。
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