いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第15回のテーマはスッキリわかる「健康経営」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
高齢化社会や少子化、人手不足の状況の一方で「人生百年」「生涯現役」と言われる今、人の力を「資源」として考え、十分に活用していく流れがあります。こうした「人」の力を活用するための重要なポイントの1つが「健康」です。「健康経営」とは、従業員など企業を構成する「人」の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することをいいます。企業が従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上など組織を活性化し、結果、業績や株価の向上につながると期待されています。
「健康経営」および「健康投資(健康経営の考えに基づいた具体的な取り組み)」は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」への国をあげた推進策として、経済産業省の「健康経営銘柄」「健康経営優良法人認定制度」など、優良な健康経営に取り組む法人が社会的に評価される制度づくりが進んでいます。
一方で、平均寿命は延伸するため、健康な状態で長期間経済活動を行うことができる「健康寿命の延伸」が重要とされます。この「健康寿命の延伸」において「2040年に健康寿命を75歳以上に」を目標に、すべての国民が75歳まで健康で働ける状況がめざされています。生産年齢人口の割合は、2020年から2050年で59%から52%に減少すると予測され、健康寿命75歳を実現する中で、65歳から74歳を生産年齢人口に含ませると、2050年の生産年齢人口は全体の約66%となり、2023年時点よりも高い割合になる、との予測です。
日本は2045年頃まで世界に先駆けた超高齢化が予測されていますが、世界的にも高齢化が進行、世界の高齢者数は2021年の7.6億人(高齢化率9.6%)から、2060年には18.8億人(18.7%)に達すると見込まれています。そこで日本が高齢化に対する課題先進国として、ヘルスケア分野で新たな需要の拡大・対応策の確立を実現できれば、今後高齢化の後を追ってくる諸外国への展開も視野に入れることが可能になる、といわれています。
こうした「生涯現役社会」の構築に向けて、経済産業省は下記のような方向性を掲げています。なお、健康経営への取り組みについては、経済産業省「健康経営」が参考になります。
ヘルスケア産業政策の基本理念 ~生涯現役社会の構築~
①「超高齢社会」は人類の理想
誰もが健康で長生きすることを望めば、社会は必然的に高齢化する
②「人生100年時代」も間近
戦後豊かな経済社会が実現し、平均寿命が約50歳から約80歳に伸びた
③「生涯現役」に合った経済社会の再構築が必要
国民の平均寿命の延伸に対応して、「生涯現役」を前提とした経済社会システムの再構築が必要
生涯現役社会では、介護などを必要とせず社会活動を行える期間、つまり「健康寿命」をいかに長く維持できるかが課題となります。これについては現役就労時の「健康投資」が大きく影響します。定年などでの現役引退後は「第二の社会活動」として、緩やかな経済活動、ボランティア、農業・園芸活動などが想定されますが、今後、「第二の社会活動」世代が活躍できる「新たなビジネス創出」も大きな課題となるでしょう。なお、介護や支援を受けるようになってからの世代に対しては、最期まで自分らしく生ききるための、多様で柔軟な仕組みづくりも必要です。
こうした形で日本は「人生100年時代」の社会づくりをめざしていますが、経済産業省は、ヘルスケア政策の姿として「国民の健康増進」「持続的な社会保障制度構築への貢献」「経済成長」を挙げ、以下の7つの施策を掲げています。
ヘルスケア政策の7施策
① 健康経営の推進(企業が従業員の健康づくりを「コスト」ではなく「投資」として捉え、人的資本投資の一環として推進)
② PHR(パーソナルヘルスレコード、健康診断結果や日常の脈拍や歩数のデータ)を活用した新たなサービスの創出
③ ヘルスケアサービスの信頼性確保を通じた社会実装の促進
④ 介護・認知症等の地域課題への対応
⑤ 地域における産業創出
⑥ ヘルスケアベンチャー支援
⑦ 医療・介護・ヘルスケアの国際展開
なお、同時に「健康寿命を2040年に75歳以上に」「公的保険外のヘルスケア・介護に係る国内市場を2050年に77兆円に」「世界市場のうち日本企業の医療機器の獲得市場を2050年に21兆円に」という目標も掲げています。
企業に与えるインパクトは?
企業が人的資本に対する投資(従業員への「健康投資」)を行うことは、従業員の健康増進・活力向上につながり、優秀な人材の獲得や人材の定着率の向上につながる、といわれます。健康経営・健康投資により、従業員が生き生きと働ける職場づくりを行うことで、経営課題解決に向けた基礎体力の向上、組織の活性化・生産性の向上など、企業の成長ポテンシャルが向上、その結果、業績や企業価値の向上につながっていくでしょう。
経済産業省は「健康経営・健康投資」について、下記の理念を示しています。
「健康経営・健康投資」とは
・健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること
・健康投資とは、健康経営の考え方に基づいた具体的な取り組み
・企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待される
こうした理念により「健康経営」を推進する経済産業省は、健康経営における顕彰制度を通じて、優良な健康経営に取り組む企業が社会的な評価を受けられる制度を整備しています。2014年度から「健康経営銘柄」、2016年度からは「健康経営優良法人認定制度」が創設されました。優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的な評価を受けられる、という仕組みです。
「健康経営優良法人認定制度」は、申請数が年々増加、2023年度には申請数が約1万7000社にのぼりました。経済産業省では2022年度から、民間の運営主体に対して補助金を交付していますが、応募のあった事業者の中から審査の結果、大手新聞社の1社が採択されました。これにより、健康経営に関するあらゆる情報を幅広く発信する健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト「ACTION!健康経営」が開設されました。
「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」の本年度の認定申請については、7月下旬をめどに「ACTION!健康経営」サイトで発表される予定です。過去の申請方法、選定基準、認定要件、申請・認定の流れなどを知りたい場合は「健康経営の推進について」の15~38ページを参照するとよいでしょう。「ACTION!健康経営」にある「中小規模法人部門 取り組み事例集」も参考になります。なお、健康経営に求められる内容は、時代に応じて年々変化しますので、その都度内容をよく確認して申請することをお勧めします。
これから予測される課題は?
では、先ほど触れた「健康経営優良法人2024 中小規模法人部門 取り組み事例集」を少し見てみましょう。認定数は、1万6733法人にのぼることがわかります。ここには18の企業の取り組み例が従業員数ごとに示されていますが、トレーニングエリアの自由解放、スポーツジムの利用、健康相談窓口の設置、健康イベントやラジオ体操の実施、研修、健康増進アプリの利用など、各社のさまざまな取り組みがわかり、参考になります。
なお、上記のような具体的な健康イベントの実施や相談窓口など、直接健康にかかわる取り組みももちろん大事ですが、従業員の健康のためには「働きすぎない」「ストレスがかかりすぎない」「働きやすい」職場づくりも大切です。作業を効率化して、なるべく残業時間を減らし、皆が健康的にストレスなく過ごしたいものです。健康経営のためのイベントやトレーニングなども、余暇がなければできないことで、業務の効率化は不可欠です。
いま健康経営を実現するためのソリューションも数多くありますので、Webなどで検索してみるとよいでしょう。先述のように、人的資源を十分に活用するにはITツールによる効率化も有効な選択肢です。従業員が働きすぎないための業務効率化ツールも同時に導入すべく「健康経営も含めた業務効率化」を、その分野に詳しいベンダーに相談するのが賢いかもしれません。
大手転職サイトなどにおいて、「健康経営優良法人」の特集が組まれたり、「健康経営優良法人」に認定されている法人一覧から求人情報が検索可能となったりなど、「健康経営優良法人」への注目度が高くなっている昨今、自社の健康経営および「健康経営優良法人認定制度」への申請を検討してみるのもよいでしょう。2022年6月からハローワークインターネットサービスに企業が求人票を登録する際、「健康経営優良法人」のロゴマーク(大規模法人部門、中小規模法人部門)が利用可能になった、などの話も聞きます。「健康経営」は、人を生かし、企業も発展する「いいことづくめ」のコンセプト。このコンセプトを胸に、皆が一人も取り残されず、生涯現役、願わくは100歳以上まで、生き生きと働き、人生を楽しみ、持続可能な明るい未来につなげたいものです。
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