いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第17回のテーマはスッキリわかる「報連相(ほうれんそう)」です。聞き慣れた言葉、と感じる方もいるかと思いますが、情報共有がビジネスにとって重要さを増す昨今。今回は、改めて言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
「報連相」とは、「報告」「連絡」「相談」を、野菜の「ほうれん草」に掛けたビジネス用語。起源は諸説あり、一般には1982年、山種証券社長の山崎富治氏が発案し、社内で「ほうれんそう運動」を行ったのがきっかけとされます。その後、1986年にベストセラーとなった同氏の書籍「ほうれんそうが会社を強くする: 報告・連絡・相談の経営学」で広まったと言われています。この「報告」とは、部下が業務の進捗状況などを上司に報告すること、「連絡」とは、関係者に業務変更や予定などの必要な情報を知らせること、「相談」とは、自分だけでは判断が困難な場合に上司などに意見を聞くこと、を指します。
業務をスムーズに進めるには、社内の連携とチームワークが不可欠です。報連相は業務でのコミュニケーションの基本とされますが、最近では、社員の自主性を生かすアレンジバージョン「確連報」(かくれんぼう)も広く提唱されています。
現代での報連相は、口頭での報告の他、電話やメール、ビジネスチャット、会議、報告書など各状況において、適切な手段を選ぶことも重要といわれています。まずは「報連相」における「報告」「連絡」「相談」の概要とポイントを見ていきましょう。
・「報」…報告
「過去の情報」を主に共有し、基本的に業務を依頼された者が依頼した者に結果や経過を知らせるなど上下関係のある前提で行われる。また、会議やミーティング、報告書などで関係者に広く周知する場合もある。部下がタスクを完了した時点で報告し、上司は状況を把握し、今後の進行管理や各種のフィードバック、軌道修正などを行うなどがその具体的なシーンとなる。
・「連」…連絡
現在進行形で取り組む業務において、業務や予定変更など、関係者に必要な情報を共有すること。連絡は上下関係を問わず、情報を必要とするメンバー全員に対して行われる。連絡には自分の意見や臆測を含めず、事実のみを伝えるのがポイントとなる。
・「相」…相談
今起こっている問題や、これから発生しそうな課題にどのように対処すべきか迷う場合など、一人では判断が難しい場合に、上司や先輩、同僚など他の人に事情を話し、参考意見を求めること。問題が生じるなどの予測ができた時点で、早めに相談するのがよいとされる。
また、報連相で上司が心がけるべきポイントは、「おひたし」という言葉で語られます。それぞれの項目を見ていきましょう。
・「お」…怒らない
部下からの報連相に対し、怒りや感情的な態度をぶつけることで、部下を混乱・萎縮させ、適切な情報共有をしにくくする状況は避けるのが賢明。まずは部下の言うことを傾聴し、理解する姿勢を示すなど、コミュニケーションを歓迎することが大切。
・「ひ」…否定しない
上司の側が、部下の報告などを頭から否定すると、部下の側はコミュニケーションに苦手意識を感じ、適切な情報共有がされなくなるおそれがある。まずは部下の言葉や意見を受け入れてから、上司としての意見を伝える姿勢が重要となる。
・「た」…助ける
部下が問題を1人で抱えないよう、いつでもサポートする姿勢を示すことが大切。報連相の内容をよく聞いて状況を把握しつつ、部下をケアすべきかどうかを常に気にかけ、問題を感じた場合は早めに助け舟を出す。
・「し」…指示する
部下の経験やスキルに応じて、最低限の必要事項を伝えたり、ヒントや指示を出したりするなどで、部下の自主性を損なうことなく、適切な対処に結びつくように導くことが大切。指示を行うときには、その根拠や理由、背景なども論理的に伝えることがポイントとなる。
さらに、部下が「こんな状況に陥っていたら危機的」という状況を示すのが「ちんげんさい」です。具体的な内容を理解し、危機回避に向けた対処を行いましょう。
・「ちん」…沈黙する
部下が沈黙し、適切な報連相が行われない状況。これにより業務に必要な情報が不足し、成果やパフォーマンスにも悪影響を与えかねない。上司は部下の様子に気を配り、状況に応じて自分から声を掛けるなどで、コミュニケーションの敷居を低くするのがコツとなる。
・「げん」…限界まで言わない
部下が限界までものを言えなくなっている状況。結果的にトラブルや問題が隠ぺいされた状態となり、対処が遅れて業務にも支障をきたす可能性がある。上司は部下に自分から声を掛ける、定期的に様子をきくなど、何気ない話題でも気軽に話せる雰囲気をつくることが大切。
・「さい」…最後まで我慢
部下が抱えたストレスや不満を我慢しており、解放できない状態。問題の対処が遅れがちになるだけでなく、部下の心身や健康に悪影響をきたすおそれがある。普段から部下の様子に気を配り、声掛けや働きかけを行うことが大切。
報連相とともに「おひたし」を心がけ、「ちんげんさい」に注意することで、メンバーが適切にコミュニケーションできる状況を作り、チームワークを高めていきましょう。
企業に与えるインパクトは?
働き方が多様化する今、業務上のコミュニケーションロスが商機逸失につながる可能性もあります。スムーズなコミュニケーションがより企業にとって重要な要素となりつつあります。
ただ、留意すべき点もあります。例えば、厚生労働省の「風通しの良い会社をつくるほうれんそう(報・連・相)」によれば、先に触れた著書『ほうれんそうが会社をつくる』を挙げ、「著書では、管理職がイヤな情報などを遠ざけず、問題点を積極的に改善していくことで、末端社員の意見や提案が伝わる『風通しの良い会社』をつくる手段として勧めている」とし、どちらかといえば、「管理職向け」の提言であったことを示しています。この点を踏まえ、上司の側は部下の様子に気を配り、気兼ねせずに発言できる円滑な関係を築く必要がありそうです。
ところで、先述のように時代に合ったスローガンとして「確連報」(かくれんぼう)を提唱する流れもあります。これは、上下関係に「従う」忠誠的な人間関係ではなく、部下が自ら自主的に考えて行動しつつ上司とのやり取りを積極的に行い、互いを評価しともに成長していける現代的な報連相でもあります。では、「確連報」の内容とポイントを見ていきましょう。
・「確」…確認
行動を起こす前または行動中の業務に対し、このまま進行して大丈夫なのかなど部下から上司にあるいは互いに確認を行う。報連相における「報告」は事後報告である一方、「確認」は未来に対して行うため早めに問題対処の方向性や内容を検討できる。リスクの最小化や出したい結果につながりやすい、などのメリットがあるとされる
・「連」…連絡
現在進行形の業務において、計画が予定通りにいくとは限らない。トラブルやその発生が予見される際に、部下から上司にこまめに連絡を行うことで、進捗確認やプランの改善・変更など具体的な対策が検討できる。事後報告では対応が遅延する可能性もあり、都度、連絡を入れて調整するのが重要なポイント。
・「報」…報告
実行で得られた結果を上司に伝える。「想定成果より上か下か」「各種の要因や原因は何か」「改善点はあるか」などを部下が上司に報告する。事前の確認や連絡により、プランの全貌や状況の進捗、問題点などが互いに把握できており、共有してきた情報も多いため報告は簡潔で済み、業務の効率化につながる。
報連相は、部下が上司の指示で行動し堅実に業務を進めるイメージで、一方の確連報は、部下が自己の裁量に基づいて判断しポイントごとに確認・連絡を行いながら業務遂行を行うイメージです。いずれの場合でも、上司は「おひたし」を心がけ、部下が「ちんげんさい」に陥らぬよう、常に気遣うことが重要です。
報連相と確連報については、自社の環境やシステムにより、使い分けが必要でしょう。なお、企業によっては入社したての社員には「報連相」、ある程度業務に慣れてきて、自ら考え、判断できる社員には「確連報」、といったケースもあるようです。
これから予測される課題は?
報連相も確連報も、話しやすい雰囲気や、相手の話を理解し真摯に受け止め、冷静に適切な対応を行う姿勢、末端社員の意見や提案も伝わるなど、「風通しのいい」会社づくりが大切です。コミュニケーションが滞る状況では、報連相や確連報をいくら提唱しても「強い会社」づくりにはつながりません。
なお、連絡や確認、報告や相談などのやり取りには、ITツールなども含めて適切な手段の活用も重要な視点です。ワンアクションで全員に同報可能なシステムや、掲示板など効率的な情報共有システム、生成AIを組み込んだテキストチャットなども有効です。そして、部下やチームがすくすくと育っていくイメージのもと、活気ある社内環境を育むことが必要です。それぞれが相互に耳を傾け注意深く聴く「傾聴」や、相手を尊重しつつ自分の意見を伝える「アサーション」などの技術も不可欠。必要に応じてコミュニケーション研修を行うのも一案です。
社会の不透明さが増す今だからこそ、風通しのよい環境でスムーズに行われるコミュニケーションがチームの結束力を高め、業務を活性化、会社を強くしていきます。報連相や確連報をよく理解し、未来に貢献できる会社づくりを行っていきましょう。
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