いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第18回のテーマはスッキリわかる「リジェネラティブ」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
「リジェネラティブ(Regenerative)」とは、「再生する」「回復させる」という意味で、温暖化や異常気象、自然破壊などでダメージを受けた生態系を取り戻そうとする考え方です。日本語では「環境再生」とも訳されます。近年の地球環境に対する意識の高まりや、国連および日本政府が提唱するSDGsの社会浸透を背景に「サステナブル」という言葉がよく使われます。これは、環境をこれ以上悪化させないようにするのが主な目的で、ゴミの削減やエコ製品の利用などが主な活動となります。そして、サステナブルに基づく取り組みでは環境破壊を抑えることはできても破壊された環境を回復させるには不十分、との考え方にも注目が集まりつつあり、そのため環境を積極的に「再生あるいは回復する」ことを目的とした「リジェネラティブ」な考え方や取り組みが注目され始めています。
「リジェネラティブ」は、環境破壊を減らすだけでなく、自然や社会システムが持つ再生能力を生かし、元の健全な状態へと回復させることを目的とします。例えば、不耕起栽培や有機農法などのリジェネラティブ農業、ブルーカーボン(藻場作り)をはじめとするリジェネラティブ水産業などがその具体例となります。
近年は、経済活動そのものを生態系と共存させ環境の再生をめざす「リジェネラティブ・エコノミー」の考え方も盛んになっており、自社製品をリジェネラティブ農業で栽培した材料で賄うなど、リジェネラティブなアプローチを掲げる企業も増えています。
SDGsの社会浸透に伴い、日本でも「サステナブル」という言葉が身近になりつつありますが、一歩踏み込んだ概念として注目を集めているのが今回のテーマである「リジェネラティブ」です。サステナブルでは、未来に向けて地球環境をこのまま持続させる、つまり「問題の悪化を防ぐこと」に重きを置きますが、「リジェネラティブ」はすべての生物にとって良い状態になるよう、積極的に再生・回復させていく、つまり「問題の悪化を防ぎ、再生させる」ことを重視しています。
サステナブル(名詞…サステナビリティ)
<定義>
将来の世代のニーズを満たす能力を損なう事なく、現在の世代のニーズを満たすことができる状態。地球に対するネガティブな影響を減らす、つまり「環境負荷のできるだけ少ない方法で生活する」ことが考え方の中心となる。
<主な活動例>
・ゴミを減らす
・エコ製品の利用
・クリーンエネルギーの利用
・リサイクル
・働き方の改善
・不平等の解消
・持続可能な消費生産形態を確保
・持続可能な都市および居住を実現
・飢餓や貧困をなくす
・すべての人への質の高い教育を確保
・すべての人々の健康的な生活を確保
・海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用
・平和で包摂的な社会を促進 など
リジェネラティブ(名詞…リジェネレーション)
<定義>
単に環境破壊を減らすだけでなく自然や社会システムが持つ再生能力を生かし、元の健全な状態へと回復させることをめざす。環境だけでなく経済や社会にも、持続可能な循環を生み出すことが最終目標となる。単に損失を補うのではなく新たな価値を生み出し、地球と人類の未来を積極的に再生するビジョンに基づく。
<主な活動例>
・リジェネラティブ農業
不耕起栽培、被覆作物の利用、輸作、化学肥料・農薬の不使用などにより、微生物や虫をはじめとした生態系を取り戻して自然環境を改善、人間も無理なく持続できる農業をめざす
・リジェネラティブ建築・デザイン
人間の住みやすさだけを重視せず、周囲の自然環境に配慮し、人と自然に無害な素材やエネルギーを使い、再利用が可能でライフスタイルの長い設計など、自然の恵みを生かして快適に暮らすための空間づくりをめざす
・リジェネラティブ・ツーリズム
単に旅行を楽しむだけでなく、旅行先の文化や地元住民の生活を豊かにすることをめざす。地元の農産物を食べ、地元の人々とふれあい、野生動物の保護活動や植林活動にも積極的に参加するなど、リジェネラティブに楽しめる旅行をめざす
・リジェネラティブ・ファッション
衣類の大量生産・大量廃棄を減らすだけでなく、リジェネラティブ農業で栽培されたコットンを使うなど、使用する素材そのものをリジェネラティブにするアプローチをめざす
・リジェネラティブ漁業・水産業
海藻の生息地におけるブルーカーボン(藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素)貯蔵量は、全体の割合としてはさほど多くないものの、海中では長期間の保存が可能ため、気候変動対策として大きく注目されている。海や川の環境を改善する手段として、また栄養が豊富な食材として海藻に着目する企業が増えている
・リジェネラティブ・アーバニズム
市民が暮らしやすく、なおかつ災害に強い町づくりをめざす。具体的には地震や台風・津波といった自然災害に強く、万が一被災しても対応できるようなシステムを構築する
地球環境を維持するだけでなく、より良いものへと再生させる意味を持つリジェネラティブ。今後、さまざまな場面で耳にする機会が増えるでしょう。
企業に与えるインパクトは?
リジェネラティブの概念を経済に取り入れたのが、2010年に「Capital Institute」が提唱する「リジェネラティブ・エコノミー」(再生経済)で、人間は自然の一部と考え、すべての人にとって安定し健康で、持続可能で循環していく生命システム科学に根差した経済システムです。「リジェネラティブ・エコノミーの8つの原則」を見ていきましょう。
1. 適切な関係性(In Right Relationship)
「私たち」とそれ以外のものに線引きをせず、相互につながった生命のネットワークの中にいて、すべての場所につながっていると考える。ネットワークの一部に損傷を与えると、波紋が広がり、他のすべての部分にも害を及ぼす。私たちは互いにつながって生きているのだという認識を常に持つことが大切。
2. 富を総合的に見る(Views Wealth Holistically)
真の豊かさとは、単に銀行のお金ではなく、全体の幸福という観点から定義され、管理されるべき。豊かさはすべて、自然という資本、特に健全な生態系の上に成り立っており、人間経済を含むすべての生命が依存していることを忘れずに。
3. 革新的、適応的、応答性(Innovative, Adaptive, Responsive)
変化が絶えず存在し、加速している世界では、イノベーションと適応性の品質がものを言う。個々の欲求や欲望にとらわれず、変化の波に乗り、本質的なニーズに対応していくことが大切。
4. 権限をもって参加(Empowered Participation)
相互依存的なシステムでは、調和は何らかの形で全体の健康に貢献することから生まれる。自分自身のニーズを交渉するだけでなく、権限や力を用いて、より大きな全体の健康と幸福を可能にするような方法で、より大きな全体と「関係」することが大切。
5. コミュニティーと場所の尊重(Honors Community and Place)
人間のコミュニティーは、地理や歴史、文化、環境などによって独自に形成されており、人々は歴史と場所から独自の情報を得て、健康で柔軟なコミュニティーを育んでいる。コミュニティーと場所は独自のパターンで構成されており、それらを理解し尊重する姿勢が大切。
6. エッジ効果を使う(Edge Effect Abundance)
川が海と出会う塩性湿地には、相互依存する生命が豊富に存在するように、創造性と豊かさは、システムの「端」で相乗的に繁栄する。エッジを越えて協力して作業し、そこに存在する多様性から得られる継続的な学習と開発を行うことは、コミュニティーと関係者の両方にとって大きな変革をもたらす。
7. 丈夫な循環を作る(Robust Circulatory Flow)
人間の健康が酸素や栄養素などの強固な循環に依存しているのと同様に、経済的な健康も、すべての生物学的システムと同様に「循環型」のエネルギーと強固な循環の流れに依存する。経済においても、お金や情報、共感の循環を積極的に行い、毒素を洗い流せる健全な循環フローを作ることが大切。
8. バランスの追求(Seeks Balance)
バランスを保つことは、全体の健康に不可欠。調和を達成するためには、どちらか一方を考えるのではなく、両方を考えることが必要。健全なシステムは、男性と女性、分析的と直感的、多様性と一貫性など、一つの変数を犠牲にして最適化するのではなく、複数の変数を統一された全体に調和させることでバランスを取っていく。
現在、リジェネラティブなアプローチを行っている企業も増えつつあり、その代表例を見てみましょう。アウトドアブランドであるパタゴニア社は、1996年、製品にオーガニックコットンのみを採用する決断を下し、土壌修復や生物保護、農家の生活向上を目的にリジェネラティブ・オーガニック農法によるコットン栽培に取り組んでいます(「リジェネラティブ・オーガニック農業は土壌を修復し、動物福祉を尊重し、農家の生活を向上させることを目的とします」とパタゴニア社「なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか?」に書かれています)。
その他、ネスレは、2025年までに主要な原材料の20%を再生農業により調達し、2030年までに50%を再生農業により調達することを目標としています(ネスレ「再生農業」)。世界最大のスーパーマーケットチェーンの米ウォルマートは、2020年9月、「リジェネラティブ」な企業に向けた目標を発表しています。同社は、2040年までにゼロエミッション(人間の活動から排出される廃棄物や温室効果ガスをゼロにする試み)の実現、2030年までに少なくとも5000万エーカーの土地と100万平方マイルの海を保護、管理、回復することを宣言しています。
これから予測される課題は?
ここまで見てきたように、地球の未来のためのキーワードである「サステナブル」と同様に、「リジェネラティブ」な概念や動きへの対応が企業にとって重要な課題となるでしょう。例えば、今後の経済活動には、自然の生態系を守り共存していく「リジェネラティブ・エコノミー」(再生経済)の考え方が必要となるはずです。こうした具体例なども見てきました。リジェネラティブの実現に向けた取り組みや考え方を示すことは企業の存在価値や企業イメージの向上、優秀な人材の確保にもつながります。この機会にリジェネラティブに関して、自社で何ができるか、考えてみるといいかもしれません。
SDGsを実現するソリューションも増えています。「SDGs」「脱酸素」「サステナブル」「環境再生」「環境貢献」+「ソリューション」などでたくさん出てくるので、自社に合ったものを探し、今後のアプローチに結び付けていくとよいでしょう。
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